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見捨てられた白銀の少女を救いました。この子を幸せにしたいので、魔王討伐やめて平穏な日々を目指します。  作者: 月見里さん
第四章 限りなく青い空へ【実家帰省編】

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【外伝】「エティカのいつもの日 5」


「いやぁ、すまないね。歳のせいか、どうにも重たい物は持てなくなってね」


「い、いえ」


 黙する鴉を出て目の前の石畳を南下。

 まばらに埋められた道を進む中年男性と白銀の少女は、それぞれ小さな木箱を抱えている。

 傍から見れば親子の買い物帰りとも見えるし、顔立ちの違いから雇用関係だとも見える。

 そんなエティカが楽々と手にしている物は、本来ならば大の大人でも持ち上がらない代物であった。


「あの……なんで、わたしに?」


 依頼したのか。

 そんな末尾が付随していそうな口調な少女。

 実際疑問ではあった。


 白銀の少女は、冒険者でもない。依頼をこなす者でもない。

 ただの黙する鴉の給仕であって、力仕事ができるような見た目ではないのだ。

 だからこそ、わざわざエティカを名指しされたのが気になった。


「ん?」


「わたし、冒険者でも、ないし」


「あぁ、そのことか。別に誰でも良かったんだがな、それこそ一人でやるべきだったんだがな」


 なにか含みを持たせる言い方。

 手にした木箱から擦れ合う甲高い音に合わせ、男は理由を話し始める。


「本当は荷馬車でも借りて運ぶ予定だったんだが、ここ最近物流が活発になってな。馬でさえも気軽に借りられなくなるくらい、王都へ物を運んでいる煽りを受けたわけさ」


「はぁ……」


「でも、一人で運ぶには文字通り骨が折れるというか、俺もそんな若くないからな、腰が折れる前に冒険者の若造を利用させてもらおうと思ったわけさ」


 確かに、今少女が軽々と抱えている物がなんであれ、とてつもない重量なのは実証済みだ。

 黙する鴉を出る前、ローナがエティカの代わりになろうとして、何度も挑戦したが、一向に持ち上がらなかった。

 ビクともせず、地面にビタ付けになったそれは白銀の少女でしか持ち上がらなかった物ではあった。


「そのために鴉へ行けば、獣人族の男が暴れててな。店の外から眺めてたんだが、ちょうど人形さんが現れてなぎ倒したじゃないか。

 あれで、荷物を任せるなら人形さんしかいないと思ったわけさ」


「み、見てたん、ですか……」


 恥ずかしさが少女を襲う。

 女の子らしくない。むしろ、大の男、筋骨隆々の獣人族に勝ったなんて誰が想像しただろうか。

 こんなにもプニプニの腕で、細くしなやかな体なのに。


「まぁ、誰にも言わないから安心しな。今日だって木箱だから周りからは重そうに見えないはずだしな」


 言われてみれば、エティカが抱えている小さな木箱も門番の男性が持っている物も同じ大きさ。

 形も一緒で、瓜二つなそれは、傍目では重く見えないだろう。

 むしろ、男が抱えている方が重いと錯覚するかもしれない。

 そんなささやかな配慮がされていたのだ。


「あ、ありがとうございます……」


「何言ってんだ、こっちの台詞だぞ? 人形さんが運んでくれなきゃ、届けるのが日暮れになってたからな」


 ガハハと豪快に笑う。

 そんなに重量があるとは感じないエティカであったが、普通の、人族にとっては重い。

 それが、酷く心にのしかかる。


 抱えていて、普段持っている物となんら変わらない。

 しかし、これはローナでさえ持てなかった物で、門番の男性でも運ぶのに時間の掛かる。

 それを楽々と腕に収めている筋力も、持続力も、なにもかも違うのだ。

 魔人族と人族の違いを考えれば考えるほど、白銀の少女は気持ちが沈んでいくが。


「そういえば、人形さんも見ないうちに大きくなったもんだ。あの時はエヴァンに背負われていた小さな人形だったのにな」


「……え、あ、い、いや」


「栄養失調とかそこら辺だったんだろうな……。うん、やせ細っていて、今にも死にそうだったし。

 こんなに健康的で、大きくなってエヴァンも嬉しいだろうな」


 エティカは魔人族であることを恨んではいない。

 憎んでもいない。

 ただ、悲しいと思っていた。


 身体の成長速度も、筋肉や思考力や精神に関しても成熟するのが早い。

 それは、人族とは比べ物にならないほど迅速に、圧倒的なほどで、たったの半年とちょっとでエヴァンの肩までの背丈にもなった。

 胸が大きくなったりとかは、あんまり嬉しいと思ったことはないが、女性的な肉体になることを誇らしいと思えなかった。


 むしろ、気持ち悪がられていないか心配であった。

 ついこの間まで、小さな存在が自分に追いつくように背が伸び始めて怖くないかと。

 髪が伸びるのとは違うのだ。


 そう思っていたからこそ、大きくなることはエヴァンから世話を焼いてもらえないと思えっていた。

 それが悲しく、虚しい気持ちの少女に中年男性は自分勝手に話していく。


 エティカの心情を察してか、はたまた気まぐれか。


「まぁ、子どもに大きくなって欲しいと思うのは当たり前のことだからな」


 と、親心たっぷりに少女へ話し始めたのだ。


「例え、血が繋がっていようと、繋がってなくても。

 養子縁組を結んでいようと、いまいと。

 恋仲であろと、なかろうと。

 子どもが健やかに過ごせる、それを願って、祈っている大人がほとんどさ。他人の、顔も知らないし話したこともない相手でも、そう思うのが当たり前だと俺は思うね。特に、黙する鴉の連中はな」


「……」


 思わず、何も言えずにただ門番の男性を見つめる紅色の瞳。若干、驚きにも染まっていて、自分の抱えていた考えが一新される瞬間でもあった。


「だからもう、小さな人形さん、なんて言えないな! もうこんなにも立派になったんだから」


 立派になった。

 それは嬉しい言葉でもあったが、それよりも嬉しいのは。


(大きくなってもいいんだ。当たり前なんだ)


 そう認められたからだ。

 魔人族の女の子としてではなく、たった一人の女の子として。大きくなるのが当たり前で、それが普通のことで、それを願っていてくれていること。

 人知れず抱えていた重荷が軽くなったような。

 

 いつしか知らぬ間に、黙する鴉の面々に認められていたのだと気付かされたエティカ。

 先ほどまでの沈んでいた表情は晴れて、太陽のような輝きを取り戻す。

 少しだけ、抱えた木箱を重く感じるくらいには。

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