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見捨てられた白銀の少女を救いました。この子を幸せにしたいので、魔王討伐やめて平穏な日々を目指します。  作者: 月見里さん
第四章 限りなく青い空へ【実家帰省編】

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【外伝】「清涼を求めて 3」

「いやぁ……。実に穏やかだ……」


 涼しげな風も流れ、穏やかな水もさらさらと流れていく。この風景だけで大変癒されるほどではある。


「匂いも澄んだ木々の香りがするし」


 フワッと香ってくるのは爽やかな新緑の匂い。これがエヴァンの鼻腔を優しく刺激する。


「なによりこの快晴だよな」


 真上を見上げれば、若干傾いた太陽が燦々と輝く。晴天も晴天。それが何を意味しているかは言わずもがな。

 頬に伝わる水滴を無視しながら、エヴァンは次へと視線を移す。


「エティカも可愛いし」


 今、エヴァンの目線の先にいる少女は、沢蟹を一箇所に集め、その動きを観察している。紅色の瞳は無邪気に光って、この日光をものともしないようだ。


「おへそが見えているのは少し困るけど」


 エティカは当初の予定ではもっと薄着になっていた。しかし、先ほどエヴァンに服を脱がないよう注意された彼女は、胸元まで裾を上げて固定していた。

 これが非常に、青年の目線を右往左往させるものとなっている。

 なんせ、へそが見えるのだ。綺麗な形の窪みができていて、程よく締まったお腹。更にはクビレまで確認できる。


 これだけでエヴァンの目線が釘付けになるのは言わずもがな。そして、それだけではない。


「肌白いよなぁ……エティカ」


 エヴァンに背を向けている少女の背中は、純白なほど透き通っていた。魅惑的で、魅力的なその背筋には、脂肪が少なく触るだけで虜になってしまいそうな筋肉が程よくついていた。


(いや、触れないけど)


 この男。普段は添い寝をしているはずが、自分の意思で触れることは苦手らしい。

 滴る汗は勢いを増していく中でも、青年はエティカの動向を優しく観察する。


 その白銀の少女は、今まさに泳いでいる魚を河原へと弾き出した。

 バシンッと。最小限の力で、最低限の水しぶきを上げながら、宙を舞う鮮魚。あんぐりと開いた口は、青年のと一緒の形をしながら。

 ベチョと。砂利の上へと着地した。


「え……」


 あまりにもワイルドなその姿に、エヴァンはギャップで思考回路が停止する。先ほどまでの蟹を観察していたおしとやかな姿から想像できないほど、まるで熊が魚を獲るのと同じ動作。

 捕食者のようなその少女があまりに意外で、エヴァンは腰掛けていた岩から落ちそうになって慌てて支える。


「エティカ……?」


 そうポツリと零すのも無理はないだろう。

 なんせ、今までの少女からは思いもよらない行動なのだ。先日の蜂蜜の時も、サニーという芦毛の馬との出会いも、彼女は非常に穏やかであった。


 むしろ、大人しすぎるとさえ思うほど。彼女は動物や虫と関わる時は、なるべく相手のことを思って優しく触ることを心掛けていた。

 だが、今の彼女は真逆の姿をしている。


 真剣なその顔は、川の流れに逆らうよう泳ぐ魚へ向かって。研ぎ澄まされた集中力が紅色の瞳に宿り、タイミングを探っている。

 そんな今までの可愛らしい少女から一変した様子に戸惑うのも無理はない。


(た、たまたまかもしれないし)


 そんな無意味な虚勢を張る。彼の中にある白銀の少女は、おしとやかで静かで深窓の令嬢のようなイメージなのだ。

 だからこそ。エヴァンはたまたまだと思い込もうとする。偶然なのだ。まぐれで魚が獲れただけなのだ。

 そう言い聞かせるが。


「ん」


 バシンッと。先ほどよりも素早さが増した動きを煌めかせる飛び散った水滴。向こう側が透けて見えるほど、透明感のあるその光景に飛び込んでくる魚体。

 パカーンと開いた口は、さっきまで水中の世界にいたからだろう。それがあっという間に、白銀の少女の細腕によって弾き出されたのだ。そんな顔もしたくなるだろう。


「え、え、え?」


 エヴァンの脳内処理は追いつかない。むしろ、ぼやーとさえしてしまうほど、唖然とする光景を目の当たりにしたのだ。

 流れる汗にヒヤッとしたものが混じり始める。


 打ち上がった二匹の魚に向かっていくエティカ。フラフラとした歩きで近づくエヴァン。この二人の背中は対照的に見えるほど、様子が変わっていた。

 白銀の少女は生き生きと。青年は戸惑いで。


「え、エティカ……?」


「ん?」


 恐る恐る声を掛けたエヴァンに、白銀の少女は振り向いて首を傾げる。毛先が少し濡れている髪は、いつもより重みのある揺れ動きを見せる。


「魚、獲れるんだな……」


「うん。さっきも、獲れた、から、出来るかな、て」


 そういえば、と直近の記憶を掘り返せばエティカは、いつの間にか魚を生け捕りにしていた。

 それを飼いたいという少女の願いをやんわりと断り、小川へと帰した。あの時もエヴァンが見ていない隙に魚を掴んで掲げていたが。


(まさか、掴み取りしてたのか……!?)


 水しぶきの音もしなかった。目立った動きもなく、静かなものではあった。しかし、あの一瞬で魚を掴んでエヴァンの元へ持ってこれるということは、泳いでいるのを鷲掴みしたということだろう。


 そんなワイルドな一面があると思っていないエヴァンは、少しひくついた頬に笑顔を必死に貼り付け。


「その魚、どうするんだ……?」


 そう尋ねた。しかし、青年はさきほど飼うのはダメだと断った。飼育環境も充分ではない。餌や維持費用だって、どのくらい掛かるかも分からない。そんなところに置いておくより、自然の中の方がいいと諭したのだ。


 だからこそ、そう質問を投げたわけだが、白銀の少女は顎に人差し指を添え、少し考えると。


「飼っちゃ、だめ?」


「いや、駄目だって……」


 可愛くおねだりしてきたのを、エヴァンは残酷にも却下した。

 少し潤んだ紅色の瞳を向けてきたのを、心苦しく思いながら一蹴した青年は、溜め息を吐き出す。


 獲った魚はその日の晩御飯のメニューに加えられた。

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