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【外伝】「甘みを求めて 3」

 そんなやり取りからおよそ数分後、せっかくだから巣の中も見ないか、という提案を二人は飲んだ。

 そして、男性の近くの巣箱。そこから何匹かが飛び出す程度で、静かな様子を見つつ、エティカは恐る恐ると近づいていく。

 その後ろ姿を愛おしく見つめるエヴァンは、なるべく白銀の少女が見えやすい位置かつ、自分自身も見えるように陣取る。


「そういや、言うの忘れてたが、あまり刺激しないようにな」


 男性は、そう気軽に忠告した。彼ら養蜂家にとっては当たり前のことで、だからこそ忘れていたわけだが、ストラビーが例え大人しい種類であっても、危険があれば針を抜くだろう。

 朝は寝ていて、穏やかであっても巣を脅かす存在が確認されれば臨戦態勢になるのは容易だ。


「うちのエティカは大人しいから大丈夫だな」


「そ、そう?」


 真後ろにいるエヴァンに向け、少し不安げな瞳で問い掛ける。

 先ほどまで可愛い存在を手に取って、持ち帰ろうとした愛着からか、彼女は蜂に嫌われたくないという意識が強くなったようだ。


「じゃあ、大丈夫だな。ビックリしても大声出さないなら、穏やかな蜂だからな」


「大声……」


 エティカはポツリと零す。

 その小さな独白に少しの悲哀が混じっていたのをエヴァンは聞き逃さなかった。


(そういや、エティカて第一声が大声のことが多いか)


 今まで見てきた白銀の少女を思い返した青年は、そう推察する。

 エティカはオーバーリアクション、とまでいかなくとも感嘆の表現は多彩で、独特だ。

 思ったことをそのまま口にしがちで、決まってそれは初めてのものと遭遇した時である。


 先ほどのストラビーを手に乗せた時がまさしくいい例だろう。


(まぁ、大丈夫かな)


 青年は勝手に納得する。これだけ注意されて守らないほど、エティカは聞き分けがない子ではない。

 むしろ、必要以上に気が回るほど観察力も洞察力もある 。忠告だって守るほど賢い子だ。


(何より、もう十歳だし。めちゃくちゃ小さい子て訳でもないし)


 だからこそ、その少女の後ろ姿を見やると。

 エティカは口を両手で覆っていた。


「じゃ、開けるぞ」


 コクンコクンと小さな白銀の頭が揺れる。一言も発さず、大きい声を出さないように配慮した姿勢ではあったが、非常に可愛らしい姿がそこにあった。

 男性がエティカの黙った姿勢を確認すると、ゆっくりと蓋になっている木枠を外す。


 すると、そこから何匹か外に飛び出す蜂。

 思わずその飛び立ったストラビー達に白銀の少女は、一歩後退りするも、あるものに興味を惹かれて余計に近づく。

 巣箱の中には、八枚ほどの板が入っていて、そこには多くの蜂がウロウロと巡回していた。


 それだけの光景にエティカが感嘆の悲鳴を上げないのは、抑えた両手のおかげか。それとも夢中になっているからか。


 エティカが興味津々な様子を見れた男性は、巣箱の中の板へと手を伸ばすと。


「嬢ちゃん、いいもの見せてやろう」


 ニヤリと。好奇心に満ちた白銀の少女へ、そう期待させる一言を放った男性。

 なんだろう、とエティカが紅色の瞳に疑問を浮かべた直後。


 男性は、巣枠と呼ばれるその板を持ち上げた。


「わぁぁぁ……!」

「おぉぉ……」


 そこには蠱惑的な光景があった。

 小さく白色の存在が、何十匹と飛び立つ。真っ白な天から降り注ぐ粉雪を巻き戻したような、そんな幻想的な輝きの中。

 その巣枠に視線を移すと、金色に煌めく瞬間に捕われた。

 緩やかな朝日を反射するなめらかな蜜。今にも甘ったるい匂いが漂ってきそうなほど、濃厚なそれは白銀の少女の瞳をより一層見開くほど、魅力的な光景。

 ラメが施されたその巣枠には、たくさんの蜂蜜が敷き詰められ、濃密な色彩を放っていた。


 手で抑え、声を出さないように気をつけていたエティカではあったが、思わずエヴァンも反応してしまうほど煌びやかな存在には素直な反応をしてしまうようだ。

 そして、その様子は養蜂家の男性にとって嬉しいものだったのか。


「どうだ、良かったら採ったやつ食べていくか?」


「はい!」


 提案に素早く頷いてしまうほど、エティカは飲み込まれていた。

 そして、そんな可愛らしい少女を愛おしく眺めるエヴァンは内心に。


(何個か買って帰るのもありだな。蜂蜜を美味しそうに食べるエティカが見られるならいくらでも払えばいいし)


 そう思うほど、親バカとも言える考えを抱きながら少女の隣に並んだ。

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