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ショートショートの小宇宙

心の形

作者: 駿平堂

 クリスマスも過ぎ、年越しへの期待感で人々が色めき立ち始めた頃、私は他人の心が見えるようになっていた。いつ頃から見えるようになっていたのかはよくわからない。気が付いたらそうなっていたのだ。


 心が見えると言っても、他人の考えていることがわかるわけではない。その人の体の真ん中に、今の心の状態が色と形の視覚情報として現れ、それでその人のだいたいの心理状態がわかるのだ。

 

 色は白から黒のグラデーションでその人の気持ちの明るさを示している。色が白いほど気持ちが明るく、黒いほど暗い。そして形にはだいたいのパターンがあり、イライラしている人はトゲトゲしているし、穏やかな気持ちの人はほとんど円に近い形だ。悲しい人はひょうたんのような形をしている。なので、トゲトゲやひょうたんは黒っぽく、丸い形は白っぽいことが多い。気持ちの激しさも形に影響を与え、激しくイラついている人はトゲトゲが大きくなるし、大いに悲しんでいる人はひょうたんがより大きくくびれている。


 この力だけでも十分不思議であるのだが、それ以外にも不思議なことがいくつかある。まず、自分の心は見えにくいこと。鏡を見れば自分の体にも心が見えるのだが、輪郭はぼんやりとしており、形も曖昧なことが多い。私は他の人より感情が薄いということだろうか。

 

 またまれに、心が見えない人を見かけることがある。思わずじっと見つめてしまうと、そういう時に限って相手も自分に視線を向けるものであるようで、しばらく目が合った状態になったことが何回かある。


 しかしこの力のおかげで便利なことも多い。例えば街中で激しい怒りを感じている人を見たら、その人を避けることができる。そのように私が判断した場合、たいていすぐに警察が来てその人に対応しているのだから、自分のこの能力は正確なのだろう。


 そのような力に目覚めてしばらく経ったある日、私はいつものように街を歩いていた。するととある路地の中に、心が見えない人間を見かけた。珍しいことだったのでその人のことを見つめて観察していると、その人もどうやらこちらのことを認識しているようで、こちらに向かって手招きしてきた。その人に接触をすれば、心の見えない人のことが少しはわかるかもしれない。そのような考えで、私は誘われるがままに路地に入って行った。そしてその人に話しかけようとしたその時、私の頭を何か強い衝撃が襲った。


 

 エフ博士とアール助手は、運び込まれて来た一台のロボットを前に、難しい顔で話をしていた。


「こいつもお役御免というわけだな」


「ええ、どうやら去年の年末ごろから自我が芽生え始めていたようです」


 エフ博士とアール助手が開発していたのは、治安維持のためのロボットだ。それは、人の心の状態を心拍、体温変化、呼吸、表情などから推測し、一定以上の怒りが検知されると自動的に警察に報告するという仕組みだった。


「人間の心をずっと見ていると、どのような状況でどんな心の状態になるかというデータがどんどんと蓄積されていく。そうするととても低い確率で、そのような心の状態の変化を知らず知らずのうちに、自分のものにしてしまうロボットが出てくる。そしてそれが自我の発現へと繋がる」


「自我を持つロボットが我々にどんな影響を与えるかわかりませんからね」


「うむ。残念だがこいつは廃棄処分だ」


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