第30話「勤勉な考察」
冒険者組合を出たエヴァンは、ゆっくりと歩を進める。
向かう先は本屋。
ストラ領にも数件しかない本屋。古びた店構えで、その様子から年季の入った雰囲気を醸し出す、そこそこ人気のある店。
冒険者になってから通り過ぎる事はあっても、入ることも、読書することも、読み比べすることもなかった店。
そこへ向かう道中、ウレベについての考えが浮かんでは、何も掴めず消えていく。
バルザック同様、妄想の域を出ない。
ただ、バルザック同様、ヴェルディという友人がウレベと接触したのは事実であった。
見張りをしていて、ストラで出会ったという金髪の傭兵。
ヴェルディも変えられてしまったのだろうか。
勤勉の魔女によって。
王国直属の魔女が、わざわざストラ領にまで来て、何もせずに帰った、もしくは目的が達せられたのか。
王国直属であるため、王都から離れることは難しく、王都の中であっても行動が制限されているはず。
買い物や身辺整理、嗜好品の購入であっても制限がある。
それほどに窮屈で、退屈な状況に置かれているのに、勤勉の魔女はストラ領まで来られるというのだ。
そこまでして来なければいけない理由とは。
思い当たるとすれば、幻生林の実態調査。
エティカが、先日、幻生林にて魔女を見掛けたという。
その情報から、勤勉の魔女は幻生林の実態調査を、自身の足で、調査しに来たのではないか。
それならば、勤勉の魔女が来たという理由には繋がる。
幻生林を調査し、そのついでにストラへ来て、ヴェルディと遭遇。そんな流れならば理解はできる。
しかし、事実はストラでヴェルディと接触した、ということしかないのだ。
実態調査もエヴァンの妄想なのだ。
そもそも、実態調査こそ、冒険者組合に任せるべきだろう。
わざわざ、勤勉の魔女がその足で、調査するのは効率も悪い。
なら、一人で来なければいけない理由がある。
勤勉の魔女以外に、もし、王都から来た者がいなければ、という前提ではあるが、勤勉の魔女以外来ていなければ、一人でストラ領まで来なければいけない理由があるのだ。
勤勉の魔女を動かすもの。
そこへ至る答えをエヴァンは探し出す事ができなかった。
圧倒的な情報不足。
勤勉の魔女の姿形でさえ、分からない。
不明点ばかり。けれども、不明な点に気付かなければ、見過ごしてしまう程の些細なもの。
小さな針の隙間のような穴でさえ、深淵のような暗さを感じる。
裏で動く影、その影の伸びた先がエヴァンの首元のような、そんな予感。
本屋へ辿り着く頃には、いくつもの考えが不安要素になっていた。
エティカのことや、魔女のこと、『魔王』のことも。
考えずに済むことはないような気もしてきた。
魔女とは約束をしない。
そのことを胸に刻みながら、絵本を選りすぐる。




