今日も世界は美しい。
誕生日更新!
今日も世界は美しい。
その理由を知ってるかな?
……。
えっ。
世界は美しくない?
むしろ今日も狂ってるって?
OK、それじゃあ、さっそく、クレームをつけにいこうぜ!
うん? どこに文句を言ってやればいいのかって?
そりゃあもちろん――。
†
――世界の無駄、最終処分場。
ここには、世界中からありとあらゆる無駄が集まってくる。
超巨大な処分施設で働いているのは、2名の職員。
え? 規模の割にスタッフが少なすぎだろって?
何を言ってるのさ、ここは世界の無駄、最終処分場だよ?
無駄な予算なんてあるわけない。
無駄な人件費なんてあるわけない。
無駄な設備? 無駄なシステム? 無駄な手間?
そんなものなんて、あるわけない。
当然じゃないか! ここは世界の無駄、最終処分場だよ?
さてさて! ほぼ全ての業務がオートメーション化された処分場。
見通しは悪く、まるで迷路のよう! 何故かって? 無駄なスペースがないからだよ!
理論上最高効率を前に、人間の都合なんて考えるだけ無駄だからね!
ここは人間の人間による人間のための、世界の無駄、最終処分場だよ!
うーん、担当者たちがすぐに見つかると良いんだけど……あ、居た!
やったね! 2人集まってるみたい、グッドタイミング!
探す無駄が省けたね! さっすが世界の無駄、最終処分場!
おっと? どうやら大変熱意ある話し合いの真っ最中みたいだ!
まずは彼らの、無駄のない普段の仕事ぶりを見学させて貰うとしよう!
抜き打ちで、こっそりとね!
†
『ふっざけんなぁぁぁぁぁぁあっ!?!?!!? きちっと働けよ馬鹿!』
無駄に大きい声量で、怒鳴り声が響く。
「ふざけてなんかいないよ? ちゃんと仕事してるじゃないか!」
無駄に自信に満ちた、反論が木霊する。
そこには、ありとあらゆる無駄が並べられていた。
快不快に喜怒哀楽。
生きがい、やりがい、働きがい。
食欲、性欲、睡眠欲に、7点セットの大罪もおつけして。
ドドンと山積み無駄だらけ。
……なんじゃこりゃ?
整理されているとは言いがたく、惨状現状受け入れがたく。
次から次へと送られてくる世界中の無駄を、ちまちま手作業で分類している?
『分かってんだろ、ここは世界の無駄、最終処分場だぞ!? 現実を見ろよ吐き気がするほど、どうしようもない無駄ばかり押しつけられてんだぞ! ほら、そこに焼却炉があんだろうが! さっさと放り込むんだよ!』
「そんなのダメに決まってるでしょ! こっちもそっちもあっちも、どれもこれも、まだ、きっといつか誰かが何かに使ってくれそうじゃないか!」
『いつかっていつだよ!? 誰かって誰だよ!? 何かって何にだよ!? はっきりしろよ馬鹿! ちょっと目を離した隙に何サボってんだ阿呆が!』
ああ、どうやら職員の片割れが別作業をしている間に、もう一方がゆったり無駄の整理などをしていたと。全自動で次から次へと無駄が送られてくるなか、全く処理が追いつかずに無駄が大渋滞を起こしていたと。はは、なるほど。今日も世界が狂っている原因がちょっと見えてきましたね?
『生きる理由も、死ぬ言い訳も、もうたくさんだ、働けよ!』
分類されたばかりの無駄をごちゃ混ぜに炉に放り込みます。
無駄は炎をまとい、みるみる小さくなって、もう燃え尽きたようです。
素晴らしい火力! さすが、世界の無駄、最終処分場!
「ああ!? なんてことをするんだ! せっかくの仕事が台無しじゃないか!」
無駄を分類していた職員は慌てて、無駄を前に立ち塞がります。
『何が仕事だ、お前のやることなすこと無駄ばかりじゃねぇか!』
「自分が何を焼こうとしているのか、ちゃんと考えてよ!」
『考えているさ、これもそれもあれも、どれもこれも要らなくなったものばかりだ!』
「初心も初期衝動も後悔も失敗も! それを捨てて何が遺せるって言うんだ! 世界の全てが無駄だとでも言うつもりなの!?」
『うるせぇよ! 全部重荷だ、全部無駄だ! 何もかも抱え込んで、うずくまって動けない、その為体をどうにかしろよ!』
「ああもう、無駄に難しい漢字使って!」
『ルビ振ってんだろうが、揚げ足取りこそ無駄の極み!』
「ルビ振る手間は無駄じゃないの!? ここまで1個もルビ振らずに済んでたのに!」
何言ってるんでしょうねこいつら。こっちに飛び火してない?
『仕事の邪魔をするんじゃない!』
「仕事の邪魔をしてるのはそっち!」
それからは取っ組み合いです。
一方が胸ぐらを掴み上げたと思えば、他方が腹を蹴飛ばす。
そのうちに平手は握り拳に変わり、ちょびっとばかりバイオレンス?
†
ええと。
それでは、クイズのお時間です!
勘の良い、君ならきっと答えられるさ!
問題。
すぐ近くに、無駄を燃やす焼却炉があります。
そのそばで、無駄な口論、無駄な暴力、垂れ流される無駄な人件費!
職員らの不適切な言動について、続きを書くのは止めにします! 無駄だからね!
なにせ皆様が安心して読める全年齢対象作品を目指しておりますので! ええ!
やだなぁ、差別的で品がなく、暴力的表現みたいな無駄な言葉の無駄な羅列なんて出てくるわけないじゃないですか! あはははは!
無駄な争いはまだまだ続いています! 果てしない無駄は留まることを知りません!
おっと、炉が火を噴き始めました、ああもうダメだ。
さぁ、このあと、どうなるでしょうか?
解答。
私と君は逃げ出した。
炉の炎はうなりを上げて辺りの無駄を包み込んでいきました。
残された職員たちは、それでも、争いを止めませんでした。
無駄を憎む合理主義者と、無駄を愛する人間主義者。
火に包まれ、絶叫、絶叫、ただ絶叫!
現世に顕れた叫喚地獄に。
なおも向かい合う2人。
それはまるで抱き合うようにも思えた。
妬けちゃうね? なあんて、ね。
怒りの炎が。
憎しみの炎が。
情熱の炎が、全ての無駄を浄化していく。
さらば、世界の無駄、最終処分場!
†
あの哀しい事件から、1年が経ちました。
消し止めるまで数日続いた大火災、働いていた職員2名が帰らぬ人となりました。
この出来事を忘れることのないよう、処分場跡地のそばに大きな石碑が置かれ、いくつもの花束が供えられています。
石だの花だの並べたって、死んだ人が生き返るわけでもあるまいし。
これも、見る人が見たら、無駄だって言うのかも知れないね。
そうしていつか、誰しもが忘れていってしまうんだろう。本当に、哀しいね。
あれから、燃やしちゃいけないものを燃やしていたんじゃないかとか、様々な憶測が飛び交い、跡地の片付けは遅々として進んでいない。
痛々しい焼け跡は、もうずいぶん経つというのに、当時の悲惨さを色濃く残していた。
君と一緒に、こっそりと忍び込む。
あの日の場所。炉、だったものの近く。
一度来ていなければ、これが焼却炉だって分からないぐらい荒れ果てていた。
手を合わせてから、辺りを見て回る。煤だらけでもう何が何やら。
いつ崩れたっておかしくない。臆病な私は、もう帰ろうかと思ったんだ。
君はどこからか1本の棒を拾ってきて、炉の中を突きだした。
どうしたの? 何か見つけたの?
君が灰の中から取り出したのは、小さな輝石だった。
とても綺麗だった。
役に立ちそうだった。
ぬくもりに満ちていた。
不思議と目が離せなかった。
そして何より。新しかったんだ。
それは、この世界に、今までなかったものだったから。
その発見は世間をあっと驚かせた。
誰もが無駄だと思っていた中から、そんなものができるなんて!
†
数年後。
跡地のすぐそばに、リサイクル場が建てられた。
あの輝石は、今では当たり前に量産され、世界中で愛されている。
私たちは忘れない。
本当に無駄なことなんて、きっと、なにひとつないんだろう。
だから。
今日も世界は美しい。
今日は私が生まれた日、そして、世界で初めて、広島に原爆が落ちた日でもあります。
どうか、忘れる日が来ませんように。
平和を願い、黙祷を捧げます。
さて、今回の短編はこんな感じで。
何気なく、5部作の完結編みたいな感じで仕上げました。
1.だんだん大きくなる話『学生ローンで困らないための、たったひとつの冴えたやり方。』
2.だんだん小さくなる話『平和って、いくらで買えますか?』
3.間の丁度良いところを探る話『Gänger<ゲンガー>』
4.両極端を往復する話『現実発、ファンタジー行き。切符はこちらです。』
5.両極端がぶつかりあって新しいものが生まれる話『今日も世界は美しい。』(今作)
次は明日更新予定。短編「世界は手加減してくれない。」を掲載します。
あとがき下のところから、評価を頂けると作者のテンションが爆上がります。よろしくね!^^