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第607話「いよいよで回想」


 ようやく、いよいよと言ったところではあるが、話を全て聞いた国王からの一言はあっけないものであった。

「非常に恐ろしい」の感想だけではあるものの、それが現状を憂いるには充分である。

 うん、充分すぎるほどにおぞましい。

 だからこそ、会議というのは進んでいく。

 円滑に、明快に。

 快活といかなくとも、滞りなく。

 そんな中、俺の出番というのはない。

 全くない。

 うん、だって政治経済なんて分野そもそも興味は無い。

 経営を学んだところで結局またぶっ倒れるのが目に見えている。

 だから、しない。

 興味もない。目指す気もない。

 そうやっていなければ、いけない。

 というわけで、ここで頭を空っぽにして会話の内容を反芻してしまってもいいのだが、それだと飽きてしまう。

 誰がって、俺がね。

 だから、少しだけまとめよう。

 うん、整理というやつだ。

 が、しかし。それよりも先に解消しておかなければいけない事象があったので、最優先にしておこう。

 宿屋で聞いた話の一つだ。



 ◆    ◆    ◆



「そうだ『救世主』よ、面白い話をしてやろうか」


 ベッドにて足を組んでしまったはしたない『魔王』は、願いを聞き入れてもらって満足したのか上機嫌に言い始めたのだ。

 いやね、これ。

 断っても無理やり聞いてくるでしょ。


「嫌だと言っても話すんだろ?」


「まぁな。そうでなければ忘れてしまう」


 何が、とは聞くまいよ。


「今言っておかねば、気づいた頃にはお前達は朽ちているからな」


「……そう悲しい顔するなよ、ロイアさんの体乗っ取ってるのに神妙になるな」


「うるさい。えぇい、小うるさいのから人族は好きになれん」


 ツン、と頬を膨らませるイラオ。

 女性――というか、女子だな。まるで。

 いや、でもな。

 仕方ないんだよ。

 そもそもの土台。体の作りだけでなく、人生そのものが違いすぎる。

 生きている年月もそうだ。

 強靭な体も。

 屈強な魔力も。

 卓越した技術も。

 超越した器用も。

 ない人間だから、茶化すしかできないのだ。

 そうやって、遥か高みにいる者を同じ目線に降ろさなければ、一緒に話ができないから。


「で、話ってなんだよ。面白い話なんだろ?」


「……ふん、まぁいい。気が変わるのは数百年先でいいだろう」


 随分長生きなことで。


「あたしと城で話し合っていた時、傲慢の魔女が言っていたことは覚えているか?」


「王国にいる人間の洗脳はほぼ解消されつつあるってことか?」


「そうだ」


 気になっていた。

 忘れかけていた内容が強烈な速度で戻ってきたような、思い出し方をするくらいには気にしていた。


「おそらく……傲慢の魔女が言っていた女性ていうのは、ヴィラ様で間違いないと思う」


「ヴィラ……あぁ、あの断頭台に登ってきた奴か」


「奴って……」


 横暴な言い方だな。

 もうちっと、王様らしい言い方はできないものか。


「仕方ないだろ。好意的な奴は嫉妬の対象だ」


「はぁーん。よく分からないが、分からないままにしておこう」


 きっとその方がいい。

 あまり深く考えるな。

 そう言い聞かせよう。


「そいつが、洗脳を解いた。もしくは、解消している最中だというのに、今日の、あの場にいた連中は皆勤勉の魔女の手中にあった」


「失敗した……というわけではない感じだったけど」


「能力が介入していた痕跡はあったからな。あの国王にもあった。さすれば、成功か失敗かはこの場合の判断基準ではない」


 実際、操られていたわけだし。

 むしろ、失敗していたか。

 成功していたとしても、さして問題ではない。


()()()()()()()。それを話してやろう」


 そう言うやいなや、イラオはベッドに横たわる。

 しかも、丁寧に掛け布団を首元まですっぽりと掛けて。


「……話すんじゃないのか?」


「ふかふかベッドを堪能していながらでもいいだろう」


 いや、そのまま寝落ちしちゃいそうだけど。

 例え、寝なくても平気な魔人族でも決して寝ないわけじゃない。

 眠気がないというだけではない。

 単純に寝方が不規則なだけで。

 単純に寝方を知らないだけで。

 単純に寝るのが下手なだけで。

 状況や環境さえ整っていれば、寝られる種族だ。

 エティカが証明している。

 ……たまに、エティカも夜更かししているみたいだけど。

 あぁ、名前を言ってしまうと焦がしい気持ちがわいてきた。

 今どこで何をしているのだろうか。

 寝られているだろうか。

 寂しがっていないだろうか。

 ちなむと俺は寂しいぞ。


「まぁ、単純な話だ。どっちの能力が強かったか、それに尽きる」


「だろうけど、勤勉の魔女がほぼ封印されたみたいな状態でも能力て継続されるのか」


「そりゃそうだろ。そういう風に掛ければ、そうなる」


 例え、能力を掛けた者が倒れたか。最悪、死んだ場合でも能力の効果が継続されるようにすれば、それは続く。

 まぁ、幾分かの期間までになるだろうけど。


「ちなみに、どちらかが先に掛けていたとして。後書きできることもまぁまぁあるわけだが、今回は最初から居座っていた勤勉の魔女の方が強かっただけに過ぎないわけだ」


「だったら、なんで成功したって傲慢の魔女は言ったんだ?」


 そもそも失敗していることが見えているのなら、わざわざ成功だなんて嘘をつく理由がない。

 もしくは、嘘じゃなくて成功だと誤認したか、だが。


「そんなの、成功したように見えた。これに尽きる」


 やっぱりそうらしい。

 いや、それ以外にありえないと言うべきだろうか。


「これがまた厄介な点――いや、面倒くさいところなんだがな。どうやら成功していたのは事実だったみたいでな」


「……?」


 思わず頭を傾げる。


「塗り替えられたとか、後から失敗するように上書きされたとかか?」


「いや、んー。どう言うべきだろうか」


 と、言っては天井を眺めるイラオ。

 そんなに難しい現象が起きていたのか。


「これは観測したものをただ並べているだけに過ぎないが、どうやら一度は成功していた」


 じゃあ、やっぱり上書きされたか。

 覆されたか。

 それこそ、作り替えられたか。

 そのどれかじゃないのか。


「しかし、あの断頭台での出来事以降、ヴィラの能力の影響が一切起こっていなかった」


「……」


「まぁ、そうだな。簡潔に言うなら、そもそもヴィラの能力が使われたこと自体なくなっていたわけだ」


 どうやら、過程そのものを消されたらしい。

 いや、作り替えられたか。

 そもそもヴィラ様の能力が使われたこと自体を、使われなかった現実へ作り替えられたのだ。

 考えていたことよりも最悪だな。


「……それが面白い話なのか?」


 もっと期待していたものとは違っていたし、なにより聞いていてどうにかなることではない気もしていた。

 というか、既に傲慢の魔女が【解いた】のだから、結果的には大丈夫じゃないのかとも思う。

 過ぎたことでもある。

 大丈夫だと判断した上で、別日に会議が開かれるのならそれに甘んじるのもいいだろう。


「あぁ、お前に言っておけば能力の使い方の幅が広がると思ってな。どうだ?」


「……あいにく、知らなかったことではあるけど」


「ならいいじゃないか。感謝しろ」


「おぉ、恩着せがましい」


 まぁ、不貞腐れるよりかはいいか。

 ここぞばかりに、自慢げな顔でこっちを見てくる分にはいいだろう。

 どこで使うか。

 どうやって使うか。

 なんて分からないけど、勤勉の魔女との性質が近い分、活用する手段はありそうだ。

 覚えていて損は無いだろう。

 まぁ、面白い話かどうかはさておき、ね。

 

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