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Mysterious ROAD  作者: dear12
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第67話 相内家②

ドカドカと家屋の中から慌ただしい足音が響いた。


そして、扉の前でピタリとそれは止まった。

 

3人を緊張感が取り囲む。


誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。


総理もブザーを押した手をゆっくりと下ろし、そのまま拳を握り締めた。


ここに、あいつらがいるんだ。


 ガチャリと乾いた音を立てて開いた扉。


そこには、1人のおめかしをした女性が立っていた。


しまった。出勤前の母親だったようだ。


30代半ばにしては若く、可愛らしい女性と言ったところだろう。


「あんたたちは」


母親は酒やけした声で言った。


記憶を手繰るようにして、宙を見上げた。


総理が言葉に迷っていると、和那が母親の前に立ちはだかった。


「玲奈ちゃんはここにいるんですか」


母親は苛立ったような表情で、ポンと手を叩いた。


「そうか、思い出した。アンタは病院と警察署で私たちの邪魔した子ね」


「そうです。玲奈ちゃんを返してください」


「返す?あの子はうちの子よ。出てって」


母親が嘲り笑う。


そして、扉を半ば強引に閉めようとした。


そこに総理が割って入った。


扉に挟まれそうになりながら、閉められないように粘る。


和那と大聖もこじ開けようと外から扉を引っ張る。


 母親は苛立った様子で叫んだ。


「警察呼ぶわよ」


すると、大聖が吠えた。


「呼べるもんなら呼んでみろ。お前らのしてることが明るみに出るだけだろ」


「何よそれ」


その言葉にさらに激高する母親。


 と、手前の貸家で先程立ちはだかっていた割烹着の老女が、いつの間にか目の前に和那と大聖の目の前に立ち尽くしていた。


「もうやめな」


老女は地の底から響くような低い声を発した。


一同がピタリと魔法にかかったように静止した。


そして、その隣には何故か学生服に身を包んだ玲奈までもが、口をあんぐりと開けた表情で立っていた。


「お姉」


驚きのあまり、言葉が喉をついて出てこなかった。


玲奈がちゃんと学校に通わせてもらっているのか。


3人は信じられない表情で驚きを隠せなかった。


「玲奈、ちゃん?」


和那は確かめるような視線を玲奈に投げ掛ける。


総理も玲奈の体を頭から足先までじいっと見つめる。


怪我をしている様子はない。


入院生活で若干痩せていたが、真っ白な肌に痣は1つも見られなかった。


それを見て、安堵の溜息を零した。


 扉の前で繰り広げられていた戦闘はいつの間にかぴったりと止み、お互い見つめ合う玲奈と和那。

 

 そして、玲奈の母親は気だるそうに頭をぼりぼりと掻いた。和那は母親に視線を戻す。


「これはどういう」


言いかけた和那だったが、やはり一同脳内での理解が追い付いていなかった。


母親は面倒そうに唸った。


そして、右手で家の中を指し示す。


どうやら、上がれと言うことらしい。


3人はおそるおそる顔を見合わせた。


「お邪魔します」


総理が先陣を切って玄関をくぐった。


 貸家の中は比較的片付いていた。


一部雑多な日用品や雑誌がテーブルや床の上に置いてあったが、日常的に転がっている印象は無かった。

 

玄関を上がり、すぐ右手が畳を敷いた居間。


その居間の左隣が台所とトイレ、お風呂といった簡素な作りだった。


居間の右手には、外へと続く掃き出し窓がこしらえてある。


平成初期を彷彿とさせる家屋だった。


 玲奈の母親若葉は居間の座布団にどっかりと腰かける。


その隣に玲奈が静かに腰かける。


そして、総理たちに相向かいに座るよう若葉が促す。


総理たちはそれぞれ窓側から和那、大聖、総理の順に腰かける。


総理の目の前に母親が腰かけている。


「アンタたちのことは玲奈から聞いたよ。だから、いろいろと話を聞いておいてもらわないといけないね」


若葉は携帯を取り出すと、どこかに電話を掛け始めた。


どうやら、これからの出勤を遅らせるための連絡のようだ。


若葉は携帯をそのまま床に置くと、煙草とライターを胸ポケットから取り出した。


和那が一瞬、嫌そうな顔をする。


慣れた手つきで煙草に火を灯す。


「玲奈は、私と前の彼氏との間の子供でね。私が妊娠した時にそいつは姿を消してしまってね。本当にひどい裏切りだったよ。私も迂闊だったけどさ、お店の太客だったからそう簡単に逃げないだろうって思って。本当に馬鹿だったなあ」


母親は天井に向けて、ふうっと煙を吐き出した。


どうやら、和那には掛からないよう配慮はしてくれているようだ。


総理たちは神妙な面持ちで話を黙って聞いている。


この切り出しがこれからの話の展開にどのように繋がるのか。


それすらもわかっていないが、今はまだ一同は黙って若葉の話を聞いていた。


若葉の真っ赤な唇が話を続ける。


「それで、この子を産んでさ。まだ20歳手前。私も仕事でいっぱいで、最初のうちはばあちゃんの手を借りて玲奈の面倒を見てもらっていたけど。玲奈が小学校に上がったくらいでばあちゃんが死んじゃってさ。それからまた私と一緒に住み出したけど、仕事は相変わらずハードでね。玲奈には家事をやってもらったりしてたから、本当に苦労を掛けちまったと思ってる」


玲奈も床に目を落としたまま、黙って母親の話を聞いている。


「その頃かなあ?いや、もうちょっと後だったかも。私がね、あのことを知ってしまったのは」


若葉の表情が急に曇り出す。


緊張感が周囲を包み込む。


「玲奈にも今日初めて言うんだけどさ。結論から言うとさ、この子の父親ってホタルイカなの」


雷で討たれたような衝撃が一同に走った。


玲奈は目をカッと見開いて、母親を見つめる。


大聖も和那も言葉を失っている様子だ。


無理もない。


あの大量殺人犯が父親だなんて誰でも衝撃的な気持ちになるだろう。


「そ、それ、本当なの?」


真っ青になった玲奈が若葉に尋ねる。


若葉は煙を天井に向かって長く吐き出す。


「間違いないね。うちの店の太客だったから。今でも養育費は振り込まれてるのよ月15万くらいね」


「もしかして、お名前や連絡先もご存知なのでしょうか?」


和那がつんのめりになって尋ねる。


玲奈は真っ青の顔のまま、俯いてしまっていた。


「いや、これも後から知ったんだけどさ。私やお店に名乗ってたのは、どうやら本名じゃないみたいなんさ。連絡先もいつの間にかつながらなくなっちまった。当時、浅倉人材企画に勤めてたって言っててさ。お嬢ちゃんのパパの会社なんだろ?」


「え、お父様の会社に?」


顔面がみるみるうちに蒼白になる和那。


若葉はうんうんと頷いた。


「玲奈からそれを聞いてさ。私は思ったよ。こりゃあ運命のいたずらさ。まさか昔、妊娠させられて逃げてった男が勤めていた会社のお嬢さんから、お説教くらうことになるなんて思わなかったからね」

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