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見捨てられた白銀の少女を救いました。この子を幸せにしたいので、魔王討伐やめて平穏な日々を目指します。  作者: 月見里さん
第五章 自由を駆ける鳥【幻生林編】

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第110話「変わり映え」

 あれから一ヶ月の実家帰省はあっという間に過ぎ去り、無事エティカとエヴァンは鴉へと帰ってきた。

 暦では、残暑も半ばでそろそろ秋のほのかな香りが漂う季節。


 黙する鴉は、変わらず営業していて、給仕のローナも長袖の白黒な給仕服へ衣替えしていた。

 アヴァンも秋らしいメニューを考案し、仕入れの品も変えていて、ヘレナは依頼を受けにきた冒険者へ魔獣情報を収集していた。


 そんな変わり映えは目立った箇所(かしょ)がないほど、落ち着いた鴉であったが、一番変わっている人間も何名かいた。

 その一人、黒髪が伸びて襟足もかなりの長さになった青年。

 毛先も外にハネはじめた毛髪なんか気にならないくらい、黒色が混じった茶色の瞳は、ただ一人へ注がれていた。


 見つめる先は、肩甲骨までの長さの白銀の髪。毛先がふわふわとしていて、こめかみを編み込んでいい匂いが香ってきそうな柔らかい印象を与える。

 きめ細かい頬にもうっすら化粧がされて、美白な肌を際立たせている。

 紅色の瞳も活力に溢れて輝いている。


 そして、なにより一ヶ月ほどであっても白銀の少女の成長は止まることを知らなかった。

 背はあまり伸びていないが、主に女性的魅力の成長。

 胸も大きくなって、エヴァンの目測だとローナと同じくらいで、ヒップも少しぷっくりと程よい肉付きになった。


 ただ、大きくなるのは出逢った頃の虚弱さを思い返すといい事なのだが、やっぱり男としてのエヴァンは素直に喜べない事態でもあった。


 毎日毎夜、一緒にいるからこそ困惑している。

 常に隣で肩が触れ合うくらい寄り添う。

 一緒に歩く時は、指を絡めて歩くし腕も組む。

 食事の時は、エティカから「あ〜ん」と食べさせ合う。

 夜寝る時は、エティカの抱き枕になって柔らかい部分が押し付けられる。


 それが、エヴァンの心臓を早めて、動揺で落ち着きを無くしてしまうからこそ、素直に喜べなかった。

 それほど急速に二人の関係も発展した。

 きっかけはおそらく、祭りの時であろう。


 せっせと働いている白銀の少女を目で追いかけながら、その時を思い返す。

 花火の爆音で隠されていた言葉で、青年には音すら届かなかったが、唇の動きで分かった。

 たった四文字の言葉。

 それでも、彼女は笑顔で頬を桃色に染めていきながら、空に浮かんだ火花よりも輝いていて。


 それに目を奪われた。

 心も奪われた。

 虜になって、夢中になって、頭が真っ白になって、ただ響くのは心臓と火薬の爆音。

 反芻(はんすう)するのは、朱色の唇の動き。

 おそらく、声の高さは緊張で上擦っていただろう。

 喉も乾いていただろう。

 それでも音になったのだろう。


 それも青年の自分勝手な妄想で、現実では違うかもしれない。

 ああでもない、こうでもないという葛藤で心ここに()らずのエヴァンは、人生で一番の試練を前にしていた。


 そんな、青年の様子が気に入らない紫髪の婦女は、目の前まで来ても一向にエティカから視線を外さないエヴァンの頭を盆で叩く。

 優しく、気づくようにポンッと。

 黒髪が押しつぶされて、ようやく青年は我に返る。


「なんだ、ローナ」


「いえ。無性に腹立たしい顔だったので、思わず」


「腹立たしいて、そんな顔してないはずだが」


「そうでしょうか? 鴉に戻ってきてからずっと上の空ではありませんか」


「いや、まぁ……」


 図星であった。

 浮ついた気持ちは宙に上がり、ふらふらと自由落下して居場所さえ曖昧(あいまい)

 まだ雪の方がマシとさえ思えるくらいの状態だった。


 そんなエヴァンへ呆れるようにあからさまな溜め息をついて。


「何があったかは知りませんが、謝るなら早い内にした方がいいですよ」


「は? 謝る? 誰に」


「エティカちゃんに、ですよ」


 エヴァンの心をかき乱す名前ではあったが、内容は食い違っていた。

 確かにエティカで上の空なのは間違いない。

 しかし、謝ることはしていない。断じて、決して、一切。


「謝るもなにも、そんなことしていないぞ」


「あら、そうなんですか? ですが、帰ってきてからずっとエティカちゃんを見ているじゃないですか」


「いや、それは……その……」


 なんと言えばいいか、なんと伝えればいいか。

 その迷いが態度に現れ、しどろもどろの歯切れが悪い返事となってしまう。

 いつもの真面目でアホ面と違うことが、なぜかローナにとってはイラつかせる要因となる。


 エティカを目で追うのはいつもの事。

 半年前から変わっていないこと。

 ただ、二人が実家へ帰ってからその瞳が違うように感じるのだ。

 熱っぽい。見ることで心が燃えているような目つき。

 その違いに気付くと同時。ローナの気持ちは穏やかではなくなる。

 それが腹立たしい。

 なにかあったのなら、解決して欲しい。喧嘩したのなら仲直りして欲しい。そんな事を切に願いながら。


「ローナ。そいつとエティカは喧嘩なんかしてないぞ」


 と、アヴァンが仕込みに一区切りついたのか会話に混ざってくる。

 赤い髪をタオルで巻いておさめた姿のまま、厨房から言葉を飛ばす。

 ただ、その言葉にローナは少し不服そうな声音で返す。


「そうなのですか? では、この呆けただらしない姿はなぜですか」


「だらしなくないぞ」


「うるさいです」


 質問に対する回答が不明瞭な青年へピシャリと言い放つ。

 思わずシュンとしたエヴァン。


 そんな二人の様子。そして、なによりローナの様子を見て、言うべきか否か逡巡の思考を挟むアヴァン。

 誤魔化すのもいいだろうが、早く乗り越えて欲しい気持ちの方が強いので、言うべきと判断する。


「簡単だぞ。エティカに告白されたんだろ」


 その言葉は、深く心に突き刺さった。

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