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第50話「エティカの場合」

 エヴァンと慈善の魔女との会話も終了し、エヴァンがストラ領への帰路を急いでいる時、エティカは自室にて読書をしていた。

 絵本と辞書を並べ、それぞれを見比べながら、熱心に読む。

 絵本に書かれている言葉を辞書で調べ、言葉を学んでいく。


 それは昔からしている事のように、手馴れた様子で調べていく。

 エヴァンが早朝に出掛けてから、既に昼を過ぎている。


 眠い目を擦りながらアヴァンの支度を眺め、ローナの手際の良さに感心していたが、宿屋や掲示板を利用する冒険者が増えた頃合に、邪魔にならないように自室へ向かったのだ。

 小さいとは言え、十歳ともなればそういった空気の読めるエティカではあったが、自室でやる事はもっぱら読書。

 暇潰しにも、時間も寂しさも埋めるには、充分だった。


 コンコンコン。


 部屋の扉をノックされた、エティカはビクン、と驚く。

 どうしよう、と迷う暇もなく扉は開けられる。


「失礼します。エティカちゃん、大丈夫かしら」


 部屋に入ってきたのはローナであった。


「うん、だいじょう、ぶ」


 ローナはある程度の業務を片付けると、エティカの様子を見に来たのだ。

 そのままエティカの元まで静かに歩く。


「あら、本を読んでいたのね」


「うん、おもし、ろい」


 エティカの絵本と辞書を交互に読んでいる様子に、ローナは目を見開いた。

 併読していたのだ。

 ローナからの辞書とエヴァンからの絵本を有効活用していた。

 エティカは意外と読書家なのかもしれない、とローナは感じる。


「それなら嬉しいわ。エティカちゃんは読書家なのね」


「うん、ほん、よむの、すき」


 満面の笑顔で答えるエティカ。

 その頭を優しくローナは撫でる。


「プレゼントした甲斐があるわ、ありがとうね」


「えへへ」


 撫でる度に触れる角の感触。

 可愛い痩せ細った彼女であろうと、魔人族である事をそれが象徴していた。

 それでも、エヴァンが保護している。

 助けた、という事実があるので不安要素はない。


 寧ろ、小さな角さえも可愛らしいと、ローナはそう思えた。

 プレゼントした物を大事に使ってくれているのも含め、愛おしさも増していく。


「やはり、エヴァンにはもったいないわね」


「ん〜?」


 首を傾げるエティカ。

 ポツリと零した独り言、エヴァンにはもったいない程、可愛く賢く気遣い上手の子を撫でる。


「何でもないわ。それより、何か欲しいものはあるかしら?」


 さながらその様子は、姪に小遣いを上げる叔父叔母のようであった。


「ほしい、もの?」


「ええ、買い物に行くからその時に買おうかと思ってね。何か欲しい物はあるかしら?」


 その言葉にエティカは考える。

 唇に小さな指を添えて。


「わかん、ない」


「まあ、そうよね。まだここに来て、数日ですものね」


 来て数日で欲しい物を頼める程、エティカは自己を主張していない。

 奥ゆかしい子で、「欲しい物は?」と聞いても、遠慮して言わないだろうと思っていたローナ。


 そこで、もう一つ提案する。


「エティカちゃんも、良かったら一緒に行く?」


「え……」


「買い物。一緒に行きましょう」


 このまま読書をしてもいいのだが、外の景色も見せてあげたいローナ。

 そして、色々な必需品も揃えてあげたい。

 特にエヴァンはそこら辺の気遣いが難しいからこそ、ローナは気遣ってあげたい。

 だからこそ、提案した。


「いい、の?」


「ええ、一緒に行ってくれるなら嬉しいわ」


 そこで、エティカは読みかけの本とローナを見比べる。

 視線が右往左往と。

 どちらの誘惑も魅力的だ。


「……いっしょ、に、いく」


 選んだのはローナとの買い物だ。


「ありがとう、じゃあ一緒に行きましょう」


「うん!」


 エティカとローナは仲良く笑いあった。

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