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第43話「会話の優位」

「把握できている限りは、『魔王』は人族の敵であり、その姿を見た者は少数だという事しか」


「いくつか訂正するなら、人族以外の敵でもあるぞ。そして、その姿を見た者の少数は魔女だ。学習能力もないのか」


 肘をついていたロドルナであったが、今は腕を組み、見下すようにエヴァンを見る。


「そうですね、『魔王』を見た少数が、魔女だと初めて知りました」


「ふん、王都にいれば知り得た情報だぞ。お前の怠慢だがな」


「それ以外ですと、あまりに残酷な殺害方法を、好んで行っているとしか思えませんが」


『魔王』の襲撃に合った村や、街の住人は皆、殺される。

 それも、血溜まりしか残らない。


 肉片も骨も臓器も全て潰され、圧縮され、その場に吐き捨てるように血溜まりしか残らない。

 身元が特定できない程に、人であったという証拠すら潰されるのだ。


 例え、子どもであろうと、大人であろうと、女であろうと、男であろうと、若かろうが、老いていようが、鍛えた身体であっても、鎧に身を包んだ身体であっても、足が速くとも、四肢のいずれかが欠損していようとも、精神的に病んでいようとも、裕福でも、貧乏でも、何者であろうと潰される。


「その程度の情報で、『魔王』をどのように考えているのだ」


 少し苛つきが宿った口調にロドルナは変わる。

 寄り道に逸らされる事が分かったからだ。

 その為に、修正した質問をエヴァンへ投げる。


「人族や他種族への恨みが相当、根強いものと考えています。それこそ、昔に何かあったのではないでしょうか?」


「昔というのは、どれくらい昔だ? 数年か? 数十年か? 数百年か? 数千年か? 神託歴の創設からか?」


 矢継ぎ早の質問に、少し怯むエヴァンに重ねるロドルナ。


「『魔王』は神託歴の創設から発現、『勇者』による消滅を繰り返している。そんな昔から続いている『勇者』側への恨みからの行動と、そう言いたいのか?」


「可能性としては、あるのではないでしょうか」


「無いとも言えんが、それは神託を授かった故の宿命としてウレベ様が言っている以上、必然としての現象だろうが。思考力の劣った猿めが」


 神託を授かった宿命と、ウレベは知っているという情報がエヴァンの手元に落ちる。


「私は『勇者』ではありませんし、詳細は掴めていませんが、殺人行為には理由があるのは必然でしょう。快楽的殺人が趣味であるなら、自己の欲求を満たす為に、殺害を行う。能力による衝動ならば、滅ぼす事を仕向けられているのではないかと」


「勘違いしてるな。能力のせいではなく、本人の意思だろうが。お前のその発言は『魔王』を庇った発言とも、捉えてしまってもいいのだな」


 その一言に、一人の王城騎士が構える。


「それは、言葉を誤って捉えた固定観念でしょう。殺人は許されざるものではありません。故に、『魔王』は許されざる者ではありません」


 その言葉に、構えていた王城騎士は解く。

 エヴァンは、危うく反逆者として監獄送りになる所であった。


「私は、相手の行動背景を考察する事で、より確実な対処が可能ではないか、と思っただけですよ」


「では、その為に必要な事はなんだ?」


 エヴァンの期待していた一言が、ロドルナから飛び出る。


「相手の情報が圧倒的に不足している現状では、全ての予想は確証もありません。それでは、対処方法が統一できずに被害が拡大するのは避けられ無い事でしょう」


「だから、なんだというのだ」


 ロドルナの苛つきが滲む。

 主導権が優位に進めるこの機会に、エヴァンは畳み掛ける。


「ですので、情報を多く知っている者と情報を交換し、対策を練るというのはどうでしょう? 神託歴の創設からの宿命だと知っている、ウレベ様が適任かと思いますが」


 恐らく、ウレベは何かを握っている可能性がある。


『魔王』と『勇者』の関係を、宿命、と言えるほどの情報を持っているのだ。

 例え、それ以外の情報を持っていようが、いなくとも、対策を練るという場への同席が強制される。


 エヴァンにおいては足りない情報の補完ができ、王政からは対処方法を固める事ができる。

 そして、この発言への応対次第で、ロドルナがどちら側かという確証も得られる。


 もしくは、ウレベと繋がっているという真実が出るのだ。

 冒険者組合ギルド長のバルザックからの、ロドルナはウレベと関わってからおかしくなった、という一言の裏付けが完了するのだ。


 対して、ロドルナはニヤリ、と笑う。


「ふん、ではいつも通り、ウレベ様への同席を促してみる事にしよう。……そうだ、他の魔女様も知っているかもしれないから、他の魔女様へも声を掛けてみるとするか」


 他の魔女。それは、対の魔女全員という事だ。

 接触してはいけない、関わってはいけない魔女七人が揃うのだ。

 それはきっと地獄絵図とも呼べる様相を呈すだろう。

 エヴァンの胃痛が酷く響く。


「ああ、しかし、いつもウレベ様へ同席を促しているが、ウレベ様も忙しい様子であるからな。能力研究所での研究や、幻生林の調査や、能力者の事や、王政についての意見や、王国直属魔女の統率などで、猫の手も借りたい状態であるだろう。その状態で、職務を放棄してまで来られない、なんて事もあるだろうな」


 上手い具合にロドルナは(かわ)した。

 ただ、ウレベの事を庇ったという事実は、残る。

 弱い事実ではあるが、少なからずの繋がりはあるという事にも捉えられる。


「職務放棄は無い方がいいですからね、余裕のある時にするのが建設的な意見が交わせるかと」


「だが、『魔王』がいつ襲撃するかも分からん、早めにするのがいいだろう」


 エヴァン自身は、ウレベへの接触までにある程度の情報を入手してから、臨みたいのが本音で、ロドルナからの申し出は望んでいない答えであった。


 ロドルナは、エヴァンが準備を整えてから参加したい事を見透かして、発言したのだ。

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