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01-プロローグ(新)


───魔法少女、とゆーのをご存知だろうか。

 そう、妖精と契約することで地球の平和を守る、世界に仇なす脅威と戦う光の戦士。なにもできない無垢な人々に安寧を齎す、未成年の女の子……いや、使命感がすんごいパワー溢れるやべーやつら、って言った方が正確かな。

 とにかく、そういう頑張ってる女の子が魔法少女だ。

 そんでそんで、こっからが本題で───日曜の朝とか、深夜とかで人気になるジャンルにありそーなそれが、この世界では現実にある。


 実際に魔法少女が戦って、平和と秩序を守っている。


【───アクゥームッ!!】

「きゃーっ!」

「ッ、怪物だッ!逃げろー!」

「また出たぞー!」

「うわぁー!?」

「ひぃ」


 眼下で逃げ惑う有象無象───ビルの屋上から眺める、僕の凪いだ視線の先。そこには、我が物顔で交差点を闊歩するファンシーな異形と、必死に距離をとる力なき人々のか弱い逃走劇が繰り広げられている。

 見てるだけ。もちろん助けになんて行かないよ。

 さっきから言う異形とは、四頭身をサイズアップさせた黒色の悪魔。紫色のナイトキャップと、羊の巻角、悪魔を彷彿とさせる尻尾がデフォルトの、全体的に丸っこくて、子供っぽい造形の……見た目詐欺で脅威度バリ高の怪物。

 丸い頭には眠そうな顔が描かれ、それでいて奏でられる叫声は寝かせる気のない大音量。

 あんなんでも現代兵器程度じゃ傷一つつかないっていうチート持ちだから、真面目に考えなくとも卑怯くさい。

 そんな感受性豊かなお子様の夢に出てきそうな怪物は、交差点で一般人を追いかけながら、道路をめちゃくちゃに破壊している。地割れに陥没……このままだと都市機能が終わるのは自明の理。のっぺり黒いのが暴れてる画よ。

 自衛隊すら手を拱く怪物は、多分すぐ討伐されちゃうんだろうけど……今回必要分のユメエネルギーぐらいなら、余裕で稼げるだろう。

 ……さて。長々と悪かったね。あれがそこら辺の人間に秘められた“悪夢”を具現化させて生み出した怪物。


 その名も“夢魔”アクゥーム───人間の夢、特に悪夢が具現化することで生まれる怪物だ。


「───ユメエネルギーの収集度は」

「測定開始……6%です」

「ん、うーん。意外と溜まらないんだね……まぁ、流石にスタンダードなヤツじゃ、そんなもの、かな?」


 側に仕える召使いに問えば、所属事務所が必死になって集めているユメの魔力、“ユメエネルギー”がまだそんなに溜まっていないことがわかった。

 両手が長い黒色がのっしのっししてるだけじゃなぁ。

 再活動自体つい最近の話だからか、総蓄積量もまだまだ少ないもんね。


「如何なさいますか?」

「……どうせそろそろ出てくる。それに、今日も試行だ。折角できた配下が、悪夢の力を使いこなせるか否か。その確認の意味合いの方がデカい」

「道理で……では、撤退致しましょう。彼女たちの配信に載るわけにはいきません」

「あぁ、そうだね。まだ、映るわけにはいかない。扉を」

「御意」


 ユメエネルギー。あれは人の心と密接に関わる魔力だ。これを吸い尽くされてしまえば、無気力になって死ぬまで廃人になってしまう。

 寝て見る夢だけじゃなく、将来の夢とかも該当するから結構厄介だ。取り敢えず、ユメエネルギーが無くなったらその人は夢を叶えることができなくなる。

 ……アクゥームが魔法少女に浄化されたら、無気力から回復するけど。


 召使いの案内で空間の裂け目を通って、不可解な色彩の亜空間ロードを渡る。


「〈三銃士〉の初陣は、成功しますでしょうか」

「……さァ?今代の魔法少女が最初っから手練だったら。それこそ僕らみたいに強かったら、失敗するんじゃない?マグレで勝てるかもだけど」

「……貴女様の力に勝る者がいるとは、思えませんが」

「ありがとう。でも、わからないよ?魔法少女を舐めちゃいけない」


 元・魔法少女として、可能性を捨てる手は取れない。


 惨状を他所にアジトへ帰る。白い大理石の床をコツコツヒールで叩いて、マントを翻して前進する。カッコつけも悪くはないかなー、って最近は思い始めてる。

 廊下の最奥、大階段を登った先にある、巨大な扉。

 ……この僕を、魔法少女を悪役に転じさせた元凶様が、ここにいる。


───開いた扉の先で、玉座にではなく、地べたに座った幼女を睨みつけた。


「おかえり」

「ただいま……ねェ、なんで掃除したばっかなのにこんな汚れてるわけ?」

「や、その。ごめん」

「……お手伝い致しましょうか?」

「オマエも部屋汚すだけだろうが……名ばかりの召使いは引っ込んでて……」

「あ、はい」


 ……人間二年目のラスボスを、どうにか更生する方法はないだろうか。


「そ、それより見ろ。ペローのヤツが調子に乗ってるぞ。これは教育的指導が必須……む?おおぅ、出た。うるるー魔法少女でたぞ。やっとだな」

「……うーん、随分とおしゃべりに……うわぁ、わぁ……なんか見たことあるな、あの顔」

「そうか?認識阻害がデフォだからわからん」

「魔法少女同士じゃ、身バレ防止も正常に作用しないから仕方ないよ」


 壁に投写されたモニターが、さっきの交差点で本格的な戦闘が始まったのを報せてくれた。幹部枠、三銃士としてせっせと集めた素質ある人間の一人が、新米魔法少女……多分、二年ぶりの怪物騒動で魔法少女に選ばれた、僕らの後任ちゃんにアクゥームをぶつけている。

 初戦が基礎状態の怪人なの、割と恵まれてる気がする。


 それにしても、やっとか……かれこれ三回出撃させて、ようやく登場かぁ〜、選出に時間かかったのかな。


 掃除の片手間に鑑賞する。うーん、情操教育で用意したおもちゃがそこら辺に……なんで遊んだらしまって、別の遊びに移行できないわけ?

 いい歳した概念存在がさぁ。元魔法少女に世話焼かれて恥ずかしくないの?


 新米魔法少女ちゃん、ピンク色のその子は、見覚えある動物妖精のアドバイスを受けながら、アクゥームと必死に戦っている。うん、意外と様になってる。すごい、センスあるかも。二段ジャンプできてるし、腕力に物を言わせて殴り合いができてるし……

 これは将来有望。なんとか死なないように調整するから頑張ってほしい。


 モニターの横にあるコメント欄も、二年ぶりに見る。


:がんばえー!

:配信魔法!?また見る機会が来るなんて……

:やられろアクゥーム!

:二代目?マジ?

:初々しい

:かわいい

:あのうさ耳イケメンだな

:嫉妬

:リリーエーテちゃん?懐かしい字面で涙が出てきます。ファンになりました!


 ……懐かしいなぁ。昔の僕も、あんなに初々しい戦いを視聴者に見せてたと思うと、ちょっと恥ずかしい。

 戦闘風景を配信する魔法も、まだまだ現役らしい。

 こういう配信を通して応援を集めて、夢の力に変えて、魔法少女を強くする。アンチコメントとか口悪い言葉とか規制されるから、うら若い女の子には優しい配信設定だ。

 今時を魔法に発展させるの、妖精って結構手練だよね。

 おっ、押されてんね、アクゥームが。苦戦はしてるけどどうにかなってるっぽい……


「んー、うるるーの方が強いな」

「その呼び方やめろ。僕がさいきょー無敵のゾンビなのは今更でしょ?」

「自信強」


 ……あぁ、自己紹介がまだだったね。でも、昔の名前は捨てたようなもんだから、今の名を名乗らせてもらおう。

 僕の、いや、吾輩の名はマッドハッター。

 勿論怪人名……モチーフはわかるでしょ?うちの組織がそれっぽいから、周りに合わせて名乗ってるんだ。

 昔、二年前まで魔法少女やってて、今所属しているこの組織をぶち壊して死んだ後……こうして復活して、何故か最高幹部になった、俗に言う闇堕ち魔法少女である。

 うん、なんでこうなったんだろうね。本当に。


「……まさか、僕が悪夢を作る側に回るなんて。ここまで将来設計を無駄にされるとは、思ってもいなかったよ……ほんと、人生ってどーなるのか、わかんないものだね?」

「くふっ、頑張りが無駄になったの、どんな気分だ?」

「殺す」

「ぶぇ」


───夢貌の災厄“アリスメアー”。

 ここ、地球世界を悪夢に閉ざさんと暗躍する、実態なき悪夢の異形、その軍勢。これは、意図せぬアクシデントで悪夢側に仲間入りしてしまった僕が、元魔法少女であったこの僕が、微睡みから這い出でる物語。

 なんとか生き延びて、自由となり、夢から覚める話だ。


 ……取り敢えず、初戦闘で負けたペローを慰める準備もやっておこうか。


 シリアス系統の魔法少女アニメ

   ↓

 ほのぼの系統の魔法少女アニメ の 世界観


前作主人公が悪役になって、新世代の魔法少女たちの前に正体隠して現れるシチュってよくない?

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