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第637話「結を誓いて、結びて【前夜7】」


 自分の――新郎の服装なんてすぐに決まった。

 というか、よく分からないからお店のお姉さんに全部任せたわけだけど。

 そんなお姉さんも「貴族の中でも、今までの風習やら儀礼なんて関係なく好きな色に、お気に入りの装飾を施す人が多いんです。最近の流行りと言いますか、ですので、お好きに選んでください」と、言ってくれた。

 近頃の結婚とやらはそうなっているらしい。

 まぁ、そうだよな。

 結婚式だからといって派手な色の服を着なくてもいいだろう。

 そんな人が多くなっているからこそ、お姉さんの対応も早かったんだな。


 かといって、全部が全部簡略できたり、新郎新婦の好き勝手にできるわけではなく、冠だけは豪華なものになった。

 ちょっと渋い顔をしたら、お姉さんに「ラスティナ国王の御前ですよ!?」と驚かれたもので、叱られた子どものように首を縦に振るしかなかった。


 まぁ、結婚式に来るのは国王だけじゃない。

 多分、イラオも来るだろうしバイスさんだって来るだろう。

 その話は式場でするだろうけど、もし名簿にその名前がなかったら、追加するつもりだ。

 後は、ヘレナにアヴァン、ローナとかか。

 ハーストさんやバル爺にだって。


 そう思うと、招待状の作成が面倒になりかけたけど、お姉さんの計らいで「新婦様のドレス姿も見ますか?」と提案されて、即決して、実際に見てから。

 そんな考えなんか吹っ飛んだ。

 というより、面倒な気持ちなんか消し去った。



 床まで舞い降りた純白のドレスは、様々な刺繍で凹凸が作られていた。

 それだけじゃない。

 その刺繍一つ一つに膨大な時間が掛けられているのがわかるほど、艶やかな衣装はエティカの権威を表すには充分なものだ。

 なにより、ふわっとした全体的な印象をレースの裾先が際立たせ、床に触れているようで浮いていると言ってもいいくらい、綿雲のようなドレスだ。

 そして、こちらを向いた小さく宝石の美しさを宿した顔には、ヴェールが掛けられ、お淑やかなイメージを深めていく。

 ただ、彼女の色白な肌はヴェール越しでも真っ赤に色づいていている。


「……ど、どうかな?」


「綺麗だよ」


 そっと近づく。

 いつもなら、こちらを見あげてくれる瞳は恥ずかしさに隠れている。

 それがどれだけ愛おしいか。

 この人が自分の花嫁かと実感すれば、自然と右手が天をつくものだ。


「……エヴァン、大丈夫?」


「大丈夫。どうやって嬉しさを表現しようかと思った結果だ、気にしないでくれ」


「そ、そっか」


 そうやってふざけたお陰だろうか。

 エティカの恥ずかしげな表情は少しだけ和らいだようにも見える。


「それにしても、やっぱりエティカは美人さんになったな」


「そのセリフ、おじさんみたいだよ」


 事実なんだからいいじゃないか。


「旦那様、結婚式当日には更にお化粧や宝石をふんだんにあしらった装飾などもお付きします」


「てことは、もっと綺麗になるってことか」


「はい」


 ささっと、俺の近くまでお姉さんはやってきて従者のように教えてくれる。

 なるほど、最高じゃないか。


「あんまり、褒められると困っちゃうなぁ……」


「いつも褒めまくってるし、当日はもっと褒めまくるから覚悟していてな」


「ふぇー……」


 なんて気の抜けた声を出すんだか。

 まぁ、でもお姉さんに案内されてよかったし、エティカも好きなドレスを選べたようで良かった。

 それでも、本人は地味目なウエディングドレスを求めていたらしいけど、お店の人から「せっかくの晴れ舞台ですし、色ではなく刺繍や装飾品で豪華さを出してみませんか?」と妙案をくれたらしい。

 流石というかなんというか。

 そして、このお店はそのまま結婚式でも着付けや化粧もしてくれるようで、至れり尽くせりだったのは言うまでもない。


 ……お店のお姉さん達に呆れるほど、エティカのウエディングドレス姿を堪能していたのは、ここだけの話。

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