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隣国の聖女に攻略方法はありません  作者: 藍麗
カキツバタ(幸せはあなたのもの)
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スイセン

「大らかだった訳じゃないわっ無知だっただけよっ私もいつかお姉様みたいになれると信じてた。アルフェルト様が、お姉様の婚約者だなんて知らずにいたのよっ」


悲鳴のように叫んだフローラを看守が押さえ込む。


「幸せに生きられないのは、その人だけに問題があるからじゃないのよ?」


北郷小春やリシュリー王女の人生を経て思うのは、環境という名の大きな影響力だった。戦争さえなければ、好きな人と結ばれる未来もあったのだろう。体が弱く大人しい北郷小春は、大和撫子ではなかった。周りがそう決め付けていただけだ。親の愛を知らずに育ったリシュリーは、他国の血が流れた王女だった。それだけで、彼女は人格を認められずに乳母から疎まれていたのだ。


「身分も容姿も一緒よ。周りが優しく受け入れてくれれば幸せが増えていくの」


汚れている見窄らしいリシュリーにも優しく声を掛けてくれた人がいた。だから、リシュリーは、立ち上がれるきっかけを得られた。豊城澪香は、モブ姫と揶揄われる程に影の薄い女の子だったが、偶然知り合った天音優は手を差し伸べてくれた。


「フローラも受け入れてもらえなくって辛い時期があったのでしょう?その痛みが分かっているのなら貴女から変わる努力をして頂戴。ニーナとラムダスの婚約を受け入れてフローラっ?」


アルメリアの言葉に歯噛みしたフローラが、堪えるようにきつく目を閉じた。


「競い合うのを止める人が周りにいなかったことは気の毒だと思う」


「お互いが楽しみながら高め合うならいい。でも、フローラは辛かったんだろう?」


「そもそもきょうだいで無理に競い合う必要なんてないんだ。アルメリアの人生が、フローラの人生に変わることはない。勝ち負けの結果以外で何かを手にすることはないんだよ」


勝ち負けに拘って本質を見失うのでは意味がない。勝負に勝ち欲求を満たす。それだけで満足する人は少ない筈だ。勝敗のその先で得られる未来を人は自ずと求める。しかし、アスレットの言う通り必ずしも結果が伴うものばかりではない。人生は楽あれば苦あり苦あれば楽ありの連続だろう。花道だけを歩き続けることはできない。


「ああ〜っあんたが羨ましいかったのよっ私だって優しいお姉さんが欲しかった」


野次馬の中で声を張ったのは、アイラ・シャーロットであった。彼女の首と腕には、白い包帯が巻かれている。


「きょうだいは綺麗な方がいいわ。可愛い方がいいに決まってるっ」


「アルメリアは、優しいし美人だから家族のあんたが羨ましくって少し意地悪したのよ。それなのにあんたは、可愛くないことばかりしてっ」


「私だってアルメリアと仲良くなりたかったのよっ!」


心からの叫びのようにアイラは声を張り上げる。


「私の言葉に嘘はなかったわ。あんたは可愛いくない。でも、アルメリアとは違った美人顔でしょう?」


「羨ましいなら努力すればよかったでしょうっ?それ以上に良いものを手に入れるのよっ」


アイラ・シャーロットは本当に変わったと思う。過去の過ちを黙っていることもできた筈だ。そもそも、この場に態々(わざわざ)来たのも移送されるフローラを心配してだろう。


「フローラ、彼は私の大切な人だからあげることはできないけれど、一緒に探すことはできるわ。一緒に幸せを見つけよう?」


尋ねるように声を掛けると、フローラは堪え切れずに泣き出した。


「ふっ‥ぐすんっぐすんっ」


涙を手のひらで拭ったフローラの指差した先には、見知らぬ青年が佇んでいた。先程まで確かに誰もいなかった筈なのに‥。目立つ黒いフードを被って佇んでいるのだ。咄嗟に動いたのは、叔父のエリオットだった。表情を歪めて逃げようとした青年の足は遅い。エリオットに羽交い締めにされた青年がフローラを睨み付ける。


「あんたも道連れよ。一緒に罪を償いましょう、カエサル?」




直ぐに悲鳴が上がった。野次馬の中に術師が潜んでいたと分かって大騒ぎになったのだ。フローラの移送は急遽取り止めになり、野次馬達の身元の洗い出しに騎士達は追われていった。


その後、城の地下室に戻されたフローラは、看守に全ての罪を告白したらしい。


アルメリア達より遅れてステファニアの王宮に到着したルーカスは、フローラの存在に興味を引かれたようだった。


謁見の間で両陛下と対面したルーカス国王は、「詛呪術師の知識を身に付けた少女は、奴らに深い関わりがある。重要参考人として身柄をレグザで引き受けたい」と、願い出たという。

後日、プリムス家に向かったエリオットは、フローラの処刑が取り止めになったこと、保護者としてレグザに同伴することを両親に告げたのだ。


謁見の申請を出したまま王都の宿で待機していたアルメリアは、城勤めの侍従が届けてくれた申請許可証を持ってアスレット事アルフェルトとクレマチスを伴い王宮へと赴いた。謁見の間には、王座に腰掛ける両陛下と階下に宰相のルーフェンス・ウィルソン。その隣に並ぶように立つリゼル・ステファニア。逆側にユリアス・ステファニアと並び立つアミル・ルイーズ。レグザの外交官を伴うルーカス国王とピョンチキを両手に乗せた天音秀事アスレットにその婚約者與田理人事リズリー。その他に第一王子と第二王子の派閥の関係者と思われるステファニアの貴族たちの姿が見えた。皆の視線を集めたアルメリアは、一呼吸し心を落ち着かせてから無感情そうな眼差しを向けるユリアス・ステファニアの隣に佇むアミル・ルイーズに向き直る。


「アミル・ルイーズさん、アミュレットは持ってきてくださいましたか?」


「はい」


「僕のアミュレットもそこにある」


ユリアスが向けた視線を合図にするように台座を両手で支える年老いた侍従らしい人が、近付いてきた。赤いベルベットを敷いた台座には、ゲームのオープニングで見掛けたアミュレットと同じ物が二つ並んでいた。両陛下の見守る前でアルメリアは、精霊王ピッピに願い事を告げる。


「ピッピ、二つ目の願い事よ。アミュレットの呪いを解いて頂戴」


『良かろう』


ピョンキチの姿から光の姿に変わった精霊王ピッピが、アミュレットの呪いを可視化させてから、それを粉々に壊した。騒めきが周囲に広がる。「なんてことだ」と驚くのも無理はない。物語だけの出来事が目の前で起こったのだから。


「アミル・ルイーズさん。貴女は、階段から落とされたのですか?」


はいと答えようとしたのだろう。彼女は声が出せなくなり、口をぱくぱくと動かした。


「はいかいいえで答えてください。貴女は、階段から落とされたのですか?」


「いや‥いいえ」


自分の言葉に自分で驚いているアミル・ルイーズは、口を手で覆うような仕草をした。


「ユリアス王子殿下は全てを知っていますか?」


「やめてくださいっ‥はい」


「これはどういうことだ?」


王座に腰掛けたエンリック国王陛下が、唖然とした表情を浮かべている。


「良いではないか。もう少し見守ろう?」


同席したルーカス国王が、楽しげな口振りで口角を上げる。奇跡に立ち会うような気分なのだろう。


「ユリアス王子殿下に尋ねます。アナイス・レガーは、罪人ですか?」


答えに詰まった様子のユリアスが目を見開く。抵抗しているようだ。


「い、いいえ」


答えを告げた途端に肩を落としたユリアスは、深い息を吐いた。


「アナイス・レガーは無実なのですね?」


厳しい口調で問い質すのはリゼル・ステファニアだった。


「‥‥」


「ご自分で答えてくださいっ」


詰問するリゼルを一瞥したユリアスは、目を閉じて告白を続けた。だから、これはユリアス本人の意思である。


「その通りだ。ルイーズ嬢に口止めをしたのも僕だ」


「何故、そんなことをっ?冤罪で極寒の地に送り込まれるアナイスは、一歩間違えれば死んでしまうところだったですよっ?兄さんには良心がないのですかっ?」


表情をきつくして口調を強めたリゼルは、憤りを持て余しているようだった。きつく握り締めた拳が震えている。


「君が青い鳥に好かれていなければ‥。君が選んだ人がアナイス・レガーでなければ‥。そもそも君が弟として生まれてこなければ、こんなことにはならなかった」


ユリアスの言葉にリゼルは目を見開いて放心していた。今までのユリアスは、彼に取って理想的な兄だった筈だ。その証拠に王太子は兄だと、彼はずっと言い続けていた。一歩身を引いて兄の邪魔にならないようにと自分を抑え込む姿は、息苦しさを感じられる程だった。その兄から疎んでいたと告げられた衝撃は大きい。


「もう、僕はお終いだ‥」


愕然とする弟を見ることもせずにユリアスは項垂れた。

水仙の花言葉は「自己愛」海外では「希望の象徴」と言われているそうです。

読んでくださってありがとうございます。是非、皆さんの声を聞かせてください。感想や評価をよろしくお願いします。

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