表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mysterious ROAD  作者: dear12
53/77

第53話 お見通し

2階に足を運ぶと薄暗く冷たい廊下が広がっていた。

 

まず、3人で和那の部屋、玲奈の部屋から安全の確認をしていく。


特に何か荒らされている気配は無く、整然とした状態が保たれていた。


クローゼット内にも何らの異変も無い。


 そして、空室も順番に確認していくが、どれも触られた形跡すら残っておらず、何の異変も見られなかった。


「あとは奥のおじいさんとおばあさんの部屋だけだな」


総理が口を開く。


この2つの部屋がやはり最大の難所となる。


和那も大聖もごくりと唾を飲み込んだ。


 総理はまず、手前の祖父の部屋の扉の取っ手に手を掛けた。


乾いた音がして扉がゆっくりと開かれる。


昨日の夜に確認したばかりというのに、すごく懐かしい気持ちに包まれる。


部屋の右奥にそびえる本棚は変わらず整然としており、手前の洋服用クローゼットには、洋服とカメラが無数に置かれていた。


ホコリが満遍なく降りかかっていた。


誰かが出入りしている気配は全くなかった。


総理と大聖は安堵の溜息をこぼす。


「次は、いよいよだな」


「ああ」


続いて、最奥の祖母の部屋である。


ここは部屋内の確認は勿論のこと、クローゼット奥の屋根裏まで確認しなければならないからだ。

 

一同、緊張に満ちた表情で祖父の部屋を後にした。


ヒタヒタと冷たい廊下を進む一同。以前もそうだったが、和那にとっては心なしか祖母の部屋だけが毎回暗く感じてしまう。


 総理が冷たい祖母の部屋の扉の取っ手に手を掛けた。


 誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。


シーンと静まり返る薄暗い廊下。


「行くぞ」


総理が一気に扉を開いた。


乾いた音とともに祖母の部屋が暴かれた。


まず、人の気配はなかった。


祖父の部屋同様、洋服用クローゼットの中には祖母の着ていた洋服が整然と並んでいるだけだった。


最奥の列の服にも徐々にだが、ホコリが被り始めている。


和那はそれを見て少しホッとした。


「やはり問題はクローゼットの中だな」


総理が言う。


まだ目には緊張感が滲み出ていた。


総理と大聖が見つめ合って頷く。


2人はそのままクローゼットの中へ、数多の洋服を掻き分けて入っていく。


そして、レールライトを慣れた手つきで奥へと押しやった。


すると、奥の開封口がどす黒いその口を開けた。


一瞬、一同がビクついたが、やはり何かが現れる気配はなかった。


「懐中電灯を」


総理が右手を和那に差し出す。


和那はその右手に手近な懐中電灯を手渡した。


 まずは開封口の奥を照らし、開封口奥の天井、つまりは屋根の部分をゆっくりと照らし出す。


「行こうぜ総理」


大聖が後ろから急かす。


「おう」


総理がそのまま開封口に手を突っ込んで進入していった。


大聖も隙間なくそのまま開封口に飲み込まれていく。


「すっげえ寒い。あー広いなあ」


大聖が素っ頓狂な声を上げた。


そこには変わらず、大の大人1人がすっぽり入る程度の高さがあり、広さも10畳ほどあろう空間が現れる。


そこには鼠1匹たりとも見当たらなかった。


 ここで総理は胸を撫でおろした。


「誰もいない」


「戻ろうぜ総理」


大聖がクローゼットの中へと飛び降りた。


総理もまたそれに続く。


 開封口を丁寧に閉め、安堵の表情を浮かべる。


 その後、1階も順番に捜索したが、やはり鼠1匹も発見することはなかった。


「いなかったってことだよな」


リビングで3人がソファに腰かけ、大聖がぼそりとつぶやく。


「まあそうだな」


総理もこくりと頷く。


しかし、どうにも綺麗にまとまり過ぎているというか、総理は和那の言う通り、腑に落ちなかった。


和那は今朝和食レストランで言っていた通り、未だに不安そうな表情を浮かべていた。


「和那さん、大丈夫ですよ安心してください」


大聖が呼びかけるも、和那は即興の笑顔を作って、再び不安そうな表情に戻ってしまう。


大聖は何が何やらわかっていないようだ。


さすがに朝の和那の話を聞いていなかったから無理もない。


「そういや、午後からどうすんだ?」


大聖は総理に向き直る。


時刻は既に午後0時を指そうとしていた。


総理は唸ったが、和那がまず口を開いた。


「明日、玲奈ちゃんが退院なので何か退院祝いを買いに行こうと思っているんです」


「あーいいですねえそれ」


大聖がすかさず首肯する。


「新都心中央のショッピングモールに行きたいと思うんです。お2人ともご都合はいかがでしょうか?」


和那の提案に大聖も総理も承諾した。


 かくして、午後は新都心中央のショッピングモールへと足を運ぶことに決定した。






 日曜日ということもあり、ショッピングモールは大勢の家族連れや学生でにぎわっていた。


映画館も併設された、近隣住民の買い物スペースであるが、さいたま市内は勿論、最近では市外からも買い物や映画鑑賞に訪れる人が多い。


さいたま市の中心部の故に規模自体は郊外のショッピングモールに比べて小さいが、雑貨屋やスポーツ用品店、飲食店や本屋など一通りの買い物はここで済ませることができる。


 まずはショッピングモール出入口で大聖がぼそりとつぶやく。


「玲奈ちゃんって何が好きなんだろうなあ?」


たしかに玲奈が好きな物は想像できない。


甘い物やポテトチップスが好き、という食事の好物に関してしか情報は無い。


一緒に生活をしている和那こそが唯一の判断材料となってしまうだろう。


「私のセンスで問題なければ何とかなるかもかもしれません」


「いやーでも和那さんが必死になって選んでくれた物なら、あの子も嬉しがるはずですよ」


大聖が陽気にフォローする。


「本当ですか。がんばります」


和那は嬉しそうにニッコリと笑った。


 雑貨屋の店内をゆっくりと回る和那。


総理と大聖も人混みを掻き分けながら、和那とは反対方向から雑貨屋内をぐるりと回っていく。


スタイリッシュな店内は高校生から社会人、主婦までいろいろな客層が来店していた。


文房具やインテリア、化粧品や小物まで満遍なく取り揃えており、多目的な買い物ができた。


多くの人が、じっくりと1つ1つの商品を手に取っては吟味している。


「しかしまあ、人の多さったらやばいな」


大聖がジロジロと周囲を見回す。


「休日だからな」


総理がつぶやく。


2人で文房具を物色していて、何気なく店外の通路に目をやった。


その先に見えた2人の男女に総理は思わず目を見開いた。


 そこにいたのは間違いなく、対策委員会の井関聡美だった。


その井関が傍らの男性にべったりとくっつき、店内を、おそらくは総理たちを意味深な表情で見つめていた。


驚いたのはその男性の正体であった。


総理たちのクラスの学級委員である松坂清太であった。


松坂もまた、いつものように爽やかな笑顔でこちらを見つめている。


それはさながらカップルのような立ち居振る舞いであった。


2人は軽く口づけを交わす。


井関は恍惚の表情を浮かべ、その顔を松坂の胸の中に沈めた。


 総理と大聖はしばし魂が抜けたように、その光景を見つめていた。

 

 松坂は勝ち誇ったような表情を浮かべ、そのまま新都心中央駅の方向へと立ち去っていった。


井関は終始松坂の腕にしがみつくように寄り添っていた。


 総理は絶望した。


これで、井関を味方にする道が完全に途絶えてしまった。


あの井関が松坂に惚れてしまったのか?あの生真面目そうな井関が、あんな恍惚とした「女の顔」をするだなんて想像だにしていなかった。


いや、それはともかく。


あそこまで濃厚そうな関係を見せつけてきたからには、井関をこちら側の味方につけることが不可能となった。


「おいおい、ありゃあちょっといろいろまずいんじゃないのか総理」


大聖がげんなりした表情で言葉を絞り出した。


「大変まずい状況だな」


総理も顔面蒼白であった。


 まさか、井関だけでなく湯浅も既に松坂側についてしまっているのか?


総理の心臓の鼓動が跳ね上がっていくのを感じた。


 総理は思わず、店外に飛び出した。


 携帯電話を取り出し、湯浅の電話番号を取り出す。


総理は躊躇なくその電話番号に電話を掛けた。


 何度も耳に響く通話音。


あの、湯浅ののんびりとした声が電話口に出なかった。


「くそっ」


総理はその後、何度か電話を掛けたが、一向にそののんびりとした声が響くことはなかった。


 と、ここで大聖が店外に飛び出してきた。


「おい、総理どうした?」


「湯浅、湯浅が出ない。あいつまで松坂側につかれたら大変なことになる」


「そ、そうだな。あっ。片岡ちゃんも大丈夫かな?」


大聖もまた携帯電話を取り出し、おそらく片岡に電話を掛け始めた。


総理は緊張の面持ちで、大聖を見守る。

 

大聖が携帯電話を耳につけていたが、しばらくしてから舌打ちした。


そう、片岡もまた電話口に出ることはなかった。


 総理と大聖は意気消沈としていた。


「片岡ちゃんはマイペースな子だから、たぶん手が空いたら電話くれるさきっと」


大聖が自分に言い聞かせるようにして言った。


片岡はそうでも、湯浅はどうだろうか?


適当で気分屋だから、湯浅もまたいずれ掛け直してくれるだろうか。


それとも適当故に、井関とともに松坂側へくっついてしまったのか。


ここでもう1つ、総理が気になっていた点を指摘した。


「それよりも、あいつらがここにいるのはたまたまか?」


総理がぼそりとつぶやく。


「さすがにたまたまじゃねえか?確か松坂の家は新都心中央だろう?」


大聖がアハハ、と笑顔になっていない笑顔を見せる。


「まさか、仕掛けられている?」


総理がコートやズボンポケットの中をまさぐった。


と、しばらくして、コートの内ポケットに何か固いものの感触が手に触れた。

 

総理はそれを強引に取り出す。


何やら黒いUSBスティックのような機器が出てきた。


総理はしかめっ面をした。


「やられた」


 総理はそれを床に叩きつけ、足を大きく振り上げて力の限りぐしゃぐしゃに踏み潰した。


「おい、まさかそれ」


大聖が言葉を失った。


周囲の買い物客たちも何事か、とにわかにざわつき出した。


「GPSの機械だな。一体いつからこんな」


悔しそうに吐き出す総理。


「じゃあ、俺らの行動が読まれてたってことかよ?もしかして、和那さんの家にいたのも?」


「可能性はあるな」


未だに悔しさが抜けない総理。


本当にどのタイミングで、松坂は総理のコートの内ポケットにこれを忍ばせたのだろうか?


大聖も言葉を失った。


「松坂、許せない」


総理は握りこぶしを作り、しばらく怒りのあまり、わなわなと震わせていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ