表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/652

第83話「あつい二人」

 翌早朝。

 徐々に太陽が昇りはじめる前。

 二人の旅人は寄り添いながら、沈みこんだベッドで寝息を静かにたてていた。


 常に一緒である。


 それがやましい事ではなく、本人達には当たり前の事で。

 夏の蒸されていく暑さでも変わらず寄り添い、時には抱き合って夜を越す。

 少女は着実に成長していた。




「お主らは、結婚しているのか?」


 朝食で彩られた食卓の中、ハーストの一言がエヴァンに衝撃を与える。


「は……?」


 掬おうとした野菜スープが、木のボウルへ落ちていく。

 元あった場所へ。


「なんですか……急に」


「いや、昨日から気になっていたんじゃが。いつも一緒じゃなと」


「そりゃ、一緒に旅をしてますし……」


「そうではなくての」


 ハーストは豪快にパンをちぎり、口へ放り込む。


「歩けば手を繋ぐ、時には腕も組む。常に隣をキープして、寝泊まりする部屋も一つのベッドで夜を明かす。

 これで、結婚してないのならおかしい話じゃろ。少なくとも、恋人のそれじゃと思うが」


「いやいやいやいや……俺には恋人なんて作れませんよ」


「禁止令の事か? あんなのとち狂った(やっこ)が勝手に作ったものじゃろ。どうせロドルナの阿呆(あほう)の暴挙じゃ」


「よくご存知で……」


 ロドルナの悪評はこの西へ届いているのか。

 それは、ある意味顔も声も有名とも言えるが。そうはなりたくないな、と思うエヴァン。

『救世主』として、様々な視線を向けられたからこそ。


「ふんっ。そんなものに強制力はないんじゃ。黙ってればバレんじゃろ」


 村長の発言にしては問題があるように感じた。


「いや、絶対バレますよ。少なくともロドルナの目ざとさは天下一ですよ」


「そうか、いやそれでも。エティカちゃんとは、結婚していないと言うのか」


「えぇ……そもそもエティカはまだ十歳ですし」


「もったいないのう。こんな美少女を置いておきながら、放っておくとは」


「人聞きの悪い事を……。保護者みたいなものですよ」


「ふむ……そうか……」


 ハーストは青年の言葉に腕を組んで考える。


 その時に背中の翼がピクピクと動く。

 それは、この老人の癖で。


「ならキスくらいなら問題ないな!」


「は!?」


 ろくでもないことを考えている時の仕草でもあった。


「いや、よくよく考えてみよ。子作りができないというだけであって、恋人もどきの行動はセーフなのであろう?」


「いやいやいやいやいやいや――」


「手を繋ぐ、腕を組む、寄り添い抱き合いながら寝る。これがセーフならば、キスも同じことじゃと思うぞ」


「いや、そんなことは――」


 ある。

 子孫を残さなければいい。


 極論ではあるが、キスまではセーフともいえる。

 今まで何も(とが)められていない。

 つまり、キスくらいなら問題ないという可能性があるのだ。


 ふと、白銀の少女と青年は目を合わせてしまう。

 少女は首まで真っ赤にしながら。

 そのぷくりとした桃色の唇を震わせながら。


 そこまでの結論にたどり着くと、エヴァンはエティカを直視できなくなってしまった。


 二人とも目を勢いよく逸らす。


 そんな二人の様子を、豪快に笑うハースト。


「カッカッカッ! まあ、キスで子どもができるわけではないしな!」


「え……」


 老人のその一言に、エティカの驚愕がこぼれる。


 その反応に思わず固まってしまう。

 もしかして……。

 そう思い、ハーストは慎重に少女へ言葉をかける。


「エティカちゃん、もしかしてじゃが……」


「……」


「キスで子どもができると思っておったのか……?」


 ボンッ。


 そんな擬音(ぎおん)が出てしまってもおかしくない程に、耳まで真っ赤にしたエティカ。

 その様子は一つの答えでもある。


 白銀の少女はキスすると子どもができると、純真無垢な心の持ち主であった。



 それからは、あまり話題にしてエティカをはずかしめるのは可哀想だと思い、二人は黙々と食べ進めた。

 ただ、ハーストはフィロに睨まれていたが。


「旦那様、一つ質問があります」


「なんじゃ」


「なぜ、旦那様は()()()()()()()()()()()()のを知っているんでしょうか?」


 ハーストの手からスプーンが落ちる。

 だらだらと冷や汗が流れていく。

 心拍数も上がっていく。


 フィロソファー、二度目の般若(はんにゃ)の表情。

 睨みつける目は鋭利な刃物より深く刺さる。


 いたたまれなくなった老人は脱兎(だっと)のごとく、駆け出し、それを全速力で追いかけるフィロは狩猟者そのものであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ