襲撃!
目の前を食料や武具、その他生活必需品等を載せた荷台がゾロゾロと進んでいく。荷台を覆う布地には、ガエルル氏族の紋章が描かれており、これに手を出したら俺らが黙ってねぇぞと無言の圧力を浴びせている。
本当にやるのかとお頭をチラリと見ると、ちょっとヤバいくらい息が荒くなり、目が血走り、手は震えていた。
「やるぞ。やるぞ。俺はやってやるぞ」
ブツブツと呟いている様子は、死にかけの無所属より見ていて気持ちのよくなるものではない。
これは、潮時かと頭組から離れる算段を立てていると、突如お頭が叫びながら意味の分からない言葉叫んだ。
「行くぞ!野郎共!あいつらを皆殺しにして、荷物を全ていただけば、ヨークシャー氏族の戦士としての身分を得られるぞ!」
俺にとっては、聞くに絶えないホラ事にしか聞こえないが周りの暴力を生業とするフリーランサー(笑)たちはそうでないらしく、士気のある雄叫びを上げた。
(いや、そんなに声をあげたら奇襲の意味がないだろ)
しかし、俺の考えとは裏腹に荷台を守っている護衛たちは、何事も異常なし!と言わんばかりにスタスタと荷台と一緒に歩いている。
これはどういう事だと頭を捻りながら考え込んでいると思いっきり肩を叩かれる。何だこの野郎と後ろを向くとお頭がヤバい顔つきで笑っていた
「骨有りナメクジ野郎、てめぇの力を見込んで一番槍をくれてやる!」
そんなことを言われて負けじと言い返す。シティーボーイだった俺も今では立派なチンピラと成り下がり申した。
「当然、その分の報酬は色つけてもらうぞ」
冷静にクールにドヤ顔さらしながら、一番槍部隊の戦闘に立ち、そのまま突っ込む。多分だが、護衛が寝替えってるんだろうなと思いながら、荷台の列にむかって突進する。
予想に反して、護衛は迅速に対応を始め、陣列を組み、長槍をこちらに向けた。ヤベェなと思いながら今更戻れねぇと覚悟を決め突っ込む。
すると、陣列が突然崩れ、血を流しながら護衛達が倒れていく。
やっぱり裏切りを準備していたんだなと思いながら、しかし何か様子が違うなと感じた。考える暇もなく、護衛に突貫して乱戦が始まる。槍を捨て、剣を抜いた護衛に鉄剣で殴りかかる。
護衛の振り抜いた剣に向けて振るうと、そのまま剣を壊し胴を切った。
「柔人ごときに!」
護衛は命をかけた斬撃を放ったが、既に距離を冷静に取っていた自分には届かず、振り抜いた隙をつき、切り伏せる。
視界で、負けかけている仲間と切り結んでいる、護衛を後ろからバッサリ斬撃を浴びせる。
「後ろからとは卑怯だぞ!」
うわ言を言いながら、胴体を切られているのに当たり前のように普通に切りかかってくる。戦士とはまともにやるべきじゃねぇと思いながら、積極的に攻撃には出ず防御に徹する。
相手は調子に乗って斬撃を何度も浴びせてくるが、胸から剣が貫かれ、ウッと言いながら動かなくなった。
モタモタしながら、護衛を倒した仲間に向けて罵声を浴びせる。
「この下手くそが!サッサとやっちまえ馬鹿野郎!」
「馬鹿野郎とは何だこの野郎!てか、お前誰だよ!」
そいつは見たこともないやつだった。ガエルル氏族の護衛にも見えない。どちらかと言えば俺たち無所属に見えた。
その時、俺の脳裏にアホみたいな推測が飛び交った。これってもしかして、偶然ガエルル氏族を狙った盗賊団が同じタイミングで襲撃しただけじゃねぇの?こっちが雄叫び上げてるのに、護衛がこちらを無視してたのはそれどころじゃねぇからでは、と。ようやく、氏族の戦士相手に余裕で勝てた理由が分かった。こいつら、何度も襲われて消耗してるのか、と。
頭をフル回転させ、目の前のマヌケ面に適格なアドバイスをくれてやる。
「とりあえず、ガエルルの戦士を倒すまでは見逃してやるよ」
複数の勢力の乱戦の中、うちの盗賊団が狙い撃ちされる原因にもなりたくはないのでその場を後にしようとすると、野盗ごときが何かほざきやがる。
「あぁ!?てめぇ、調子くれたこと言っといてただで帰れると思うんじゃねぇ!」
しかし、アホはアホらしく俺のありがたい助言には頷かず襲いかかってきた。まぁ、消耗しきった相手に負けかける様なやつだったので、直ぐにトドメを刺すところまで追い詰めた。
「ヒィ!許してくれぇ!」
ここまで、テンプレな反応をしたからには礼には礼で答えねばならない。
「お前はそう言って、誰かを許したことはあるのか」
自分で言っててアホみたいなこといってるなと思ってそのままトドメを刺した。
「見逃してくれるんじゃねぇのかよ…」
甘いこというな。
しばらく、戦っているうちに、ガエルル氏族の増援が来て盗賊連合(戦っているうちに同士?討ちしてる場合じゃねぇと一時休戦した)が敗戦しかけた時に、地面を揺るがす大音量がした。
ガエルル氏族の戦士が巨大な獣に噛まれ、そのまま食べられた。いくら戦士と言えど食べられる恐怖には勝てず次々と倒れていく。中には、獣を何体も逆に討伐する強者もいたが、最後には立て直せず、散り散りに逃げていった。
周りの連中の息遣い荒くて煩い。遠くから獣の紋章を掲げた一団が、犬のような馬ほどの大きさの獣に乗りながらやってくる。俺らの前に立つと大音で叫んだ。
「此度の戦、我らの勝利ぞ!!!!」
ドッと周りから歓声が飛び出した。俺は用済みと言わんばかりに、処分されそうにない事実に歓声の声をあげた。