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第76話「魔法」

 玉ねぎのみじん切りが済んだ頃、エヴァンも薪を集め帰ってきた。

 しかし、戻ってきた時、少女は大粒の涙を流しながら料理の下ごしらえをしていた。


 泣きながらベーコンを切る姿はなんとも言いがたい不思議な光景。


「え、エティカ……?」


 恐る恐る様子を伺う。


「ん? どうしたの?」


「いや……泣きながら切ってるのが珍しくてな……」


「うん、玉ねぎがね……。そんなに、面白かった?」


「大泣きでベーコン切ってたからな。なにか悪いことでもしたのかと」


「むー」


 頬を膨らませるエティカ。

 真面目にやって涙を流しただけで、悪いことをしたわけではないのだ。

 ただ、エヴァンにはイタズラをした子どもが、罰としてベーコンを切らされている図に見えてしまった。


「ごめんごめん。ご飯ありがとう、楽しみだな」


「えへへ、簡単なやつ、だけど」


「いや、干し肉じゃないだけで充分だって。何か手伝う事はあるか?」


「じゃあ、かまどに、火をつけて、欲しいな」


「任された」


 と、既に組み立てられたかまどへ細い枝を隙間ができるように並べていき、徐々に大きめの薪を重ねていく。


 その手馴れた様子で組み上げていく青年をみたエティカは、負けじとベーコンを細かく切っていく。

 ふと、少女は青年が、薄く削られ、まるで羽毛のように先がくるくるとした、奇妙な木材を持っているのが気になった。


「エヴァン、それは何?」


「ん? これか?」


「うん、先が、くるくるしたの」


「フェザースティックて言ってな。火付けに使うやつなんだが、こうすると火がつきやすいんだ」


「へぇ〜、面白い形、だね」


「作るのは少しコツがいるんだがな、今度教えようか?」


「うん!」


 こうして、少女の覚える事が増えるのはいい事なのだが、このまま沢山覚えてしまうと、エヴァンが幻生林へ一人で行く時、一緒について来る可能性があるのではないか。


 それはそれでいいか。


 しゅーるの元へ行かなければいけない。

 その為には、幻生林へ入る必要がある。

 一緒に行くと約束したのだ。


 そう納得させる。


 考えが巡る中でも青年は、用意した麻紐をナイフでほぐしていく。

 ナイフの背部分のエッジを使い、小さな毛玉になるまで。

 毛玉ができたらそれをフェザースティックに絡ませる。

 これは火種になる。


 そんな用意をしていて、そういえばエティカは魔法自体を見たことがあるのか。

 ふと、気になって青年は質問する。


「そういえば、エティカは魔法を見たことあるか?」


「魔法? この、帽子のこと?」


 帽子を指さしながらコテン、と傾げる白銀の少女。


「いや、それは魔術だな。……そうか、ちゃんと教えたことなかったな」


 純粋に忘れていたエヴァンは、コホンと咳払い。


 その様子にエティカも手を止め、真剣な表情で聞き入る。


「魔法ていうのは、簡単に言えば、魔力があればいつでも使えるものだな」


「うん」


「ただ、誰でも使えるわけじゃなくて、これには適性があって、適性に応じた魔法が使える。そこが魔術との違いだな」


「じゃあ、わたしも、使えるの?」


「ああ、難しいけどな」


「うへぇ」


 難しいという言葉にげんなりしたエティカ。

 その様子が微笑ましいと思った青年。


「コツさえ掴めば簡単だぞ」


「その、コツまでが、難しいんでしょ?」


「はい、その通りです」


 これには少女の顎へ重い一撃。

 天を仰いだ白銀の髪は揺れる。


「魔法はイメージで使うものだから、想像力次第なところはあるけどな」


「イメージ?」


「そうだな……。例えば、火の魔法は……」


 エヴァンは右手を真っ直ぐ前に伸ばし、手を大きく開く。

 エティカへ分かりやすいようにとった大袈裟(おおげさ)なその仕草。

 しかし、青年を包む空気に、ほんの少しの変化が生じる。


「まずは、体の中の魔力を手のひらへ集めるイメージをする。そうすると、魔力の渦ができる」


 言葉通りに、右手へ魔力が集まっていく。

 それは、エティカにとっては青白いそよ風が、右手へ吹いているように見える。


 不思議な光景だ。


「集まった魔力の渦のイメージを、火に変える」


 ボッッ……!


 エヴァンの右手に小さな火玉ができた。

 何も無い空間から突如として、オレンジ色の光が生まれた。

 それは手のひらほどの大きさで、フワフワと浮いている様子は摩訶不思議な空気を作り出す。


「凄い……!」


 パチパチ、と少女はマジックを見た子どものように拍手。


 ほんの少し照れくさくなった青年は、小さな火を用意したフェザースティックに移す。

 そのまま、かまどの中へ入れる。

 それは、徐々に火の勢いをあげていく。


「こんな感じだな。これを火じゃなくて、水のイメージにすれば水ができるし、氷にすれば氷になる」


「凄いね、エヴァン……!」


「ありがとう……。ま、まあ、魔力のイメージができれば、エティカにもできるようになるぞ」


 エヴァンの鼻は少しの高々。

 しかし、お調子の山へ乗る前に、忘れず講義を続ける。


「魔力をイメージして簡単にできるのが魔法。これは、適性があるから使えるものと使えないものもある。ただ、発動するのは非常に簡単。

 それに対して、魔力を使って術式を刻むのが魔術。これは、魔力をイメージできたら誰でも刻むだけで使える。ただ、術式を刻むのも時間が掛かるし、魔力の消費も大きい。

 ――ていう、感じだな」


 珍しく、長々と喋ったエヴァンに少し驚くもエティカは笑顔で。


「うん、ありがとう。魔法て、凄いね……!」


 と、興奮していた。

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