91-最っ高の自己満足を目指して
朝だ。気持ちのいいぐらいの朝だ。
───捕虜をGETしてから早一週間。アリエスの存在は順調にアリスメアーに馴染み、特に軋轢もなく生活させることができていた。
三銃士を筆頭とした幹部陣も、憎悪の魔法少女からも、大した反発は出ていない。
まぁ、宇宙人っていう未知の存在、それも友好的なのは敵意よりも物珍しさが勝ったみたいで、質問責めで宇宙のあれこれを逆に聞き出している始末。
うん、順応が早い。
アリエスも徐々に慣れてきたのか、キョドりながらでも会話に応じようと……少しでも己の存在意義を果たそうと頑張っている。
一応、安全確保の為に、オリヴァーことオーガスタスの固有魔法を使用させた。契約魔法っていう、これとこれは約束しようね、破ったらこうだからね、っていうのを魔法でし約束して縛る、文書面魔法面での誓約もさせてある。
内容は、リデルを攻撃しないこと。
攻撃しなければ、監視下とはいえ普通に生活させるし、潜入捜査()も続行させてやる。こっちから攻撃しないとは書いてないのがミソ。
そんなわけで、一応リデルの安全は保たれてる。
「契約完了───破れば“死よりも酷い目”に遭う。精々、気を付けることだ」
「は、はい……」
「ふーん、紙を媒体とした契約……これ、こっちで適当に保管しとくね」
「頼んだ」
魔法の契約書は金庫に入れといた。物理と電子と魔法の三層防壁、果たして宇宙人に突破できるかな?
できたらもう解放でいいよ。空まで連れてってあげる。
ちなみに、この間も魔法少女との小競り合いは継続中。宇宙人の襲来が無くても、ユメエネルギーの回収は急務、だからね。
ゾンビ共と僕は不参加だけど。そこは、ね?
ちょっとした手心も加えてやって、少し変わった日常を今は送っている。
……アリエスを尋問してわかったけど、第二波で将星も来る予定だったのだとか。でも、今回僕が一部の将星を再起不能(オブラートに包んだ言い方)して、置き土産もやっちゃったから、多分変更される、かも?
うん。やらかした。
あの水の人に衝動的に仕掛けた魔法、多分ヤバい具合に決まっちゃった。
何人死んだんだか。多分、証拠もないから僕の仕業だとバレることはない。例のライオン丸も、わざと報告せずに暗躍するだろうってのがアリエスの見解だし。
取り敢えず、見なかったことにしよう。
僕は悪いことしてない。いいね?悪いのは侵略してくる異星人共だ。
さて。
「何の用」
「え、用がなきゃ来ちゃダメなの?」
「帰って?」
「や♡」
なんでアリスメアーの本部にリリーライトがいるの?
すっごい当然みたいな顔してお茶会に居座って、呑気に紅茶を飲んでいる。このボケナス、どうしてやろうか……そもそもどうやって入った。
……おいそこの鏡女。利敵行為やめろって言ったよな。
ぶっ殺すぞ。
「だって!早く連れてかないと殺すってメールがいっぱい届くんだもん!!怖いよ!流石のワタシだって二回三回も死にたくないよ!!」
「だからって最高戦力連れ込むのはナシだろ!!」
「そこはラピピがなんとかしてさ!あとちょっとぐらいは交流しとこって!」
「それが本音だろ!?」
「うん!」
「正直ッ」
鏡で連れてきた戦争犯罪者は後で追加制裁するとして、本当にどうしてやろうかな。いい加減、脳みそに電極でも埋め込むか。いや、そんなことするよりスリープモードを起動すれば……でもそれを強要するのは……うぅむ。
……まぁ、いつも通りでいっか。
無理言って蘇生させたんだ。コラテラル・ダメージってゆーのでいいでしょ。
そんなわけで、勝手に居座るリリーライトの隣に椅子を持ってきて、座る。
「んふふ」
「笑い方キッモ」
「言葉の暴力やめて……それで、あの子が噂の宇宙人?」
「うん、うちの枕だよ」
「あれ?」
いや、もう我慢できなくて、遂……不眠症の僕があんな快適に寝れるとか、もう寝具として再就職した方がいいと思うんだよね。将星やめたら?向いてないよ。
昨日もチェルシーとリデルとメードの4人で枕にした。
アリエスも抵抗しないし……どっちかと言うと、困惑が買ってたけどさ。そのまま寝ちゃう辺り、あの子も図太い性格だよね。
……絆されてる?この僕が?爆速で?そんなバカな。
現実逃避がてら、ティーポットの中身をカップに注ぐ。流石は夢の国産の魔法のポット。中身がまだ熱いまま……世に流れたらぶっ壊れるな。
やさしくお腹に流れる紅茶を啜り、ほっと一息。
「アリエス、おいで」
「? ふぁい……ふぇっ、あの、あのあのあの。その人はまさかですけど!?」
「あぁ、もう知ってるんだ?リリーライトです。この子の元相棒でーす。どうぞよろしく」
「よ、よろしくお願いします……?」
「んっ、よくできました」
「めぇ…」
芝生の触り心地を堪能していたアリエスを呼び寄せて、ちゃんと挨拶ができたご褒美に頭を撫でてやる。うんうんかわいいね。従順でなにより。
……ねぇ、やっぱり僕魅了にかかってない?
後で精密検査しよ……若しくは、アリエスの魅了体質をどうにかするか。
……多分、純粋に絆されてるだけな気がしてきた。え、こんな軽い女だったっけ、僕。
うーん……いや本当に触り心地いいなこいつの髪。
「ねぇ、その人年上なんだよね?」
「何歳だっけ」
「えっと確か……217、です」
「平均年齢幾つ???」
「500ぐらい、ですかね……あ、でも最高年来は1000歳ですよ」
宇宙人っていうかズーマー族やっば。動物由来だから、寿命とか短いもんだと思ってたんだけど。へぇ、こん中で四番目ぐらいにおばあちゃんなのか……
ちなみに、一番はルイユ、二番目がメアリー、三番目はリデルだ。
ババアしかいねぇ。
「ねぇ、久しぶりにさ。2人で配信しようよ。敵同士でも私たち仲良いんですよ羨ましいでしょーって自慢する特別配信ってのをさ」
「需要が限定的すぎる…」
「えぇ〜、ダメ?」
「めんどい」
もう散々配信ウケすることした、いやされたから。十分自慢できてると思うし。そも、いらん情報で視聴者の思考回路に邪念を挟むのは僕も望むことじゃない。
……宇宙の出方次第で、こいつとも決着をつける必要があるんだ。
そう仲良くしていられるか。
本音を言えば、面倒臭いこと全部放棄して、自由気侭にのんびりしたいけど。
そうも言ってられないから───その巫山戯た提案は、全部却下する。
「で、後輩ちゃんたちはなにやってるの……あれ、なんか配信魔法ついてんじゃん」
「あぁ、野良の宇宙怪獣と戦ってるよ」
「……そういやこの前わざと見逃してたわ。成程、成程。無駄な悪足掻き、頑張れ」
「認めてあげてよ〜」
「明確な弱点がある連中をどう使えと?オマエも含めての話だからな?」
「ちぇ」
わざと対空兵器に隙間空けて、降りて来れるようにした過去忘れてたわ。
うん、頑張ってるねぇ……なにあいつでっか。
カマキリってあんな大きくなれんの?重力が違うから、とかかな?
「思ったんだけどさぁ」
「うん」
「あーゆークソデカ生き物って、どうやって子孫作んの?
繁栄行為した瞬間地面抉れそうでウケるんだけど……君はそこんとこどう思う?」
「クソ下世話だなぁ、としか……でも、確かに。巨体同士ヤバいね…」
すっごいくだらない疑問が湧いてしまったんだ。どうか許して欲しい。
……ねぇ、よく見たらあいつの腹、卵ない?えっキモ。
「わぁーお。死んだ瞬間全世界展開散布だな。読めたわ。まったく、人類終了のレパートリーって多いよね」
「そうだね、ちょっと焼いてくる……お?」
「……やるじゃん。穂花ちゃんも成長したねぇ……でも、あの夢想魔法とかいうのインチキすぎない?つーかあの子とうとう躊躇いなく消滅させやがったよ?最初の葛藤とか何処に行ったんだよ」
「覚悟は決めた、だってさ。大丈夫、悪い風向きには私が絶対にさせないから」
「そう」
穂花ちゃん……リリーエーテの夢想魔法が、カマキリの特大卵群を全滅させたのを確認してから、画面壊しに他の2人も含めた成長を見届ける。
うん、強くはなってるけども。うーん、癪だな。
ここまでやったんだ。徹底的に潰して、僕が思う通りに世界を動かしたい。
勝つ為の最短ルートを、最も犠牲が多く、そして少ない最善策を僕は選んだ。
地球の放棄も、人類の夢幻逃避行も、僕の再葬も。
全て、全て、全て。
「アリエス。本業は順調かな?そろそろ纏めて、雇い主に送るべきだと思うのだけど」
「えっ、えぇ……い、いいんですか?こんなの…」
「いいのさ。利用できそうだし、お互いに利用し合うのが彼との健全な付き合い方になるだろうから。うん、目指す到達点は違えど、その道程はある程度の融和ができると、僕は思うんだよねぇ」
「……よく、わかりませんけど。わかりました。今日にも書いて、送っちゃいますね」
「あいよ」
この前呪詛爆弾にした水女の記憶から読み取ったけど、ライオン丸くんは大変野心家だ。是非とも此方に取り込み利用していきたい。
王様に黙って暗躍する反逆者なんて、いいじゃないか。
クソみたいな性格だろうけど、他人をちゃんと利用して利益を得れる力は賞賛したいところ。
惑星の王様になった経緯も物騒この上ないけど、いやぁ素敵ですね。やはり暴力は全てを解決する。それでいて、ちゃんと善政を敷いて、賛同者も星単位でいるんだ。彼は素晴らしい宇宙人だと思う。
うん、アリエスに嫌がらせ地味た仕事を押し付けるのは頂けないけど、不満はそれぐらいかな。
……めちゃくちゃ称賛してるな。まだ会ってないのに、好感度がたかーい。
殺すの躊躇いそうでヤダ。
やっぱ、事前情報あるのとないとで違うな……決めた。サブプランに組み込もう。
悪夢が負けて、希望が勝っても───最悪、どうにでもなるように。
「それじゃあアリエス、報告書を書いてるとこは後ろから見させてもらうから。邪魔はしない……もしも伝達させる予定のない情報があったら、勝手に添削しちゃうけども」
「えっ」
「勿論、思ったことはそのまま書いていいよ。報告書とは名ばかりの感想文でも、多分許されると思うし」
「……めぇ…」
「はい鳴かない。書くよー。あと穂希、オマエも帰って。配信とかはまた今度、ね」
「えっ、やったー!おけおけ!またね!」
「めぇ〜!」
涙目の羊を引き摺って、いつまでも勝手に居座る太陽を追い出して、突発的なお茶会は幕閉じにする。
さぁさぁ……これからどうなるのか。
多分素敵な未来に乞うご期待、ってことで。暫く書斎に閉じ篭るとしようか!
おやすみ!
不眠解消枕になった結果、ラピスの目のクマが取れ始めて賞賛されまくってる宇宙人がいる話する?