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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
ユメを喰らうモノ

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88-夢を渡った、その先で


 “夢渡り”───それは、夢と夢を繋げ、夢の持ち主まで空間を超えて跳ぶ、幻羊一族における古い魔法。かつては多くの使い手がいたが、時流の荒さには逆らえず。今や、先祖返りした将星、アリエス・ブラーエのみしか使えない種族の秘技と成り果てた。

 そして、現代では魔法の形が大きく変わり……

 不特定多数の、それこそ全宇宙の生き物の夢と夢から、行きたい場所を探さなければいけないほど、膨大な夢への干渉が必須になってしまつた。

 生き物の数だけ夢はある。その夢全てが繋がる空間を、生身で渡る。


 下手をすれば夢に自我を呑まれる異空間に、将星たちは侵入して移動する。


 肉体を夢の世界に移した、生身での強行軍をもって。


「相変わらず、だな」

「混沌としていますね……今、これほどの数の生命が夢を見ている、ということですよね?」

「そうなります、ね……問題は、地球のニンゲン?が夢を見てくれてないと、繋がるものも繋がらないんですけど」

「座標は」

「事前情報通りの場所を……えっと、こっち、ですかね」

「……これでアリエスが迷子体質だったら、私たち絶対に辿り着けなかった自信があるわ」

「同じく」

「はひ…」


 複数の夢が入り交じる、文字通り混沌とした世界。

 子どもが楽しく遊んでいる夢から、冒険の夢、大好きな誰かとの夢、成功者の夢、なにもかもが思い通りな夢……果てには、空から落ちる夢、正面から車に追突される夢、浮遊感を味合わせる夢、箱の中の夢、終わらない旅を延々続ける夢まで。

 多種多様な夢が、整合性もなくツギハギの状態で世界を彩っていた。


「ぐっ、一瞬意識が」

「……気をしっかり待て。少しでも油断すれば、すぐさま悪夢の虜だぞ」

「えぇ」


 複数の夢が繋がった異空間の隙間を縫って、アリエスの先導に従う、タウロスとメーデリア。

 彼らにとっては未知の世界。恐る恐る、突き進む。


 目的地は地球。その中でも魔境とされる、日本。そこで眠っている誰かの夢を通して、地球に入り込み、長期間の潜入をするのが将星たちの目的だ。

 宇宙全土を見ても天上人である最高幹部がやる仕事ではないが、そこには目を瞑るとして。

 

 暗黒銀河から遠く離れた地である地球だが、夢を渡れば本来の距離を大胆に短縮できる。

 迷わずに通れたら、の話となるが。


「な、なにかあったら守ってくださいねぇ…」

「安心しろ。俺は銀河一の盾。陛下の一撃さえも受け止め耐え切った防御力は、現実世界で無かろうと健在。障害は全て、俺たちに任せろ」

「えぇ、任せっきりでなにもしないなど、将星の名折れ、ですからね」


 夢の世界へ入るのも、渡るのも、そして出るのも。全てアリエスがいなければ不可能な超絶技巧。故にタウロスとメーデリアは、アリエスの護衛も兼ねている。

 万が一、夢の世界に干渉し、攻撃してくる敵が現れてもいいように。


 念には念をと、警戒を強める2人に挟まれて、少しだけ居心地の悪さを感じてしまうのは……アリエスの性根が、それだけ臆病なことを示していて。

 改善しなきゃな、と内心反省しながら、地球人類の夢を探し出す。


 夢を通してその地に降り立ち、夢の持ち主の隣に実態を現出させる。

 “夢渡り”の真骨頂───空間転移を成功させる為に。


「! こっちです!近い!」


 遂に、アリエスが目的の夢を捕捉する。駆け出す彼女になんとか食いついて、2人も追従。幾つもの夢を越えて、地球の夢が集まる空間へと乗り込んで。

 手頃な夢に飛び込んで、そこを出口にしようと決める、その直前に。


 3人の視界は、一面の“蒼”に支配され───黒い世界に飲み込まれる。


「にゅあっ!?」

「ッ、これは……なにも、ない?」

「いっ、異常事態、かしら」

「めぇ〜……ここも、夢の中、だとは思うんですけど……うーん…?」


 なにもない。一瞬の蒼など無かったように、“闇”のみが視界を支配している。


 一瞬の躊躇いの後、3人は暗闇の中を歩き出す。


 夢の持ち主を見つけ出して、接触すれば、その者の傍に顕現できるから。一度外に出れてしまえば、後は脅すなりなんなりすればいいだけ。

 そう思って、警戒と共に進めば。


 視界が開ける。


「わわっ!?」

「……景色が変わったな。これは、夢の持ち主の見る夢が変わったから、か?」

「わっ、わかんないです…」

「ふむ」


 暗がりなのに変わりはない。足元も、空も、未だ暗闇が広がっている。しかし。先程までの景色と、唯一違う点を挙げるとするならば。

 訝しげに、3人は天を仰ぐ。

 暗闇に、たった一つ。黒紙の地上へ青い光を齎す、その存在に。


───“蒼い月”に、大きな蒼き満月に、魅了される。


 天より将星たちを見下ろす、神秘的な月が。蒼い光を、万物を畏怖させ、魅了する輝きをもって、地球に向かった将星たちを出迎える。


「これが、月…」


 知識だけでしか知らない、地球の衛星。

 自分たちを見下ろす冒涜的なまでの神秘に、アリエスは目を奪われる。


 あまりに壮大で、美しく、そして恐ろしさも兼ね揃えた魔性の月に。


 ……故に。彼らは気付けなかった。気付かなかった。




「こんにちは」




 音はなく。

 風もなく。

 揺らぎもなく。

 気配も、魔力も、前兆も、なにもなく───気付けば、真正面に女が立っていた。


 不気味なことに、歴戦の将星たちにすら悟らせず。


 スカートを履いた燕尾服の蒼い女が、杖を黒面に突いてそこにいた。


「───!」


 突然現れて、此方を認識するボロボロのナニカに、当然タウロスは警戒する。

 矛を構え、いつでも攻撃に移れるように。


 認知の外からの登場に硬直したアリエスを差し置いて、メーデリアもまた、最大限の警戒をもって女を睨む。青い目を冷たく細め、謎の人物を値踏みする。

 なにも、突然現れたから警戒しているだけ、ではない。

 感じるのだ。

 タウロスとメーデリア、かつて起きた惑星間の戦争で、武勇を得た戦士たちはわかってしまう。彼女が纏う襤褸のような衣装や、死に体だとひと目でわかる程の傷痕から、だけではなく。


 目の前の存在から───ニンゲンから漂う、あまりにも濃厚な死の気配に。


 勘づいてしまう。


 何処か見覚えのある気配に。似ている気配に。あまりに恐ろしい、その違和感に。


 ある“怪物”との類似点を感じて───勝てないと。


「……何者だ」

「なにって、この夢の主ですけど。ったく、勝手に人様の領域に入っといて、その態度はなんなんですかね?まぁ、野蛮な宇宙のチリ共には相応しい反応なんじゃない?よく知らんけど」

「好き勝手言いおって……」

「落ち着きなさいタウロス。そう苛立っては、相手の思う壷よ」


 挑発気味に笑う夢の主。目のついた小さな高帽子を指で突きながら、眠りを妨げた無作法者を睨みつける。突然の強襲には驚きはしたものの、彼女───ムーンラピスは、務めて冷静に三者を睨む。

 筋骨隆々の肉体を鎧に押し込んだ牛頭と、身体の一部が液体になっている、見るからに水の塊である女。

 恐怖からかプルプル震えているモコモコ羊の女は一先ず無視して、蒼月の魔人は笑う。


「どうやってここに来たのか、なにが目的なのか、色々と聞きたいんだけど……うん、別に三体もいらないね」

「ッ、貴様」

「選ばせてあげるよ。誰から死にたい?」

「ひっ」

「───あまり舐めないでちょうだい。悪いけど、ここは強行突破させてもらうわ」

「メーデリア、アリエス嬢を頼む」

「えぇ」


 問答もなく、生き残った誰かから情報を抜けばいいかと決断したムーンラピスに、タウロスとメーデリアは全力で突き進むことを決意。

 如何に相手が強者であろうと。やりようはあると。

 そも、ここを乗り越えらなければ、目的を達することも夢から出ることも叶わない。


 先陣を切ったのは、ゴズメズ星人の中でも最強に等しい破壊力と速度を誇る大戦士。


「十二将星が一座、“剛鉄貫牛”タウロス・アルデバラン!いざ、参る!!」

「いいよ、おいで」


 字名を名乗ったタウロスは、両手を胸の前で交差させ、勢いよく駆け出す。目指すはムーンラピス。傍から見ればただ愚直に走るだけのその行為こそ、彼が誇る最強にして最高の技、その序長なのだから。

 質量という暴力に、更に魔力を重ねがける。


「重突魔法───ッ!!」


 あらゆる妨害を踏み倒し、全てを破壊する突進をもって夢の主の無力化を図ろうとして。


 最高速度に達した彼の耳に、敵の声が届く。


「───<ムーン・カウンター>」


 一瞬の輝きの後───静寂が、夢の世界を支配した。


「……え?」

「なっ、ぁ……」

「ふむ」


 茫然とするアリエスと、言葉を失うメーデリアを完全に無視して、ムーンラピスは顎に指を添える。

 自分の推論は当たったんだなと、軽く考えながら。


「動けなくなったから咄嗟に反転させたけど……成程ね。対象の動きを制限すると同時に、絶対に当たると操作した因果律で、全てを貫通する突進を放つわけだ。怖いねぇ、確実に殺しに来てるじゃんか。牛君の逃がさないっていう強い意志を感じたよ……んまぁ、相手が悪かったね」

「そん、な…」

「ッ」


 視線の先にあるのは───両手足を残して、この世から消滅した将星の残滓。


 血液も肉片も残さず消滅させる魔法で、自滅した姿。


 痛みも苦しみもなく、銀河を統べる十二の星の一角が、消え去った。


「さて、次は───どっちにしようかな?」


 悪夢が、そこにいた。


補足:

タウロスくんの魔法は、突進で相手を消し去る、空間ごと標的を抉る技でした。ラスボスである“星喰い”にも、一応通用する魔法です。将星ってこんなんばっか。

でも蒼月には勝てなかったよ。


主人公の存在が反則すぎて、現役の魔法少女たちの活躍が全然盛れない模様。

なんなんだこのゾンビ…

はよ成仏して。

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― 新着の感想 ―
うん、まぁ、そんなことだろうと思ってたよ
蒼月が敵が侵入した夢を発見できるのは、彼女が自分に第35話【追想】希望の13魔法を語るスレ【追憶】で言及した醒睡魔法 を使ったからですか?やはり単純な体質の問題?
知 っ て た 「───<ムーン・カウンター>」  これ魔法少女狩りに使って3連処刑返した魔法かな?何魔法かは聞き逃した感じだけどカウンター(跳ね返し)とみると月・鏡魔法だったりしたらエモいなぁ………
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