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求道者の礼節

 わたしはいつものように病院でお医者さんからカイカツ成功の給料を受け取り、情報交換をしていた。そしてその時、あの話題に触れた。


「僕はね、君達にお礼を言わないといけないようだ。例の件、ビンゴだったよ」

「はい。ニュースで注意喚起を見ました」


 そう、それは異世界人召喚が魔法覚醒病の症状を進行させるのではないかという仮定。これが大当たりだったのだ。重症患者なら、数回の召喚でも命取りになる試算らしい。

 となると、わたしが患者を助けたいと思うのであれば、異世界人を倒した後に再召喚されるのはそのまま患者が消滅の危機に陥るという危険性を考慮しなければならないということだ。

 図らずも異世界人召喚は一回で今まで済ませてきた。これからも異世界人召喚をされたならば倒すのは一回まで、その後は再召喚させずにすぐに魔法を奪う。これを徹底していかなければ。


 ……まあ、異世界人召喚の概念を動画にして知らしめてしまったのはわたし達なので、責任もわたしたちにある気がするが。


「あ、それとこういうものも貢がせまして」


 そう言ってシルクハットを取り出し、中から出てくるのは『脱力』のはにわ。メイさんから色仕掛けで奪い取ったアイテムだ。


「それはなんだい?」

「魔道具ですよ。持っていれば魔法が使えるようになります。これは『脱力』が使えるようになりますよ」

「噂には聞いていたが実在していたか……安全性の研究がしたいんだけどね」


 寄こせという事か。だがお断りだ。


「彼女から貢がせた大事な魔道具ですので。ご自身でどうにかして手に入れてください」

「ふーん、彼女ねえ。その身体でよくそんなものできたものだ」


 ロリレズだぞ、いいだろう。百合って言った方が聞こえがいいかな?


「僕には分からないね、一人の女性にそこまで入れ込むなんて。そんな時間があったら一人でも多くの患者と向き合うよ」


 医者の鑑なような、コミュ障なだけのような……なんとも判断の付け辛いコメントを聞き流しながら解散となった。


 帰ってきたらレミちゃんが待っていた。普段はメイさんも一緒に待っていてくれるのだけど、今日はいない。探偵の仕事かな?

 いつもの席に座った私に、レミちゃんは小学校であった事を話してくれる。


「で、でね。でね。その女の子っていうのが凄くて、部活するために中学校に放課後行くんだって。小学校じゃ施設が無いからって。なんか格好いいな。弓道っていうのもすごい」


 なるほど、確かに小学校で弓道をやっているという話はあまり聞かない。低学年が入り込んで来たらあぶないものね。


「その子が天才らしくて、百発百中なんだって」

「それは凄いね。一回も外さないの?」

「外さないって。毎回真ん中に当てられて中学生の人より上手いんだって自慢してるみたい」


 それは凄いけれど……なんか怪しい。ちょっと調査してみるか。魔法の気配がする。

 という事でレミちゃんが帰った頃、ちょうど学生の帰宅の時間を狙って外に出てみる。

 通りすがった女子中学生の身体をじっくりと観察し……通りすがったところで『幻影』を使って、その中学生の皮を被る。

 これで堂々と中学校に入れるというものだ。子供の頃、通ってた学校だから場所も問題なく分かる。

 そして、歩きながら怪盗衣装へと変身する。見た目は変わらない通りすがりの女学生のものだが、強化された身体能力や、認識阻害の効果のついた目元を隠す涙目デザインの仮面は有効に効果を発揮してくれる。あくまでガワだけの変装なのだ。あくまで幻だしね。


「……あれ? どうしたの」


 帰宅しようとしていく学生とは逆方向、中に入っていくわたしに校門の前で子供たちの様子を見ている先生が声をかけてきた。


「プリント忘れちゃって」


 そんな言い訳をして教師を誤魔化すと、校内に入り弓道場へと足を踏み入れた。

 一回り他より背の低い少女が、見事に的に的中させて見せている。ド真ん中の黒丸、つまり星に当たっているのだ。

 しばらく見ていると、レミちゃんの言う通り百発百中で一回も外さない。確かに天才的だ。しかし、魔法を使っているという確証は無い。

 ――よし、仕掛けてみるか。


 わたしは休憩中の彼女に近寄ると、一枚のカードを渡した。そう、予告状だ。これをただの悪戯と取るか、本気と取るか……後者だった。彼女は明らかに動揺し始めた。

 カマ掛けは成功だ。


「ね、ねえ。これ誰から受け取ったの」

「シルクハットを被った女の子。ねえ、それなんて書いてあるの。見せてよ」

「だ、駄目!」


 そういうと彼女は隠すように胸の前で抱えた。

 騒いだせいで他の学生達も様子が気になったらしく、彼女の手元にあるカードに興味を惹かれたようだ。なにせ裏面はわたしがいつも使っている怪盗のマークが入っている。カンが良い子はなんとなく気付いたのだろう。


「祥子……お前魔法使ってたのか。だから怪盗に狙われてるんだ」

「ち、違う!」

「まだ小学生なのにすごいと思ってたのに魔法覚醒病だったの? それずるいよ」

「違う! 魔法を使っちゃいけないなんてルールなんてない!」

「ならそのカード見せてみろよ! 怪盗からの予告状なんだろ!」

「嫌……!」


 そう言って彼女は逃げ出してしまう。わたしはそれを追いかけると、すぐに捕まえてしまう。なにせ中身は怪盗服だ。小学生なんかに逃げられるわけがない。


「な、なに! 離して、離してよ!」

「駄目」

「なんで! やめてよ!」


 それはね……と耳元で囁く。


「私が怪盗だからだよ」


 『幻影』を解き、その正体を現した。このまま魔法を奪ってしまおう。


「怪盗……! あなたのせいで! 私は!」

「3、2、1――」

「来て、アルテミス・ボウ!」


 異世界人召喚による強烈なエネルギーの奔流が魔法を盗もうとしていたわたしを吹き飛ばした。彼女の手には銀色の弓が握られている。


「帰って……! 帰ってよ!」


 そして魔力で作った矢を生成し、わたしに向けて放ってきた。

 二体の『分身』を肉壁にする事でダメージこそ食らわなかったが、追加効果で発生した爆発によって距離を開けられてしまう。格闘ゲームのように空中で回転し、華麗に着地してみせた。

 さて、あの弓が異世界人……人じゃないな。とにかく武器が召喚されたらしい。

 どうしたものだろう。小学生相手にあんまり手荒なことはしたくない。適当に脅かすか、武器を壊してその隙にって辺りが落としどころだろう。


 わたしは自分の『幻影』を三体生み出し、さらに『分身』も一体作って狙いが定まらないようにあちこちに分散させた。

 もう一体作れる分身は本体であるわたしが狙われた時の盾になってもらう。

 とりあえず攻撃は威嚇だけしてみよう。空中に向かって『シュガーボム』を放つと、大きな爆発が巻き起こり、大きな音が周囲に響き渡った。


「きゃあっ!」


 ターゲットは驚いて座り込んでしまう。今がチャンスか、と近づいていくと彼女は座ったままの姿勢で正確にこちらを撃ち抜いてきた。

 正しくは私の分身を、だが。

 しかし、今身を守った事で、どれが正解かバレてしまった事だろう。一度幻影と分身を解除し、再出現させる。


 今度は大丈夫だ。持ち直して立ち上がった少女は幻影を相手に一発当てた。もっと正確に言うと当てたつもりになった。

 『幻影』を操作してまるで食らったかのように見せかけたのだ。彼女は自分の怒りを発散するかのように、二発、三発とわたしの幻影に魔法の矢を食らわせていく。

 こちらを見ていない今がチャンスだ。幻影魔法を自身にかけ、周囲の風景と同化させる。

 彼女の後ろに回ると、弓を持つその手を捻り上げた。


「い、いたっ!」

「おいたがすぎるよ、お嬢さん。3、2、1。――スティール」


 魔法を奪い、彼女を解放してやると少女の持っていた弓は異世界へと戻っていった。そして、元ターゲットはこう言うのだ。


「なんで、なんでこんな事するの! 私、もっとちやほやされていたかった! 天才だって言って欲しかった!」

「それは自分の実力で言われるべきものだ。そして、この世からの消滅のリスクを負ってまで得られるべき賞賛などない」

「やだ! もっと褒めて! 褒めてよ! 私は凄いの! 魔法使いなの!」


 子供の癇癪だ。付き合っていても仕方がない。もう君は魔法使いじゃないよ、だなんて諭したところで逆効果だろう。

 周囲を見渡す。醜態を晒す少女を冷ややかな目で見ている。天才だと思った少女が、本当は自分達では使えない手段で活躍している様子を見ていたのだ、裏切られた気分にもなるだろう。

 もしかしたら、これをきっかけにいじめられるかもしれないのか……。どうにかしてやりたいという気持ちが無いわけでは無い。しかし、怪盗に出来ることは何もないというのがもどかしい。これはどこまで行っても本人たちの問題なのだ。


「……さらばだ」


 後ろ髪引かれる思いで弓道場を後にした。



 さて、後日談と行こうか。


「で、結局その元魔法覚醒病患者の祥子ちゃんは弓道続けるんだ」

「うん。あの歳で的まで飛ばせるのは立派な才能だからって」


 彼女の持っていた魔法は『狙撃』。遠距離攻撃をより正確に狙い打てるようになるというもの。そして、それを無くしてなお彼女は実力を持っていたのだ。


「魔法使ってたのがバレていじめられたりとかは……?」

「そ、そういうのは聞かない。小学生のやった事だからって。むしろ魔法が消えて無事でよかったねって言われてたみたいだけど」


 いじめられるっていうのは杞憂だったか。そうだよね、あそこにいたのは皆中学生。何個も年下の少女にそこまで酷い事はしないか。


「本人は怪盗恨んでるって。魔法さえあればもっと簡単に図星を狙えたはずなのにって言ってるみたい」


 それは構わない。恨まれるのが悪役の仕事みたいなものだ。

 わたしは清々しい気持ちでパソコンを起動する。


「じゃあ今から生配信始めるけど、レミちゃんも一緒にやる?」

「う、うん……! やりたい……!」


 情報提供してくれたご褒美に、将来の夢がマイチューバーだというメカクレ少女を誘い、今日もアルセーヌの宣伝をするのだ。


「あなたの心を頂こう。アルセーヌの看板娘、不知火オーコと」

「恥ずかしいのが気持ちいい、カクレミです……!」


 だからそれやめようって。

 わざと言っているんだろうか? だとしたらとんだマセガキだ。身体ばっかり育った小学生ドMとか、悪いおじさんに狙われちゃうよ。

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