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泥棒猫

 洋一兄は単純だからしばらくこれで疑われる事はないだろうと予想される。まさか『耐毒』が役に立つ日が来るとは思わなかったわ……魔法の自白剤持ってくるほど本気だとはね。

 ちなみに忙しいらしくて兄はさっさと帰っていった。

 で、相変わらず問題なのはこっち。わたしの彼女の探偵さん。今回は相変わらずわたしを膝に乗せて、喉をめっちゃ触ってきてる。


「どうやって自白剤から逃れたんですか~? 教えてくださいよ~」

「ごろごろごろごろ……」


 猫扱いしてくるので、こちらも猫のフリをして誤魔化す。


「まあ、可愛い猫ちゃんですね。それにしてもあんな自白剤なんて初めて知りました。あんなのあったら探偵が無用になっちゃいますよ。ねー?」

「にゃあ」


 結局、彼女は自分の力で謎を解きたいのだ。怪盗の正体という謎を。だから俺は彼女が直接聞いてくる時は冗談だと思う事にした。

 とはいえ、キスマークつけて証拠にしてくるみたいなガチなやつがたまにあるから油断はできないのだが。


「さて、オーコちゃんは最近話題の「もう一人の怪盗」についてご存じですか? 予告状を出してコンビニを襲ったりしてたんですが、今晩ついに宝石店を狙うそうですよ」


 それはまた、コンビニ泥棒から宝石泥棒とは思い切りランクアップしたものだ。


「そうなんだぁ。どのあたりでそんな人出てきたの」

「それがこの辺なんですよ。異世界人? とタッグを組んで現れるそうです。そういうところまでパクリ感満載なんですよねえ」

「なんで疑問形」


 その答えは意外とシンプルで。


「なんか猫らしいんですよ。その異世界人?」

「猫」


 わたしを猫かわいがりしてるの伏線だったかー。などと思いながら会話が完全に誘導されているような不安を覚えた。

 彼女はリュックサックから地図を取り出すと、一か所にピンを刺す。


「ここですね。恐らく本物の怪盗さんも来ると思ってますので、現場付近で見張りますから、今日はこのくらいで帰らせてもらいますね」


 暗に来いって言ってるね。いやむしろ、堂々と来いって言ってるか。まあ宝石泥棒する奴を見逃すわけにもいかないのも事実だが……。

 俺を膝から降ろし、帰っていくメイさん。俺も一旦、看板娘としての仕事を放棄して自分の部屋に戻る?


「で、どうするマキナ」


 沈黙。返事が帰ってこない。


「おーい? マキ――」

『静かに』


 二度呼び掛けると、マキナが重い声でわたしに注意を喚起する。


『盗聴器が仕掛けられてるね、スカートの右ポケット』

『え、嘘』


 テレパシーで会話をしながら言われたとおりに探ってみると、確かに丸いボタンのようなものが入っていた。これが盗聴器か。

 誰が仕掛けたかなんて簡単に予想がつく。というか一人しかいない。こういうのを仕掛けそうで、かつ仕掛けるだけの接触があった相手と言えば。

 そう、メイさんである。わたしは溜息をつくと、取り出した盗聴器を口元に当て、囁いた。


「メイさん好き。好き。好き。好き……」


 これできっと彼女も聞き入ってくれるだろう。そこを突然、盗聴器踏みつけて破壊してやる。

 壊した時に入る雑音でいい感じに耳がやられるだろう。可愛い仕返しだ。ちなみに言っとくけど、盗聴器仕掛けるのは可愛くともなんともないからな!


「さて、あらためてどうしようかマキナ」

「こういう事もあろうかと普段とカイカツ中で呼び方変えてもらってたんだよね」


 はい。話変えちゃだめだよね。油断してました反省してます。


「気を付けます。それで、どうするべきだと思う?」

「とりあえずカード確認しよう? もしかしたら重症患者がいるかもしれない」


 この辺の重症患者は一通り治しているはずだけど……病状が深刻化した人もいるかもしれないからね。

 彼女の言う事はもっともなので、俺は七つ道具のカードを取り出す事にした。そこに一人の人物の名前と……意外なものが浮かび上がった。


 コンビニ店員 前川久美(22) 覚醒魔法『ビーストモード』 召喚『バステト』


「なんか追加で見れる情報が増えてる!」

「たくさん魔法を手に入れたからね……元々あった魔法『怪盗七つ道具』も強化されたんだろう」

「そういうものか。で、これさ。ターゲットの今いる場所が宝石店近くなのは偶然じゃないよね?」


 そうだろうね、とマキナは肯定した上で。


「異世界人召喚の情報がカードに載ったっていうのも、意外と単純な強化が理由じゃなくて異世界覚醒病に関係があるからかも」

「と、言うと?」

「異世界人召喚は、魔法覚醒病を悪化させる一因になるかもしれない。異世界とのラインをより深く繋げる行為だからね」


 え、それわたしもやばいんじゃ?


「ああ、ボクは大丈夫。何度もあっちの世界と出入りしてるわけじゃないからね。姿消してるだけ。この世界にいるから。ボクが言いたいのは、異世界との回線を拡張するような出入りが不味いんじゃないかって事」

「異世界に通じる穴を何度も掘ってるようなものって事か。やればやるほど土は柔らかくなる」

「今度かかりつけの魂科の人に聞いてみようよ」


 う、あの人苦手なんだよなあ。


「好き嫌い言わないの!」


 食べ物の好き嫌いみたいなノリで言わないでよ。あとテレパシー回線が繋がってるからって心を読むのはやめて。


 さて、せっかくなので予告のあった宝石店にわたしも予告を出す事にした。




「罪を重ね、増長した者――前川久美。お前が宝石を盗むより疾く、お前の魔法を頂こう――Take your magic」


 まあ正確には宝石店付近全般にカードを大量にばら撒いたんだけど。あ、宝石泥棒するのに正体バレちゃったね。宝石盗んでも足がついちゃうよね、うふふ。


 二枚の予告状の届いた宝石店は大慌てで警備を動員し、警察どころか野次馬も集まってきた。さて、ここからターゲットはどうやって盗みを働くのか……と思えばいきなり現れたのはバスほどの高さを持った猫だ。

 それが、宝石店前にいた人達を蹴散らしていく。一般人も関係なく巻き込むのか! 俺は時を止め、急いで猫の足元に向かうと、時間を動かして猫の腹を蹴り飛ばした。

 『キックストライク』で強化された足技は大型の獣を驚かせるには充分で、食いつかれていた人間は無事吐き出される。


「猫ちゃーん、どうしたの? 早くこっち来てショーケースぶっ壊して欲しいよー」


 間延びした声が異世界人に呼び掛ける。手を振っているこの女がターゲットか。

 わたしは分身二人に異世界人……猫? まあバステトと呼ぼう。この生き物を任せ、わたし本体がターゲットへ向かって走っていく。


「あー、怪盗だー。魔法発動ー、『ビーストモード』ー」


 そう言うが早いか彼女が襲い掛かってくる。……動きが、早い!?

 実は、自分より動きが早い相手と戦ったことが無いのだ。今まで誰も怪盗の素早さについてこれなかった。

 ここは隙を作るために、バステトから片付ける! 引っ掻き攻撃を仕掛けてくるターゲットをいなしながら、分身達の活躍を待つ。


 大型の獣というのは厄介だ。それが素早いともなれば、猶更。

 足を止めようと、『熱』の力で冷気を発生させればすぐに察知し、逃げてしまう。そうして、付近にいる野次馬に突っ込んでしまうのだ。

 バステトはこっちの世界の人間を巻き込むことをなんとも思っていないように見える。まあ猫だし。

 ちなみに洋一兄もこの場にいるのだが、俺に構ってる暇は無さそうだ。逃げようとしない野次馬達を避難させようと躍起になっていた。


 巨体である為、狙いやすいと考えて分身二人で麻酔針も撃ってみるのだが、ひょいひょいと躱して見せる。で、また野次馬や警備の人間に被害がでる。躾はきちんとしとけよなターゲットめ。

 分身一号がネコパンチを食らい吹き飛ばされる。その隙をついて二号がワイヤーで前足を絡めとった。


 足を取ったところで、力比べになればあんな大型の獣相手では勝負にならない。そこで捕獲を諦めて、攻撃に転じる事にした。


「『マスターキー』! 口よ――開け!」


 魔法の力でぱっくりと開いたバステトの口に更なる魔法で追撃していく。


「『シュガーボム』!」


 口の中を爆破してやると、さすがの獣も仰け反った。ここがチャンスだ。


「『キックストライク』……フルパワー!」


 魔力をさらに籠める事で、超強化された飛び蹴りが、バステトを襲う。そして超大型の猫は爆発してターゲットを通じて異世界に還っていった。


「ああ、猫ちゃーん。いいよいいよ、もう一回呼ぶか――ら?」


 遅い。再召喚に気を取られている間にこのゆったりした女に張り付いた。もう離さない。


「3、2、1。スティール」


 魔法『ビーストモード』確かに頂いた。あとは警察に任せよう。今回はターゲットの猫が容赦無かったせいで警察も被害甚大だけどさ。


「あー、私の人生一発逆転がー」


 などと反省の無い様子を見せる元ターゲットを無視して締めの言葉を視聴者に向ける。


「ペットの躾はきちんとしよう。今回やらなかったが場合によっては腕や足を切り取らねばならないほどの相手だった――私は可愛い猫ちゃんをズタボロにする趣味はない。必要な範囲で傷つけてご帰還頂く形を取らせてもらったよ。以上、異世界人よりこの世界の人間を大事にする。怪盗「配信者」ジョーカーだ」


 で、後日談。


「ジョーカーってば他の女に抱き着いたんですよ! これって浮気だと思いません!?」

「思いません」

「オーコちゃんも! マキナって誰ですか! 浮気じゃないんですか!」

「盗聴器つけるような人に何言われても堪えません」


 母お手製のレモンティーを飲みながら、メイさんに塩対応を送る。


「あの泥棒猫ー!」


 泥棒と猫だったけどさあ……お、女子学生来た。今日はあっちとお話するか。メイさんが面倒な感じだし。

 するりと膝から抜けて去っていく俺の様子はまさしく飼い猫のようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『ビーストモード』を使うと、ケモミミと尻尾が生えてくる説。 あると思います。
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