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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
アリスメアー、再始動!
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09-魔法少女と寝すぎてる敵


 マネキンアクゥームの戦闘は格闘主体。己の拳と蹴り、植え付けられた武技をもって魔法少女を迎え撃つ。これは宿主である店員が、元ボクシング経験者だったのがかなり影響している。

 動く度、暴れる度にショッピングモールは破壊される。幾ら戦闘勝利後になかったことになるとはいえ、この破壊規模には、温厚なリリーエーテも流石に青筋が立つ。

 けれど怒りに身を任せることはなく、エーテは冷静に、目の前で暴れる悪夢を叩く。


「止まりなさいっ!」


 変身道具でもあるマジカルステッキを更に変化させた、リリーエーテの固有武器である魔杖。他の面々とは違って杖のままだが、その分魔法攻撃の威力は桁違い。

 魔力を乗せた杖の振り下ろしが頭部に直撃。

 棒術と魔法の二つを駆使して、悪の化身に正義の鉄槌を下す。


【アクゥーム!】

「うっ、硬いし、速いッ……」

「ヤケに頑丈ね……これが侵食融合タイプ……」

「名称統一しない?なんで皆バラバラなの?っとと、もー危ないなぁ!!」


:硬くね?

:格闘フォーム!?こいつ手練か!?

:強くて頑丈とか厄介だな

:頑張れ!


 木製の躯体は意外と硬く、魔法攻撃も物理攻撃も等しく耐え忍ぶ。更に武道の構えをとって、その巨体を活かした攻撃をもって魔法少女と激突する。

 頑丈で物理特化。

 体格差はあるが、格闘をもって正義と渡り合える夢魔。拳を打ち込み、蹴りを放ち、関節球体を活かした可動域で大立ち回りを披露する。

 そして、動けば動くほど施設は瓦礫の山に。柱は折れ、売り物は飛散し、建物にヒビが入っていく。

 魔法耐性もあるのか、生半可な攻撃では通用しない。


「強いッ……」

「次はあたしが、あっ、重っ!」

「デイズ、あんた筋力ないなら、別の使い方しなさいって言ったでしょーが!!」

「うぐぐっ……なっ、なんとかなるって!!」


:得物に振り回される女

:重そう

:魔法主体の方がいいのでは……?

:ハニーデイズちゃんの好きなやり方でいいだろ

:意思決定は俺らにないし

:指示厨はお帰りください

:応援してろお前ら

:がんばえー!

:がんばれー!


 3人の武器、リリーエーテは杖、ブルーコメットは槍、ハニーデイズは斧……各々の特性から具現化した魔導具を満足に扱えていない魔法少女がここに一人。

 自分の身の丈よりも大きい斧に、ハニーデイズはかなり苦戦している様子。

 それを見兼ねた、というよりも、ずっと何故使いずらくなっているのか悩んでいたほまるん──実はいた──が、その違和感に気付いた。


「わかった!デイズは魔力を込めすぎなんだ!もちょっと杖に注ぐ魔力を減らせば、手斧サイズになると思うよ!」

「そうなの!?」

「多分!」


 その提案に従って、ハニーデイズは斧を一度元の形に、マジカルステッキに戻してから、再び魔力を注入。妖精の忠告通り、考え無しに魔力を込めるのではなく、ちょっと気を引き締めて流し込む。

 ……そうすれば、ほら。小柄なハニーデイズでも手軽く振るえる手斧が現れた。

 ほまるんの言う通りであった。


「できた!!」


:おおー!

:弱点克服!

:展開早


「やったぽふー!流石はほまるんぽふ!」

「もっと褒めていーんだよ!」

「後でね!でもすごい!ねっ、デイズ───行ける!?」

「モーマンタイ!!」


 取り回しのいい手斧をもって、ハニーデイズは超特攻。空中を面で捉えて二段ジャンプし、マネキンアクゥームの後頭部に着地。

 そのまま手斧を振り下ろして、木偶頭を狙い穿つ。


「行くよっ、花魔法<ハニーディバイド>!!」

【ッ、アグゥー!?】

「ヒビ入った!……あれ、あたしってパワー系?」

「今更!?」

「脳筋には相応しいと思うけど。あなたってそういうとこあるし」

「えー?」


 力任せの一撃は、マネキンアクゥームをよろめかせて、更に損傷させる大ダメージを与えることに成功した。脳天部分にヒビを入れた後、デイズは再びマネキンを駆け登り攻撃を再会。勿論抵抗はされるが、その程度の身震いではもう振り落とせない。

 調子を取り戻したハニーデイズの猛攻は止まらない。

 更にはリリーエーテとブルーコメットも参戦し、大きなマネキンを足場に破壊活動に専念する。

 ……魔力を大量に込めて強化したアクゥームが、早くも苦戦している状況。それを見るチェルシーは、弱い夢魔の不甲斐なさに呆れてものも言えず……


「……zzz」


 わけもなく、ずっと寝ていた為なにも見ていなかった。


「んんっ……ん?んぅ……」


:かわいい

:かわいい

:かわいい


「コメント欄!!褒めるんなら私たちを褒めなさいよ!!あなたたち本能に生きすぎよ!!」


:ごめんなさい

:そう言われましても……

:同性でも可愛さには負けるんだ

:ダメなお姉さんでごめんね

:人間は獣


 寝息を立てて熟睡するチェルシーに、ブルーコメットは一先ず放置を決め、劣勢に追い込まれるアクゥームを先に討伐することを優先。

 仮想魔法空間で着々と経験を積んでいる3人は、密かに成長しつつある。故に、本来なら苦戦する初戦であろうと戦えている。

 そこで得た経験を現実でも活かして、3人は敢闘する。


「行くわよッ、星魔法<シューティングスター>!」


 目覚めた魔法の力を使って、アクゥームに槍を投擲。


【アグッ、アググ、アクゥーム!!】


 流星となった槍は見事頭部に命中したが、完全破壊には至らず。突き刺さった星槍をそのままに、マネキンはより激しく大暴れ。

 自信の一撃を浴びても尚怯まない怪物にコメットは顔を顰めるが、ならば連続でやればいいと槍を連投。

 情け容赦のない攻撃が、アクゥームを更に追い詰める。


 そして。


「魔力もだいぶ使ったし、ここで決めるよ!」


 リリーエーテが、ハートが頂点についた杖を差し向け、溜めに溜めた魔力を一気に解放する。

 魔杖の宝石が、淡い光を放って螺旋させ、溢れ出る。


「みんなを怖がらせる悪い夢よ!明るい光に照らされて、いいこになーれっ!

 ───夢魔法<ミラクルハート・シャワー>!!」


 万物を浄化する光の魔法が、アクゥームを呑み込んで、その身に詰まった悪夢のエネルギーを根こそぎ明るい色に塗り替え、染めて、悪夢を浄化する。

 それは魔法少女の十八番の一つ。悪夢を晴らす、覚ます魔法だ。


【アクゥーム!?】


 悪夢の具現化である夢魔が、浄化の光を真正面に浴び、相反するその属性に激しく悶絶する。アリスメアーにより造られた肉体は変質して……根源にある【悪夢】までもが明るい色に染め上げられる。

 宿主にされた店員の、暗く淀んだ心にも、光は届く。

 魔法少女が齎す浄化の光によって、元の形に、よい夢へ元通りになっていく。


 だが。


「ぅ、重いッ……2人とも、カバーお願い!」

「わかったわ!魔力を送る!」

「こっ、こんな感じでいーかなー!?」

「みんなもお願い!」


:あいよ!

:やったれー!

:がんばれ!

:なんとかなれー!

:配信コメントパワー!

:任せろー!


 第二形態のアクゥームは頑丈だ。完全には浄化しきれず形を保たせたまま。このままでは魔力が切れて、不完全な浄化で終わってしまう。悪夢に囚われた店員が不治となり後遺症を抱えてしまうことになるかもしれない。

 それを危惧した魔法少女たち、そして戦いを安全圏から見ている視聴者たちの声援が、魔力に変換されてエーテを後押しする。

 配信魔法を最大限に活かした、魔法少女の為だけにあるその力は。


【───オハヨウダー…】


 見事、浄化の奔流が【悪夢】を貫き、目を覚まさせた。


 粒子となって消えていくアクゥーム。

 憑依融合が解けて分離したマネキンが、音を立てて床に落下する。


「ん、んん……」


 そして紫水晶も割れ、素体にされた店員も解放される。どさっと音を立てて床に倒れた店員は、光を浴びたからか安らかな、安心しきった顔で寝息を立てている。

 無事人質を取り戻した3人は、悪夢との戦いを制した。


 ……ちなみに、配信魔法は魔法少女と敵以外の人物には情報規制フィルターがかかっており、身バレしないように配慮されてある。

 後々に特定もできないよう特殊なシステムが構築されているのだ。


 解放された店員を寝かせて、勝った3人はハイタッチ。


「やった!」

「手強かったわね……」

「勝ったー!」


 初めて戦うタイプの敵ではあったが、3人は難なく討伐することができた。自分たちの成長を実感したのもあって益々喜ぶリリーエーテは、ふと、あまりに静かな敵幹部の存在を思い出す。

 慌てて視線を上にやれば、いつの間にか二階吹き抜けの段差という、とても危ない位置で丸くなって寝ている姿を発見した。


 敵とはいえ流石に心配する。3人は大声で呼びかけた。


「zzz……」

「チェルシーちゃーん!あなたの負けだよー!」

「……ねぇ、ほんとに大丈夫なの?全然起きないじゃない不安になってきたんだけど!?」

「うーん、大丈夫じゃない?あたしの友達も、あれぐらい寝てるし」


:ガチ寝じゃん…

:ベローはチャラ男、チェルシーちゃんはねむねむ…

:キャラ立ってんね?

ペロー@三銃士

:だからペローだっつってんだろ!!

 そんで起きろバカ!

:なんでBANされてないんだよ

:七番煎じ


 一向に起きないチェルシーを、ハニーデイズが率先して回収しに行く。段差を跳び、魔法で空気を凝固させてすぐその場に到着……周りの目を気にせず爆睡をかます、その何処か見覚えのある雰囲気に首を傾げながらも、気にせずチェルシーを地上に下ろした。

 お姫様抱っこをしたハニーデイズは、困った顔で仲間と顔を見合わせる。


「……zzz」

「どうしよ……」

「うーん……」

「……つ、捕まえた、ってことでいいのかしら……」

「罠なんじゃ……」


:困った

:見た目人間だから倒せって言いづらい…

:寝てるだけだからなぁ


「んんっ、ぅあ……んー?」

「あっ、起きた」

「……おあよ」

「お、おはようございます……?」

「呑気ね…」


 何度も揺すられて、ようやくチェルシーは起床。睡眠を邪魔されたことによる怒り、半端なところで夢が途切れた恨みとか、そういうのもあって目覚めたが……今の自分が置かれている状況を理解して、数秒硬直。

 至近距離から顔を覗く敵3人と、お互いどうしようかと固まりあった。


:目と目が合う、瞬間〜

:これどうすんの?

:警察呼んで逮捕……わ、無理か。脱獄されそう。

ペロー@三銃士

:今行くから


 この後、迎えに駆けつけたペローが平謝りして捕まったチェルシーを回収、お開きとなった。

 彼女の出撃は、なんとも締まらぬ形で終わるのだった。


「───いや、ダメだろそれは」


 現地観戦していた帽子屋が、耐え切れず頭を抱えたのは言うまでもない。


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