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見捨てられた白銀の少女を救いました。この子を幸せにしたいので、魔王討伐やめて平穏な日々を目指します。  作者: 月見里さん
第四章 限りなく青い空へ【実家帰省編】

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【外伝】「エティカのいつもの日 4」


 ヘレナによる仲裁の直後、己の行いを反省した獣人族の男は巻き込んでしまった冒険者や旅人へ謝罪していった。

 その後ろ姿は狼のような勇ましさも、気高さもない。

 ただの犬同然であった。


「エヴァン」


 さて、そんなことがあった事実。

 それに白銀の少女が関わっているとなれば、保護者である青年へ矛先が向く。


「……はい」


 ビンタか。はたまた拳骨か。ありとあらゆる叱責か。

 それらを覚悟したエヴァンに対して、金髪の婦女は呆れたように、もしくは慰めのような表情を浮かべると。


「もっと、精進しなさい。エティカちゃんを守るなら、ね」


 そう青年の肩を叩き、本来の仕事へ戻って行った。

 ぐうの音も出ない。

 正論を叩きつけられたエヴァンは、その言葉を噛み砕き、飲み込んだ。


 そもそも、エヴァンが対処できていたはず。

 いや、勝利を飾るべきだったのだ。


 そうすれば、エティカが表舞台に立つ必要もなくなる。それに伴って増える噂も少なくなる。

 ただの可愛い給仕で済むはずが、腕っぷしの強くて可愛い給仕という印象を他者へ与えなくていいのだ。

 リスクは限りなく減らす。

 エティカの身はしっかり守る。


 そういう約束であって、そういう取り決めでもあって、それが暗黙の了解でもあったのだ。


 今回の件は、獣人族の男の暴走で片付けられるだろうが、エヴァンの鍛錬不足という側面にも繋がる。

 ここ数日、エティカの傍にいたいからという理由で幻生林への野宿や、依頼をこなす頻度も低下していたのが浮き彫りになった。


「エヴァン……」


 恐る恐る。

 伺うように、紅色の瞳は不安で揺れて青年を見つめる。

 そんな姿を見たエヴァンは、己の怠惰を呪い、区切りをつけるべきだと優しく白銀の頭を撫でる。


「大丈夫。俺、もっと強くなるよ」


 そう言うことで、自分を追い詰めたエヴァン。

 目標から逃げないよう、決めたことから背かないように。

 そんな慌ただしい朝はヘレナの指揮によって平凡な日常へと戻っていった。



 ◆    ◆    ◆



 黙する鴉の開店はいつも早い。

 しかし、店を開けるといっても酒場を利用できるわけでもなく、主体となるのは冒険者への依頼の受領や完了の書類手続きや、宿泊客の諸々。

 その間、給仕であるエティカとローナは仕事が無いかと言われると、しっかりと業務は詰められている。


「じゃあ、仕入れ行ってくるから仕込み頼むな」


 黙する鴉で唯一の料理人。

 そして、料理の腕も一流の赤髪の男――アヴァン・ベルヘイムは小さな鞄を手にすると、調理場で作業している白銀の少女と紫髪の給仕へ伝えた。


「はい、お気をつけて」


「行ってらっしゃい」


 快く、笑顔で送り出したエティカとローナ。

 その手には大量の芋が握られ、鮮やかな黄色の肌が剥き出しになっていた。

 午前中は、食材の仕入れや仕込みの時間となっている。それは料理人であろうと、給仕であろうと職務に変わりはなく、むしろ手伝わなければ暇で仕方ない時間となる。


「エティカちゃん。そろそろ休憩してもいいわよ」


 と、素早く皮をひん剥いていきながらもローナは優しく提案した。

 しかし、そんな言葉を白銀の少女が受け入れるわけもなく。


「ローナちゃん、ずっと、起きてるし、ローナちゃんが、先に、休んで」


「いや、私は大丈夫よ」


 むぅと。

 紫髪の給仕の返事に、頬を膨らませるエティカ。

 可愛くぷくっと膨れた頬を突き刺せば、空気が漏れ出るのだろう。

 そんな姿も何度目か。

 このやり取りも何度目か。


 こうなるとエティカは譲ろうとしない。

 断固とした態度で、ローナへ休憩するよう提案してくるだろう。

 だからこそ、いつも呆れながら紫紺の瞳は少女を見ると。


「じゃあ、一緒に休憩しましょう」


「うん……!」


 そう促す。

 二人で休憩すればいい。二人でまた作業に戻ればいい。

 その間、飲み物でも飲めばいいし、火をつけて何か煮込んでいるならそれを確認できる場所で休めば、誰からも咎められない。

 それがいつものことで、いつもの午前中である。

 そして皮むきに使っていたナイフを置き、二人が歓談もとい談笑するのがいつもで、話題というのも女性らしいものであった。


「そういえば、すぐそこの通りに新しく服屋ができるそうよ。良かったら一緒に行かない?」


「新しい、服かぁ〜……でも、この間、買ったばかり、だから」


「あら、見るだけよ。別に買う必要はないわ。むしろ、どんな物が置いてあるかとか、どんなテーマを扱っているか情報集めとかないと」


「そう言って、結局、買ってたよね、ローナちゃん」


「あれは、必要経費よ。何も買わずに帰るなんて申し訳ないじゃない」


 特に目立った会話でもない。

 のほほんとした、日常生活によくある音。

 それでも、白銀の少女にとっては心地よい音色であるのは確実で、この何気ない日々が大好きであった。


 給仕の仕事をして、姉分であるローナと話をして、アヴァンから料理を教えてもらって、ヘレナから褒められる。

 そんな当たり前の風景に浸っていた最中、白銀の少女へ声が掛かる。


「エティカちゃん。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいかしら?」


 受付にいたヘレナが、エティカ達のいる調理場まで足を運んできたのだ。

 それも何かありそうな、少し困ったような表情で。

 一番に察したローナは、談笑モードを切り替える。


「私ではなく?」


「えぇ、依頼人直々のお願いだから」


 依頼、それは本来冒険者に向けたもののはずが、エティカに向けられた特別な物だとヘレナはそう言った。

 しかし、話を聞かずに断るのも、お願いされたことを丁重に断るのも苦手な白銀の少女は、とりあえずどういうものか質問する。


「それで、お願いって……?」


「えっとね――」


「よぉ、小さな人形さん」


 説明しようとしたヘレナを遮り、酒場に面したカウンターから男の声が掛かる。

 それは懐かしい声で、初めてストラへ来た時に聞いたセリフで、思わず振り向いたエティカを旧懐な気持ちが押し寄せる。


「門番の、おじさん」


 エティカを指名した依頼人は、エヴァンに救われストラへ初めて来た時に出会った髭をたくわえた中年の男性であった。

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