表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/652

第82話「カラスの夜」

 夕暮れ。

 村長宅での夕食も済み、ハーストとフィロソファーは早くに寝床についた。


 二人とも翼人族の習性とも言えたが、鷹のハーストに対してフィロは梟のはず。

 鷹は昼行性、梟は夜行性。ここから梟の独壇場でもあるはずだが。

 本人いわく、「夜起きてるだけなのも暇だし、アタシは混血だから」とあっけらかんと言った。


 実際、狩りをする梟なら夜起きているだろうが、翼人族であるなら起きている必要がない。

 食料を調達するのも、テリトリーを確保するのも、問題ない。


 だからこそ、梟の習性に合わせて起きているのは暇な時間を過ごすだけ。

 早寝早起きをして、健康的な翼人生活を送っていた。


 そして、残されたエヴァンとエティカはあてがわれた一室にいた。


 客人が泊まる部屋としては申し分ない広さで、木材で統一された家具と落ち着ける空間になっていた。

 その羽毛ベッドの上。


 寄り添って座っている青年と白銀の少女。

 エヴァンの肩へ乗せた小さな頭と、ふんわりとした髪が青年の鼻をくすぐる。


 砂糖よりも甘い、魅力的な匂いにクラクラしそうだったが、なんとか理性を保つ。


「エヴァン……?」


「うん?」


「ふふっ、なんでもない……」


 そう言ってスリスリと頬ずりする。

 まるで猫のように。


「そういえば、エヴァンの、実家て、どんなの?」


 潤んだ瞳で青年を見つめる紅色。

 その瞳と目が合ってしまうと、即座に目を逸らしてしまう。

 しかし、不自然にならないよう。

 なんとか、言葉を絞り出す。


「あれ、言ってなかったか」


「うん、襲ってくる、としか」


「あ〜……」


 それだけしか説明できてなかった事を反省する。


 実家へ一緒に帰る相手の対応としては、落第だとローナに突きつけられそうではあった。

 どこから説明するか一瞬迷った青年ではあったが、長い話でもいいかと納得させる。


 一緒にいられるなら、迷う必要はない。


 なら、エティカの興味を惹いてしまおう。

 そう思うと少しの高揚感が増すエヴァン。


「じゃあ、ゆっくり言っていくから分からない事があったら、遠慮なく言ってな?」


「うん……!」


 まずは、場所について。


「ストラの西。この翼人族の村のもっと西へ行くと、大きな山が見えてくる。その(ふもと)にある自然がいっぱいの所だな」


「おぉ……」


「大きな村なんだが、果物とか野菜がたくさん育ててる。今の時期なら桃とかスイカとかな」


「桃……!」


「桃、好きなのか?」


「うん……! 大好き!」


 その言葉にほんの少しドキッとしてしまう。


 しかし、立て直して言葉を紡ぐ。

 この興味津々(きょうみしんしん)で、輝いた少女の為にも。


「向こうに着いたらいっぱい食べような」


「うんっ……! えへへ……」


 白銀の髪を優しく撫でる。

 サラサラとした清流のように指が流れていく。


「後はこの村よりも広いし、家も多い。その中で一番大きな赤色の家が、実家だな」


豪邸(ごうてい)なの?」


「まあ、村長の家に住み込みで働いてるからな。ローナみたいなものと思えば、イメージしやすいかな」


「てことは、凄いんだ」


「いや、うん……。凄いのは凄いな……」


 襲いにくる、という点も含めて。


「まあ、村長の家は一番大きいし分かりやすいと思うけど、もう一つ付け加えると、屋根に鴉の彫刻があるのも特徴だな」


「カラスて、ヘレナとアヴァン、とかの?」


「そうそう、翼人族の人と家を建てた時に、守り神として作ってくれたのを飾っているらしい」


「守り神て……?」


「守り神ていうのは、その家も住んでいる人も守ってくれるように、願いを込められた神様だな。

 鴉は眼がいいから悪事を見極められるようにと、太陽や神の遣いとも言われるから、そういう悪い事から守ってもらえるように、て願いが込められてる」


「うん……?」


 いまいち、ピンときていないエティカは首を傾げる。

 魔人族と人族との風習の違いだろう。


 神であろうと、動物であろうと、身内を守ってもらえるなら(すが)りついて、寄りどころにしたいのだ。

 神頼みをし、『魔王』からの脅威を退(しりぞ)くため。

 そんな種族間の違いを感じるも、優しくエヴァンは教えていく。


「エティカがくれたお守りあるだろ? あれと一緒だよ」


「あぁ……! じゃあ、とっても、大切なんだね」


「そうそう、大事で大切なもの――」


 ふと、エヴァンは白銀の少女お手製のお守りを握りしめる。

 硬い金貨の感触は、温かく伝わる。

 大事で大切なもの。それは、青年にとってのエティカともいえた。

 どんな困難が待ち受けようとも、この優しき少女を守る。

 何度も刻みつけた思いを決意に変えて。


 翼人族の村の夜は、緩やかに過ぎ去っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ