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見捨てられた白銀の少女を救いました。この子を幸せにしたいので、魔王討伐やめて平穏な日々を目指します。  作者: 月見里さん
第四章 限りなく青い空へ【実家帰省編】

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【外伝】「エティカのいつもの日 6」


 そんな重みもいつしか解放される時が来る。

 なんてことはない、中年男性の子どもの自慢話を聞いていればあっという間に、ストラ領南門まで辿り着いた。


 行き交う人の流れに逆らい、荷馬車の揺れに立ち向かいながら、門番として働いている者の元へ二人は歩く。

 すると、見た目から若そうな者が気付き、駆け寄ってくる。


「アーロンさん! 随分長かったですね」


「おう、ちょっくら寄り道をしてきたからな」


 汚れでくすんだ胸甲を身につけ、中年男性から荷物を受け取ろうとしたが、隣にいたエティカに気付いて最優先すべきは少女の抱えている物だと判断したのか、手を伸ばしてくる。

 手を覆っている銀色の甲虫のような軽装甲。

 多少ボロボロで、年季の入った気配のするそれが気になったエティカ。

 それに付随して、中年男性の名前がアーロンだということも気になったが。


「あ、ありがとうございます」


 荷物を受け取ってくれる優しさに甘え、渡そうとした。渡そうと、力を抜きかけたがハッと思い出す。

 この木箱の重さを。


 ローナでさえ持ち上がらず、中年男性であっても腰を痛める品。

 それをいきなり渡して大丈夫なのかと。

 怪我をしないか。無理に力を入れてしまって腰がやられてしまわないか。

 そんないくつもの逡巡を挟んでいた様子を見かね、中年男性は安心させるよう笑みを浮かべる。


「大丈夫だぞ人形さんよ。ソイツ、力仕事得意だからよ」


「そ、そうですか……」


 実際に荷物の重さを知っているアーロンが言うなら、大丈夫なんだろう。

 そう思って、微笑む若い男性の腕に優しく木箱を下ろすと、中年男性の言う通り、思惑通りに軽々と受け渡しが完了した。


「結構、軽いですね」


 しかも、そんな軽口まで叩くのだ。

 エティカが若干重く感じた物を、軽いと。

 そうなってくると彼がどれだけの力自慢なのか、純粋な興味が湧いたエティカではあったが、依頼とは別だと意識を切り替える。


「ほんじゃ、それを厩舎に運んでおいてくれ」


「はい!」


 アーロンの指示を快く返事した男性は、意気揚々と南門近くに建てられた小屋へと向かっていく。


「人形さんもありがとうな、ここまで運んでくれて。

 依頼完了だ。手を出しな」


 しばらくその動向を気になっていた白銀の少女であったが、不意にそう告げられ、言われるがまま小さな手を前に突き出す。

 細長く整っていて、真っ白なそこへ。

 丸々っとして、少し冷たい、赤褐色の物が三枚落ちた。


「え、これ」


「依頼完了の代金。ヘレナさんに聞いたら銅貨二枚が妥当だと言われたからな、一枚は俺からの心ばかりの贈り物だな」


 ガッハッハッと、豪快に笑うアーロンであったが、エティカは納得いっていないのか、酷く戸惑った顔をする。


「でも、わたし、運んだだけ……」


 彼女はただ、荷物を運んだだけ。

 重い物をただ、抱えて歩いただけ。

 労力なんてないし、時間が掛かったとしても給仕の暇な時間をつぶせた程度のもの。

 それに、ただ親切心でやっただけなのだ。


 困っていたら助ける。

 自分にできることなら、手伝う。

 そんな気持ちであったからこそ、行いに対して金銭を貰うのが非常に申し訳なくなったのだ。


「いいか、人形さん」


 しかし、そんな様子のエティカへ髭をたくわえた中年男性は、真剣な目つきになる。

 表情は穏やかで、けれども瞳の奥は優しく、だが大切なことだという雰囲気で。


「それが働くということだ。誰かを助けて銅貨をせびれ、という話ではないが……。

 えっとな、誰かに優しさを与えるということは、誰かに違う形の優しさを貰うことなんだ。

 それが働くということで、人形さんがやってきたことで、エヴァンがやってきたことでもあるし、黙する鴉の連中がしていることでもある。

 だから、落とさないように小袋でもポケットでもいいから、しまっておきな」


 エティカはそう言われて、手の平に転がっている銅貨を眺める。

 赤銅の色をしていて、それぞれ色味が違っていて中には真っ黒にくすんでいるものもある。

 ただ、荷物を運んだだけで三枚。

 しかし、それは結果だけを見た場合の感想であって、本来の過程はもっと違っていた。


「門番のおじさん、ありがとうございます」


「いやいや、こっちこそありがとうな。人形さんも、何か頼み事があれば遠慮なく言ってくれ」


 固く握りしめ、ギリっと硬貨の擦れ合う音を確かめると、輝く笑顔を浮かべたエティカ。


(これが、依頼なんだ)


 黙する鴉の給仕とは別の。普段エヴァンや酒場に来る冒険者のやっていること。

 それを実感すればするほど、なんだかエヴァンに近づいたような気がして、にやけてしまうエティカであったが、とある声が介入してくる。


「アーロンさん! 運び終えました〜」


 先ほどの若い男性だ。

 輝くほどの活気と、きらめく金髪を揺らめかせて駆け寄ってくる。

 そんな若々しい男性に、アーロンは何か閃いたようでハッとした表情をすると。


「あ、ディラン。終わったばかりで申し訳ないが、もう一つ頼み事してもいいか? お前が抜けた分の仕事は俺がしておくから」


「え、はい。大丈夫ですよ」


 何か大事なことかもしれない。

 そう思ったエティカは、離れるべきか否か考え、とりあえずと貰った銅貨を小さな革で作られた袋に収める。

 そんな、部外者であったエティカ。

 しかし、本人が思う以上に物事は急に動き、突然やってくる。


「北門へ連れていく馬が一頭いただろう。移送のついでにこの子を黙する鴉まで、乗せて行ってくれ」


 若い男性――ディランの移送する馬に乗るという、予期せぬ事態になった。

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