あーし
あー、めんどくさい。広い教室の前で、少しの興味も湧かない講義を熱く語る先生は、今日も汗だくだ。おととい大学の購買で買ったシャーペンをクルクルと回しながら、あーしは配られたプリントを何となく眺める。
ゆーくんと連絡が取れなくなって三日が経とうとしている。最後に取った連絡は、いつもと変わらなかった。
【また行こうねー、おやすみ】
デートの後の決まり文句。水族館に行って、パフェを食べて、自撮りもした。SNSにあげて、お互いにいいねを押し合った。
【今週空いてる?】
ゆーくんはメッセージ返すタイミングが決まっている。朝に送れば、昼の休み時間に返ってくるし、夜に送れば翌朝の早い時間に返ってくる。
なのに、どうして?
ヴゥー、と机に置いておいたスマホが鳴った。
来た!
【防衛省、海上自衛隊の派遣を決定】
はあ、ムカつく。陸上でも海上でも派遣しろっての。関係のない通知がこんなに煩わしく感じるのは、やっぱり、ゆーくんのせいだ。
ふと、あーしは時計を見る。ちぇっ、まだ四十分しか経ってない。なのにお尻が痛い。硬くて冷たい椅子は、綺麗に整列していて軍隊みたいだ。
もう嫌われたのかな。別れようってこと? 言ってくれなきゃわからない。でも聞くことができない。早く返信して。大体何なの? あーしが待たなきゃいけない理由は何? そういえば、パフェを決めるときも待たされたっけ。悩んだ末にあーしとおんなじのを頼んでたっけ。優柔不断なんだよね、あの人。そういう部分、結構嫌いかも。そう、嫌い。嫌なんだ。嫌なやつからの連絡なんて待たなくたっていい。あーしはもうフリーなんだ。
【ごめん、スマホ落としちゃって】
ホントごめん、と可愛い犬のスタンプと共にゆーくんから返事が届く。
う、かわいい。あーしは、汗だくで話す先生を愛おしく思った。この人も、家にいる奥さんや子供のために頑張っているんだ。
三十分たっぷり間を空けて、あーしは【何それ?】【ありえないんだけど】と返信をした。