第69話「準備の会議」
「では、これより第一回実家帰省準備の会議を始めます」
「わ〜」
と、昼食を食べ終えたエヴァンとエティカは自室で会議を始める。
エヴァンは立ったまま、白銀の少女はベッドへ腰掛けた状態で始まった。
少女は、ぱちぱち、と小さく拍手する。
エヴァンはほんの少し恥ずかしい気持ちが湧き上がったが、そこは勢いでどうにかする。
「まず、必要な物の確認から始めます」
「はい」
「基本的には一ヶ月くらいの予定ですが、合間合間で村や街に泊まるので野宿する回数はかなり少ないです」
「エヴァンの、お家は、遠いの?」
コテン、と首を傾げる姿の愛くるしさと言ったらこの世の何も敵わない程だろう。
エヴァンは、ゆっくりと答える。
「そんなに遠くないな、大体二、三日くらいで着くかな」
会議の堅苦しさもあくまで形式上だった為に、すぐに緩む。
「じゃあ、そんなに、野宿はしないの」
「まあ、そうだな。途中で翼人族の村もあるし、宿に泊まりながらだから、ストラを出て一日目くらいしか野宿はしないかな」
「そうなんだ……」
ほんの少しの落ち込んだような表情を見せるエティカ。
それがエヴァンは気になってしまう。
「エティカは野宿がしたいのか?」
それはそれでかなり珍しい。
野宿なんて硬い地面に寝なきゃいけないし、夜通しで魔獣や野盗の警戒しなきゃいけないしで良いことはない。
エティカが野宿をしたいのなら、ほんの少し多くする事もできるが、身体的や精神的な負担が大きいので、基本的には宿に泊まる事になるが。
ただ、希望があるのなら聞いておきたいエヴァン。
対して白銀の美少女は、両手を振って否定する。
「ううん、野宿は、あんまりだけど、でも、ね」
「ああ」
エティカはエヴァンを照れくさそうに何度もチラチラと見る。
「エヴァンと、会ったの、野宿だったでしょ、だから、ちょっと、思い出したら、野宿も、良かったなあ、て」
エヴァンが幻生林にて野宿をしていて出逢った。
そのまま朝まで迎えた事。
その出来事がエティカにとって良い思い出なのだ。
だからこそ、野宿そのものはあまり好きではないが、エヴァンと一緒に野宿するのは好きなのだ。
エヴァンが一緒だと好きになれるのだ。
モジモジとするエティカの可愛さに意識が飛び掛けるエヴァンだったが、すぐに魂が戻ってくる。
「ああ、でも、野宿がしたい、訳じゃないからね。お泊まり、できるなら、そっちの方がいいから」
「……分かった、じゃあ予定通りで行こうか。まあ……野宿は結構疲れるし、負担も大きいから最初の一日だけかな。野宿すると必要な物もかさばって大変だしな」
「そうだね」
「だから、基本は最低限の物になる。着替えや保存食や水とかな」
「うんうん」
こくんこくん、と揺れる髪。
半年間で伸びた髪は肩甲骨に届くほどだった。
「荷物は軽めに、何かあっても捨てて逃げられるように、が野宿なんだが……」
「だが?」
エヴァンの言葉に合わせて、首を傾けるエティカ。
「それは馬も借りず野宿に行った場合だけで、馬を借りればある程度、荷物はかさばっても問題ないんだ」
「おお〜」
「そして、今回は馬を借りて家に帰ろうと思う」
ぱちぱち、とエヴァンに合わせて拍手をしてくれるエティカ。
実家に帰るという楽しみだけでなく、馬と一緒という新しい楽しみも生まれたのだ。
「エティカ、馬は平気か?」
「うん、見た事は、あるよ、大丈夫」
「そうか、なら馬を借りて帰ろう。必要な物とかも教えるから」
「うん、ありがとう」
エティカにとっては長旅になる。
馬がいれば疲れた時に乗ることもできるし、何より爽快で気持ちいいものだ。
それをエティカが楽しんでくれればいい。
疲れて嫌な思いをするより、楽しい思い出になればいい。
エティカの為なら、何でもしたい。
エヴァンはそう思えた。
「エヴァン」
「ん?」
「ありがとう、楽しみ」
絵画にしても高値で売れる程の美少女の笑顔が、青年に襲いかかった。
子どもらしい笑みではあるものの、その中に大人らしい淑女のような微笑みとも言える笑顔。
小さかった少女は着実に成長していた。




