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見捨てられた白銀の少女を救いました。この子を幸せにしたいので、魔王討伐やめて平穏な日々を目指します。  作者: 月見里さん
第四章 限りなく青い空へ【実家帰省編】

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【外伝】「エティカのいつもの日 7」


 さて、そんなエティカの乗馬体験は激しく、蹄鉄の音とともに駆け巡った。

 最速で、風よりも速く、ゆったりと運ぶ荷馬車を追い越しながら。

 つまりは、爆走である。


「ひゃ……!」


「しっかり捕まってなよ! 速達、即日発送は止まれないぜ!」


 もう少し、手心を加えてもいいのではないかとも思うが。馬の性格や騎手の個性には逆らえなかった。

 基本的に、馬は臆病な性格で草食動物ということもあって目立つのを嫌う。

 走る時は、見知った者がいるところしか走らなかったり、慣れ親しんだ場所でないと無理だったりと様々である。


 そして、同時に臆病で物静かな子がいれば、その真逆の性格をした子もいるのだ。

 それが今、二人が跨っている青鹿毛の子。

 まだ二歳、遊び盛りで走り盛りなこの馬は、例え誰の目を惹きつけようとも自信満々にその駆け抜ける姿を美しく魅せる、自信家であった。


 騎手も騎手で、明朗快活の元気さを倍増させたような人物であった。

 そんな一人と一頭が交われば、自然と結末は同じ道を辿る。例えどんな過程を踏んでいようと、何があったとしても、この結末は変わらなかっただろう。


 とても喋る暇なんてない、しがみつくだけで精一杯な少女に対して、慣れた様子の騎手――もとい、門番をしていた若い男は前に視線を固定しながら大声を出す。

 エティカへ聞こえるように。


「そういえば、あんた黙する鴉だっけ? そこで働いてるんだよな」


 そう問い掛けられても、必死なエティカは返す言葉を発せられない。今何か喋ろうとすれば、舌を噛んで仕舞いそうだから。


「アーロンさんも、そこら辺の冒険者も新しく働き始めた白銀の髪の子がかなり可愛いと言っていたんだが、あんたで間違いないよな」


 間違いはない。

 黙する鴉に務めている白銀の髪を持つのは、自分しかいない。

 言いたいのだが、言いたいのに、相槌も打ちたいのに、それが出来ない。


「おい、どうしたんだよ。舌でも噛みちぎってしまったか?」


 ディランはようやく、馬のスピードを徐々に落としていった。彼自身も会話ができないことは嫌だったのか、はたまた少女がだんまりなことが気になったのか、心配になったのか。

 どちらにしろ、これでエティカも発言することができる。


 馬車道を歩くスピードまで、落ち着くと白銀の少女は、息を整えながらちょっと不満げな表情を浮かべる。


「もう少し、ゆっくり、走ってください……」


 切実であった。

 無理もない。優雅に、少し贅沢な帰路かと思っていたのに、現実は清廉さとは程遠い勇猛果敢な帰宅になっていたのだ。

 このままであったなら、黙する鴉へ着いた頃には意気消沈していたかもしれない。

 もしくは、生気を失いかけていたかもしれない。


 故に、主張は弱々しくも必死であった。


「あぁ、ごめんごめん。つい、いつもの癖でな」


 ニカッと、屈託のない笑みを向けるが、白銀の少女は白い目で見つめる。

 エヴァンだったら、もっと優しく、エティカが風景も楽しめるようにしていたはず。

 そう思えば、少女の中に暗い感情が滲む。

 そんな時、前を見据えたディランは、馬の首元をタンタンと叩く。


「ほら、(こいつら)いつも厩舎の中で、薄暗い中で待ってるだけだし、出れても小さな柵のこじんまりとした所しか走れないからさ。

 こういう移送の時くらいは、思いっきり走らせた方がいいだろ?」


「……」


 エティカは思い返す。

 彼女なりに知っているストラ領の地理や地図。その中には、馬が思いっきり走れる場所はない。

 どこもかしこも、住居がひしめき合っていて、厩舎の周りだけ少しのスペースがあるのみ。

 小さな柵に、申し訳程度の土。

 とても、満足な運動はできないだろう。


「それでも、遠征とかある時は嫌でも走らせなきゃいけないし、ずっと厩舎で引きこもらせているわけではないんだけどな。

 ただ、こう、なんていうの。俺力持ちだからさ、ちょっとやそっとじゃ振り落とされないし、手綱捌きも上手いし、なにより思いっきり走るの気持ちいいからさ。

 それに付き合ってもらってる感じだな」


「そう、なんですね」


「だから、あんたに苦しい思いさせてごめんよ」


 ディランはわざわざエティカの方へ振り向き、心ばかりかの頭を下げて謝罪した。


「いえ! わたしは、大丈夫ですよ!」


 慌てて、頭を上げてもらうように焦るエティカ。

 先ほどまで、エヴァンと比較し、ディランは荒っぽいと勝手な評価をしていたことも悔やみながら。

 実際、荒っぽいというよりかはしたいことが見えていると、そればかりで周りが見えなくなるのかもしれない。

 あえて、か。

 たまたま、か。


 どちらにせよ、理不尽に思っていたことを反省していたエティカに対して、ディランは曇りを感じさせないほど澄んだ笑顔を持ち上げる。


「そうか。ありがとうな。黙する鴉の【白銀の柔姫(やわひめ)】を傷つけたって噂になったら、俺ぶっ殺されるかもしれないからな」


 とんでもないほど、物騒な言葉を吐き出すが、それよりも、エティカが気になったのはとある台詞だ。


「白銀の柔姫……?」


「そう。黙する鴉にはとんでもなく可愛い、見るだけで癒される白銀の女の子がいるって、半年くらい前かな? だいたい、その頃から話しが出回ってるんだぞ。あんた知らなかったのか」


「知らない……」


 知るはずもない。

 黙する鴉の中で生活は完結していたのだ。たまに、ローナと買い物に出掛けたり、今回みたいな届け物をするようになったのもつい最近のこと。

 外で噂になっているとも思っていなかったのと、対して外の話が気にならなかったからこそ、自分にそんな二つ名が付いているとは微塵も考えていなかった。


 考える方が稀ではあるのだが。


「ほら、あんたとこのエヴァンだっけ。あいつがやけに白銀の女の子を大切に、過保護なくらい扱ってたからさ、冒険者連中が面白がって王子様とお姫様だなんて言い始めたんだよ。

 きっかけはそこからだな。それから、【白銀の柔姫】なんて称号が付くようになった。あんたが思っているより、あんたは有名人だぜ」


 恥ずかしさで隠れてしまいたい。

 今すぐ穴を掘って、埋まりたい。

 もしくは、布団の中に潜り込みたいほどの羞恥心の少女は、ゆっくり進むことを憎みながら俯いた。


(早く、着いて……)


 先ほどとは真逆の思いを抱きながら、ゆっくりと黙する鴉へ到着した。

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