90-やりすぎなのがちょうどいい(本人談)
魔王からは逃げれない
なんか夢の中に侵入者いたから、取り敢えず数減らして残りをとっ捕まえた件。
いやぁ〜、まさか僕が魅了にかかるなんて。
怪人仕様なら完全に無効化できる自信があったけど……宇宙産は無理だったか。
まだ精進の必要があるね。
……まさか、羊ちゃんを夢から引きずり出した光景を、盗撮されてるとは思わなかったけど。
なんか最近僕のプライバシー危うくない?なんなの?
苛立ちは、こう、なんとか押し込める。一応リデル也に僕を心配しての行動だってことは、渋々理解したし。何故配信をつけたのかは、ゾンビ化した僕を視聴者たちが多少受け入れられるようにする為とかなんとか。
安全確認とかそんなんか?いらんだろ別に。
アリスメアーのイメージ改善で、裏で色々やってた僕が言えたことじゃないけども。
ねぇ?
「ようこそ地球へ」
「あばば……見ないで…こっち見ないで……」
「うーん陰キャ。人見知りすっご」
「めぇ…」
僕の身体にしがみつき、必死に視線から逃れようとする羊星人こと、アリエス。ビクビク震えるのがデフォなのかずっとこの調子だ。
……捕虜GETを全世界に配信したのはマズったな。
流石に予想外だったから仕方ないとは言え、ちょっとは対策しないとか。
さて、この暫定捕虜を部下たちにお披露目しないと。
「暗黒王域の十二将星っていう、“星喰い”直下のつよつよ異星人一体を確保したよ。地球の実態とか、そーゆーのを調査する為に送り込まれたみたいだよ。不本意で」
「うひっ……あ、アリエスです。殺さないでください」
「めっちゃ怯えてて草」
「なにしたのラピスちゃん」
「一緒に来てた将星一体即殺して、もう一体は色々やって逃がしちゃっただけ」
「最強かオマエ」
「ですが?」
うちと部下より先に口を挟むゾンビーズは、ちょいっと黙っててもろて。
僕の視線は、剣呑な目付きのチェルシーに向かう。
「……いい枕になりそう…」
いつも通りでした。
確かに気持ちはわかる。今もモフモフの羊髪を無許可で触ってるけど、めっちゃいいんだよねこれ。
……あれ、まだ魅了かかってる?
冗談はヨシとして。まぁ、あの時の対応がなかったら、容赦なく殺してたよね。世渡り上手というか、生きる為に必死というか。
……安眠できそうな身体してんなこいつ。本当に抵抗も反抗もしてこないとわかれば、拘束して一緒に寝て、偶に寝るのも悪くないかも。
うん。良さそう。
取り敢えず、こいつは僕の傍に置いておこう。万が一、宇宙攻撃されたら堪んないし。
……警戒すべきは、こいつじゃなくてその裏、か。
ライオン丸なぁ。なんだあいつ。宇宙にも俺様男子っているんだね。
つーか宇宙の勢力図がややこしいったらありゃしない。なんだめんどくせぇ。
全員敵でいろよ。
……衝動的に将星やっちゃったの、マズったかなぁ……でも仕方ないよね。殺せる余地を作った相手が悪い。そも侵略者に容赦する必要ないし。
アリエス?あれはほら。命乞いを無碍にする程、僕まだ腐ってないし?
もう一体の、記憶読み取った方は……もう死んだかな?
どうでもいいけど、敵の数を減らすのは大事だからね。うんうん。許されよ許されよ。
許された。ありがとう!
最高の自己決定を下したところで、アリエスをこれからどう扱うか考える。
……地球の常識とかを教えて、地球に来た意義ぐらいは叶えてやるか。まったく、偉い立場になっても故郷に十分な支援がされてないとか、どうなってんだ暗黒銀河。
可哀想だから、調査と報告ぐらいは許してやろうか。
そもそも、あの侵入も逆らえない相手の独断専行とかで始まったみたいだし。
不憫だな。個人的にも、情報を得た将星がどんな動きをするのか気になるから、特に止める気はない。情報制限は流石にするけど。
……勿論、今日から少しは時間を空けて、ね。
一先ず死んだと思わせよう。あのライオン丸も、下手に話せないだろうし。
いやぁ〜、便利な内通者ができた。死ぬまで利用して、最後は盛大に捨ててやろ。
僕にとって大事なのは、何処までいってもこの星、地球なのだから。
「私の安全は?」
「自衛の一つや二つぐらいできるだろ」
「……えっ、あの。もしかして。このちっちゃい子って、地球の夢星だったり…」
「なぁにそれ。ユメエネルギーの大事なパーツなら、多分そう」
顰めっ面のリデルと、はわわと顔面蒼白のアリエスに、僕は過去最高の笑みを見せる。
どうとでもなるやろ。
……あっ!ここで活躍するのがオリヴァーの魔法じゃんめっちゃ忘れてたわ。
後でやらせよ。
꧁:✦✧✦:꧂
───暗黒銀河の一角、とある将星の根城である大分部が海水で構成された小惑星。
“宝瓶宮”と称される水の世界に、今。
「───かハッ!…はァ、はァ……」
夢の世界から帰還した、否、精神を回収した敗残兵……将星メーデリアが、息も絶え絶えに、なんとか自我を保ち生還する。
布団の上で、なんとか呼吸を整える。
……彼女が夢の世界から脱出できたのは、事前に身体を二つに分けていたから。夢の世界に入る身体と、宝瓶宮に残る身体の、その二つに。
オーシェネリア星人の液体化の特性と、転移魔法による残機の創造により、彼女は逃げ延びた。万が一を想定して単独で逃げる方法を確立していた過去の己を、内心全力で褒め称える。
「なん、とか……なりました、かね…」
置いていく形になった羊娘が心配だが、こればっかりは仕方ない。そう自分に言い聞かせて、身体を這う根源的な恐怖をなんとか拭う。
もう対峙したくない。
自分たちの最頂点である皇帝と同列の、危険極まりない原住民なんて。
「……陛下に、報告をしなければッ。地球は、不味い……将星程度でどうこうできる相手では……あんなのが、複数いる星なんて、手を出すべきではないッ!」
コテンパンにされた自覚のあるメーデリアは、秘すべき失態を隠すつもりはなく。信望している皇帝に、事の旨を報告しなければならないと、立ち上がろうとして。
瞬間、全身に───耐え難い激痛が走る。
「ガッ、ぁ!?」
手足が痺れる。
呼吸が乱れる。
内臓が、沸々と沸騰するような───絶望的な痛みが、全身を襲う。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
絶叫を我慢できない。泣き叫ぶのを止められない。
霞みゆく思考の中、特に激痛が走る首を掻き毟ながら、備え付けの姿見を見る。
……そこに写る、全身を蠢く黒い紋様に、絶望する。
明らかに呪われているとわかる、感染する死の呪詛に、メーデリアは恐怖する。
全てが、黒に。
黒に染まる。
何故
どうして
なにが ぃ
どうなって 持ち 悪
気
わから ぃ 呪
な わ
れ
痛い
たすけ
ぁ
「メーデリア様!?」
宝瓶宮全体に響いた声量に焦り、慌てて駆け寄ってくる己の右腕、忠臣。回復術師でもある彼女の登場に、一瞬、メーデリアは安心した顔をして。
無意識に、呪いに侵さた手で、彼女の腕を取る。
助けてと。そう声に出そうとする───その結果など、火の海を渡るより明らかなのに。
「ぁ、ぁ?」
「ッ───ぞ、んなッ…」
「ごほっ、ぅぁ」
触れた手から、黒い蠢きが。呪いが感染して───…
無遠慮に触れられた忠臣は、全身を真っ黒に染めながら絶命した。
メーデリアは、茫然と、その最期を見届けるしかなく。呪いが回った自身も、激しく吐血して。全身が粟立つ奇妙な感覚を最後に。
思考の全てが黒に染まる。
───そして。“虚雫”の呪詛は、爆発する。
全ては黒に。
星一つを呑み込む、彼女の憎悪が、殺意が形になった、滅びに侵される。
濃密な死の勢いは、止まらない。
───調査報告。
先日未明、“宝瓶宮”周辺で発生した大規模呪詛災害での被害を報告します。
宝瓶宮内部の生命反応は、ゼロ。
海水を含め、全てが黒い毒に染まり汚染されていたのを確認。
踏み込んだ調査隊は、空気中に漂う呪詛に触れた瞬間、最高防護装備ごと汚染され、全滅。
感染は今も尚拡大中。
十二将星、“溢水叛土”のメーデリア・アカリュリス様の行方は現在も不明。同時に、同星“剛鉄貫牛”のタウロス・アルデバラン様、“夢幻包羊”のアリエス・ブラーエ様との連絡もつかず、生存不明。
捜索活動も難航中。
同時期に消息を断っていることから、なんらかの関係があると踏み、捜索隊を再編成。同時刻、同星“金色獅子”のレオード・ズーマキング様より特別編成部隊が派遣され、周辺地域から同星及び生存者の捜索を開始。
現在時点で16人の生存者を発見。
薬草院にて高度治療中。
被害規模は宝瓶宮を中心とした超広域───銀河皇帝、ニフラクトゥ・オピュークス陛下の王命により、暗黒銀河該当区域の放棄が決定。
帝国領域の3%を喪失。
現在、同星の“天魚雷神”様、“恋情乙女”様の結界により呪詛拡大の抑制に成功。
但し、研究チームによる抗呪開発まで持つかは不明。
今回の事態を重く見た皇帝陛下により、緊急事態宣言が発令され───…
魔法少女は怖い生き物です!