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隣国の聖女に攻略方法はありません  作者: 藍麗
カキツバタ(幸せはあなたのもの)
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転生者の集い

宮殿に戻ったクレマチスは、その日のうちアスレット・レグザとリズリー・アデレードに話を通してくれたようで、朝一番で宿の受付に手紙を届けてくれていた。


【ふたりは、会うと言ってくれたわ。今日の午後に迎えに行きます。身支度を整えて待っていてください】


誰もいない宿の広間で手紙を読み終えたアルメリアは、頭を抱えてしまう。


「しまったっ!ドレスがないわっ宮殿に向かうのに普段着のままじゃ不味いわよね?」


着の身着のままレグザにやって来たアルメリアには、着飾るものがない。


「ん?仕方ないだろう」


向かうのは嘗ての勝手知ったる我が家だからだろうか。アスレットは、動じていないようだった。


『願い事か?』


こんな時に場違いにも口を挟んでくるピョンチキにイラッとしてしまう。


「違うわよっエリオットに何か用意してもらわないと‥王室侮辱罪で連行されてしまうわ」


敬意を損なう服装で宮殿に現れた少女に哀れみの目を向けてくれるだけならいい。大国レグザは、周辺諸国に厳格な国としても名を馳せている。うっかりが、取り返しのつかない事態にも繋がり兼ねない。


「門前払いにされるだけだろう?」


「そうなの?それなら門の外で会えばいいのかしら?」


宮殿で暮らす王子だったアスレットが言うのだから間違いはないだろう。頭を捻るようにして閃いた頓知とんちは、悪くない考えだ。ひとりで小さく頷く。そんなアルメリアに眉を下げたアスレットは、諭すように告げる。


「門兵が迷惑するだろう?」


『願い事か?』


「相談っ!私、エリオットに手紙を書くわっ」


とはいえ何も持っていないアルメリアには、道具を用意するところから始めなくてはいけない。受付を見ると休憩中だろうか。従業員らしき人の姿がなかった。受付の台の上に呼び鈴は、用意されている。鳴らすべきか待つべきか判断に迷うところだ。


『‥‥我の扱いが』


ぐなって言ったのは自分だろう?」


『今世の契約者達は、一つも願い事を言わんのだっ暇で暇で退屈じゃっ』


「なら、精霊王の願い事を三つ叶えると何かいいことがあるって掟でも作るんだな」


「それは名案だわ」


アフターサービスをして欲しい場合もある。


『我に得になることは一つもないじゃろう』


三つの願い事を叶え終えること。精霊王にこれ以上の望みはない。だから、新しい条件を付け加えると、契約が終了したと同時に精霊王は、契約者を喜ばせる必要があるということになる。


(至れり尽くせりね)




急遽、エリオットに手紙を書いて小鳥達に届けてもらったアルメリアは、エリオットが見立ててくれたドレスと背広を受け取ることができた。それから慌ただしく着替えを済ませたアルメリアとアスレットは、広間でクレマチスの迎えを待つ。


「私たちは覚えているのに‥相手は覚えていないって案外不便なのね」


「そうかもしれないね」


学園から帰宅したクレマチスが宿に到着する前にドレスと背広を宿まで届けてくれたエリオットと、テーブルを挟んで椅子に座り少しの間、雑談をして過ごす。


「レグザに着いてからリラとピョン吉は、あまりそばに寄ってこないのよ?」


レグザに到着してから一定の距離感を保ち続けているようで気掛かりなのだ。昨日も小鳥達は、宿の部屋には入ろうとせずに窓の外からこちらを窺っていた。仕方なく窓を開けたまま就寝したのだが、明るくなってから部屋を確認した様子では、入ってきた痕跡はない。船の中では、みんな揃ってお腹の上で眠っていたのに。


「街並みを見て回ってるんだろう?」


「リラとピョン吉?」


不思議そうに聞き返したエリオットに説明したのはアスレットだ。


「ステファニアから付いてきた青い鳥達だよ。いつもはこいつにべったりなんだ」


「仲の良い青い鳥に名前まで付けているとねぇさんから聞いてはいたけど‥」


眉を下げたエリオットは、優しげな眼差しで言い聞かせるように語り掛けてくる。


「彼らは野生の動物なんだよ、アルメリア。長い間、船の上で人間と生活したのなら疲れているのかもしれないよ?」


「そうね」


青い鳥の生態はあまり詳しく解明されていない。

慣れない土地で食事の心配をしているかもしれなと、小鳥達を案じたアルメリアは、木の実などをお皿に乗せて窓辺に置いてしまった。だが、彼等は野生の生き物だ。きっと、狩りもする。彼等は彼等なりに野生の勘を研ぎ澄まし、その土地に慣れようとしているのだろう。邪魔をしてはいけない。


(でも、今日だけは付いてきて欲しいな)


我儘かもしれないが、小鳥達がそばにいないと不安なのだ。今日は正体を隠していた悪党と対面するかもしれない。襲い掛かってくる危険性もあるのだ。


溜息を飲み込んでから人の気配に気が付いた。

正確には光を遮る影だ。顔を上げると、クレマチスが隣に佇んでいた。密偵をしていた彼女は、気配を消すのが得意である。聖女として守られるようになった彼女には、必要のない特技かもしれないが、もう癖になってしまったのだろう。身に付いた動作は変えるのが難しいものだ。


「お待たせ、アスレット殿下とリズリー嬢は、学園から宮殿に向かっている途中だと思うわ」


「何かおかしな動きはなかったか?」


注意深く相手の動向を探るようなアスレットの問い掛けにクレマチスは軽く首を振るう。


「いいえ、警戒している様子ではなかったわ」


椅子から腰を上げ立ち上がったアルメリアは、クレマチスに体を向けて挨拶をした。


「クレマチス、今日はよろしくね?」


「ええ、私も付いて行くから何かあれば力になれるわ」


「ありがとう、クレマチス」


宿の玄関から外に出ると、青い鳥達が馬車の屋根に止まっていた。その姿に安堵するアルメリアの隣で首を傾げたのはアスレットである。


「あれ?アマネ‥いや、藍色の小鳥がいないな」


(本当だ)


羽を休めてチュンチュンと可愛らしく鳴く小鳥達の中に藍色の小鳥の姿はない。


「何処へ行ったのかしら?」


(まさか、体調が悪かったの?)


何処かで弱った体を隠しているではないかと過って不安になる。


「彼らは自由に飛べる。あとから付いてくるかもしれないよ?」


エリオットに促されて馬車の踏み板を踏んだアルメリアは小さく頷いた。後ろ髪を引かれる思いはするが、心配し過ぎている可能性はあるのだ。


屋根を見上げても藤色の小鳥に気落ちする様子はなく、元気にぴょんぴょんと屋根の上を飛び跳ねている。青い鳥は頭がいい。仲の良い藍色の小鳥が、倒れてしまったのならできない振る舞いだろう。


大人しく馬車に乗り込んだアルメリアは、動き出すまで窓に顔を寄せて、宿の屋根や窓辺を視線で確認していた。




宮殿に到着した馬車のドアが開かれて門兵が中を覗き込む。用心深く確認したあとで彼は、敬礼をした。


「異常なしっお通りください。聖女様、いつもご苦労様です」


「お疲れ様です」


慣れた様子で声を掛けたクレマチスの動作は、優雅だった。門兵が頬を染めつつ馬車のドアを両手でゆっくり閉めた。


(私より聖女だわ)


感心してしまう。彼女に礼儀作法を教えたフェラニー先生も鼻が高いだろう。

宮殿の広い庭を馬車で通り抜けて建物の前で降りると、宮殿の侍女が近付いてきた。


「クレマチス様、中庭までお供させていただきます」


「ええ、ありがとう」


声を抑えて話す侍女は、チラッとこちらに視線を寄越してくる。その視線が鋭い。彼女は、聖なる乙女の護衛を務めているのだと、経験から察した。


「中庭に行きましょう?」


振り向いたクレマチスに頷いたアルメリアは、彼女の後ろを一歩離れて歩く。護衛を刺激しないためだ。

宮殿の中庭には、テーブルと椅子が用意されていてアスレット・レグザの隣にミルクティー色の長い髪を下ろした美しい少女が佇んでいた。


「初めまして、アスレット・レグザです」


「リズリー・アデレードです」


出迎えたアスレット・レグザに敬意を表し淑女の礼をしたアルメリアに彼は左手を胸に当てて微笑んだ。


「アルメリア・プリムスです。お目にかかれて光栄でございます」


訝しむような視線を向けたアルフェルト事アスレットは、名乗るつもりがないようだった。


(まあ、自分が目の前にいるだものね)


「転生者だと聞いた。お前は誰だ?」


「なんか、偉そうだな」


アルフェルト事アスレットの棘のある口調に不満を感じた様子のリズリーが顔を顰めた。か弱そうな見た目に反して男勝りな性格をしていそうだ。


「ごめんなさい、悪気はないの」


「天音秀と申します。前世では地球という星の日本という国で生活していました」


「天音秀くんっ!お姉さんが天音優ちゃん、お母さんが天音優花さん、お父さんが天音秀治さん。東京生まれの天音秀くんなのっ?」


「え、ええ。はい。その天音秀です。何処かでお会いしましたか?」


背広のポケットを片手で押さえているアスレットが、視線で尋ねてくる。これにアルメリアは、頷いてから天音秀を凝視した。彼のオーラは澄んでいて怪しいところはない。


「私は天音優さんの友達だった豊城澪香といいます。ずっと、秀くんに会いたかったですよっ」


「なら会いにくればよかったんじゃないのか?」


怪訝そうに眉を顰めて首を傾げたリズリー・アデレードにアルメリアは首を振るう。


「私は天音ちゃんが事故で亡くなって一年も経たずに病院で息を引き取りました。あの頃は、もう自由に外出することが難しかったのです」


そこで態とらしくならないようにリズリー・アデレードに視線を向けてみる。


「それで貴女は?」


天音秀事アスレットによく助言をしているらしい彼女は、エリオットが怪しんでいた人物でもある。油断はできない。


「俺は與田理人よだりひと。天音秀を看取った男だ」


「看取った?」


(家族ではなく?彼が‥???)


「おふたりは、どういうご関係なのですか?」


「家族であり恋人だ。今も昔も変わらないよ」


リズリー事與田理人のオーラにも淀みはなかった。これにアルメリアは驚いて目を丸くする。


「何がどうなっているんだよっ」


苛立ちが抑え切れずに声を張ったのはアルフェルト事アスレットだった。


「アスレットっ?」


ふたりも驚いた様に目を丸くする。眉を下げたアルメリアは、天音秀事アスレットと與田理人事リズリーに向き合う。


「詳しく聞かせてもらえませんか?」


「何処から話せばいいのか‥僕とリズリーが出会ったのは五歳の誕生日でした」


天音秀事アスレット・レグザは、過去の記憶を呼び覚まし與田理人との再会までを話して聞かせてくれた。

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