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Mysterious ROAD  作者: dear12
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第71話 疑問たち

県庁前駅の自宅まで向かう大聖とは電車内でそのまま別れ、総理と和那は与野駅で下車した。


駅のホームには、会社や学校から帰宅する疲れ切った表情の制服やスーツ姿が多くを占めていた。

 

総理と和那は階段を昇って改札口を潜り抜けた。

 

駅前はやや賑わっているのみで、ほんの2,3分で住宅街へと差し掛かってしまう。


駐車場を抱えたスーパーとラーメン屋がまだ賑わっているくらいで、それ以外はひっそりとした夜の住宅街が広がっている。

 

総理と和那は並んで住宅街の中へと吸い込まれていく。


和那がぼそりと誰ともなしにつぶやく。


「でも、何故急に総理さんの家に来るような事態になったんでしょうか」


「やっぱり、楠田の失敗が響いているんじゃないのか」


総理はお茶を濁した。


未だ、ピンク色の手帳の件は仲間内には誰も話していない。


まだ、安全な場所に到着していない限りは、誰の耳にも触れさせるわけにはいかない。


「なるほど、そういうことですね」


和那がゆっくりとうなずく。


そして、悲しげな表情を見せた。


「楠田さんがそういう方だったとは残念です」


「俺もだ」


総理も肩を落としてみせる。


 いつもの公園は暗闇の中に浮かび、交番もまた退屈そうな警察官が欠伸をしている。


いつものように平和な街並みである。


 そして、闇の中に佇む洋館に辿り着いた。


その後、軽く2人で夕飯を取った。


2人で夕飯を食べるのは相当久しぶりな気がした。


そして、あてがってもらった旧玲奈の部屋に行き、荷物を置く。


先に風呂に入り、脱衣場でドライヤーで髪を乾かし、そそくさと旧玲奈の部屋へと向かう。


そして、一呼吸ついた。


いよいよ手帳の中身を確認しよう。


まずは俺から中身を確認する。


総理は深呼吸した。


そして、鞄を広げようとしたその時、コンコン。


突如、扉が叩かれる音に総理は思わずビクついた。


「あの、総理さん。大変申し訳ないのですが」


扉が優しく開かれ、頬を赤らめた和那が現れる。


総理は肩を撫で下ろした。


「何だ?どうした?」


総理が鞄の中に手帳を押し込んで答える。


急いで平静を装う総理。


「あのう、お風呂に」


思わぬリクエストに総理はドキッとした。


頬が赤らんで熱を帯びていくのがわかる。


まさか、お風呂に?


どうするんだ?


取り繕っていた平静はすっかり剥がされてしまった。


もじもじとした和那が桃色の唇を震わせて、言葉を絞り出した。


「あの、お風呂に入るので、ちょっとドアのところで見張ってていただけませんか?」


「え」


総理は目を点にした。


心臓が急速に収縮するような感覚を覚えた。


何故、ドアのところで見張っていないといけないのだろうか?


その答えはわからなかった。


未だに恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く和那。


「お願いします」

 

 整頓された広い脱衣場。


浴室の外側から扉にドッカリと寄りかかり、携帯電話を操作する総理。


そして、浴室の中で丹念に体を洗っている和那。


「あの、総理さん。ちゃんといらっしゃいますか?」


「いるよ」


総理は不貞腐れて、溜息をついた。


「申し訳ございません。以前、2階から足音がして以降、お風呂にゆっくり入ることもできなかったので。大変助かります」


「へーい」


総理は携帯電話を再びいじり始めた。


大聖からちょっかいを出すラインが来たため、その返信をしていたのだ。


また、愛理からも飯尾と和田つまり松坂が帰ったことをラインで伝えられた。


松坂は和那の家まではさすがに知らないはずだ。


これでようやく安心できる。


 しばし、お湯が弾ける音だけが響く。


その後、頭を洗っているのかカシャカシャと軽快な音が聞こえてくる。


和那は髪の毛が長いため、入浴を終えるまでにだいぶ時間が掛かりそうだ。


 総理は再び溜息をこぼした。


携帯電話をそっと閉じて手の中に握り締める。


 それにしても、玲奈は何故あそこまで頑なに自宅へ留まることを選んだのだろうか。


そして、腕に残された根性焼きのような傷跡。


あれは未だに暴行を受け続けているという証明ではなかろうか。


明日、中村警部に聞いてみるか。


 さらには、松坂の存在である。


松坂が飯尾と和田を騙って総理の家にやってきたのはわかるが、もう1人の人物が誰なのかわからない。


楠田なのだろうか?


しかし、総理を捕らえるというミッションに失敗するような人間を、松坂のような冷酷な人間がそこまで重宝するだろうか?


和田。


元の名前は和田恭平で男だが、単に「和田」と苗字だけを名乗っているのなら、井関が来たということも有り得なくはないか。


こちらも明日、愛理に詳しく身体的特徴を聞く必要があるだろう。

 

気が付くと、シャワーが扉のガラス面にぶわっと吹きかかる音が聞こえた。


ビクッと我に返る総理。


髪の毛に丹念にお湯を与えている様子の和那の影が映る。


ややドキッとする総理。


と、シャワーの音が緩やかになってやがて止まった。


「総理さん、お聞きしたいんですが」


籠もったような和那の声が浴室内に響く。


「ああ」


「玲奈ちゃんはどうして戻ってこなかったのでしょうか」


和那もやはり同じことを考えている様子だった。


しかし、総理にはその答えはわからない。


「私のことが目ざとくなってしまったのでしょうか」


急激に元気をなくす和那の声。


総理は直感的に否定した。


首を極限まで横に振った。


「いや、違うだろう。お前に迷惑を掛けたくないって気持ちはあるんだと思う」


「迷惑なんて気持ちはさらさらないんですけどね」


若干不貞腐れたような口調だった。


和那がゆっくりと体を湯船の中に沈める。


ザブーっとお湯のさざめきが鼓膜を突く。


さざめきが収まると、和那が再び口を開いた。


「玲奈ちゃん、私たちに何か隠している気がしました。何なのかはわからないですが」


「それは俺も感じる」


総理も脱衣場の床に目を落とす。


そう、玲奈への違和感はあの時誰もが感じたはずだ。


「受験勉強もしっかりできているんでしょうか」


ぼそりと和那がつぶやく。


いやいや、と総理は溜息をこぼす。


「それはお前も一緒だろう、和那」


総理が言う。


「お前はもう少し自分を大切にした方がいい。それからでもいいだろう。玲奈のことは」


「そうなんですか?」


不安そうに尋ねる和那。


お湯が弾ける音に和那の溜息が掻き消された。


「今回の一連の件で、私はあまりにも自分が無力だと知らしめられました」


「今回の一連の件?」


「総理さんと玲奈ちゃんの件もですし、対策委員会の件もです」


「あー対策委員会って何かあったのか?」


そういえば対策委員会をクビになったと和那が言っていたことを思い出す。


和那の声が再びか細くなった。


「ええ、個人的に関わりたくない方がいらっしゃって、その方の権限で脱退を命じられてしまいました」


「個人的に関わりたくない人?」


総理の頭に松坂の不敵な笑顔がよぎる。


「はい、生徒会長の伊東由寧です」


お湯が弾ける音が響く。


予想とは斜め上の和那の回答に総理は肩透かしを食らった。


予想だにしていなかった伊東の名前だった。


「伊東会長か」


そういえば、最初に対策委員会に総理と大聖が参加する云々の話の際、伊東が参加するから参加したいと大聖が話していた。


その時、大聖のノリで和那も誘ったが、和那は玲奈のことで参加できないと即答していた気がする。


既にその頃から和那と伊東はお互いを知っている関係だったということなのか?


確かに強硬的で支配的な伊東は恐れられる存在だろう。


和那では威圧感で簡単に押し付けられてしまうだろう。


とても馬の合う間柄には思えない。


「和那と伊東会長は元々知り合いなのか?」


一瞬、沈黙が生まれてお湯が飛び散る音が聞こえる。


「はい、伊東由寧もまた父親が大企業の社長でして。私のお父様のいわゆる商売敵なんです。ですので、昔からお互いのことをよく知っています」


「そうだったのか」


そんな繋がりがあったとは意外だった。


と、お湯が大量に滴る音が浴室内に響き渡った。


どうやら和那が浴室から出てくるらしい。


「総理さん、出ますね」


和那が扉の前で立っている様子なので、総理は慌てて脱衣場の扉を出て廊下に飛び出した。


扉を随分乱暴に閉じた。


すっかり冷え切った廊下に総理は驚く。


それとほぼ同時に、バスタオルで体を拭う音が扉越しに聞こえ出す。


「それよりも、総理さんの家は大丈夫でしょうか?松坂さんはもうさすがに帰りましたよね?」


和那の言葉が扉越しに聞こえる。


総理は身を震わせながら頷く。


「ああ、帰ったらしい」


「それは良かったです」


安心した様子の和那の声。


ややあって、寝間着を身に纏い、バスタオルを頭に綺麗に巻き上げた和那が現れる。


和那が柔らかい笑顔を見せると、総理はドキッとした。


不意打ちだった。


そのせいで、ポロっとこの言葉を漏らしてしまった。


「和那、これから一緒に見たいと思ってるものがあるんだが」


「はい?何でしょう?」


和那の屈託ない笑顔が迫ってくる。


総理は思わず口に出してしまって後悔した。


しかし、和那と大聖には話さないわけにもいかない。


総理は拳を握り締めた。


「松坂が、俺の家に急に押し寄せてきた原因ってやつだ」

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