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Mysterious ROAD  作者: dear12
33/77

第33話 中村の信念

和那はすぐさま、取って返して1階に降り立った。


門の手前に警察車両と救急車両が続々と集っていた。


1人のおでこの広い中年男性がインターフォンに近寄ってきた。


「大宮警察です。通報してくださった浅倉さんでお間違いないですね」


丁寧に力強く語り掛けるこの男性。


和那はインターフォンに応答する。


「はい、よろしくお願いします」


和那は門の扉のロックを開けるボタンを押した。

 

救急車両はそのまま洋館の出入口まで乗り入れてきた。


そして、警察官と思しき数名の男女が徒歩で近づいてくる。


和那はあまりの急展開に心がついていけていなかった。


一体何故このような事態に。和那は緊張の色を隠せずにいた。


 洋館の前に立つ複数の警察官。和那は扉を開けて対応する。


と、この間、ホタルイカの取り調べの際に対応してくれた、おでこの広い中年男性が警察手帳を手に立っていた。


「あ、おはようございます」


和那がペコリと頭を下げる。


中村警部も丁寧に敬礼した。


「この間の、相内玲奈ちゃんのお姉さんだね。2階のお部屋で間違いないですね?それではさっそく失礼します」


ドカドカと警察官が続々と現場の中に雪崩れ込んでいく。


救急隊も続けて担架を持ち込んで入って行く。


 中村警部はテキパキと指示出ししていく。和那は放心状態であった。


 程なくして玲奈が担架に運ばれてきた。


「玲奈ちゃん」


和那はそのまま一緒に救急車に乗り込みたかったが、後程捜査が終了してからの対応になりそうだった。


和那はその後、リビングルームで中村警部の取り調べを受けた。


「第一発見者と通報者はあなたですね」


「はい」


「まず、状況を確認したいのですが、玲奈ちゃんは何故、屋根裏のスペースで外傷を負っていたのでしょうか」


「それは屋根裏に侵入して、ある人に襲われてしまったからだと思います」


和那は俯いた状態で、蚊の鳴くような声でつぶやく。


「ある人?」


「はい、黒衣をまとった不気味な仮面の男性でした」


その言葉に中村警部の表情が凍り付いた。


そして、鬼気迫る表情でまくし立てた。


「それは本当かい?何か防犯カメラみたいなものが設置されている?それをすぐに見せてほしい」


和那は突然の中村警部の豹変に驚いた。


あまりの食いつきぶりである。


もしかしたらこの人はこの怪人の正体を知っているのではないか。


そして、これがまさか例のホタルイカか。


「わ、わかりました」


和那はビデオカメラを回収しに自室へと戻った。


 廊下では多数の警察官が行き来していた。


和那は邪魔にならないよう、ささっと自室に引っ込んだ。


和那は自室の机に転げてあったビデオカメラを回収する。


和那は再び階段を駆け下りてリビングルームへと向かう。


 リビングルームでは中村警部が部下からの報告を受けて指示出しをしていた。


和那の手の中におさまったビデオカメラを見つめ、


「おお、ありがとう。それでは確認していこうか」


やはり先程の取り調べ時とは明らかに食いつきが違う。


もしかしたら、この人はこの怪人に何らかの見当がついている?


和那はビデオカメラを操作しながら考えた。


「まず、このカメラを設置した時間、女の子が映った時間、怪人が映った時間をメモさせてね」


「わかりました」


和那は記憶をたどりながらカメラを早送りさせていく。


カメラを仕掛けた時間、つまり和那がカメラの録画モードを開始した時間が23時57分となっていた。


玲奈が現れたのが、26時38分。


その後、怪人が姿を現したのが26時42分。


その後、祖母の部屋を出入りした者は、録画モードが途絶えた29時までには誰もいなかった。


その後、和那が30時前に回収して動画を確認したところ、前述のような事態が発生したために確認に行ったところ、倒れた玲奈のみが屋根裏から発見された。

 

状況を事細かにメモしていく中村。


そして、やや思案したところで中村はソファから立ち上がった。


「そしたら、私も確認したいことがある」


中村は和那を伴って2階の祖母の部屋へと向かおうとした。


その時だった。


「和那。無事か?」


総理と大聖が扉を蹴破らんばかりに玄関から現れた。


和那はホッとした表情で向き直る。


「総理さん」


中村警部は睨みつけるようにして総理を見つめる。


「君は誰だい?」


「この子の友人の横山総理です」


「同じく赤嶺大聖ですってあれ」


総理と大聖は大人しく名乗った。


「昨日の片岡ちゃんと会った警部さん」


大聖がびっくりとした表情で指さす。


中村のやや高圧的な視線が気になる。


「ここは今、捜査中だから外にいてくれたまえ」


中村警部はそう言い放つと、和那を伴って2階へと上がっていく。


2階は10人ほどの警官が犇めいていた。


廊下を小走りする者、写真を撮る者、指紋を採取する者など。


中村警部はそれらの警官たちを振り払うようにして祖母の部屋へと急ぐ。


和那はそれに続くのが精一杯だった。


祖母の部屋のクローゼットの中にも既に数人の警察が侵入していた。


と、ここで少しどよめきが起こった。


何事かと思って眺めていると、爬虫類のような鼻水を垂らした男がクローゼットの開封口から姿を突如現した。


「なんだ、藤原君か」


中村警部はがっかりとした表情でつぶやく。


藤原と呼ばれたそのおどおどした男は言う。


「い、いや、中村警部そんなこと言わないでくださいよ」


どもりながら笑う藤原。


何とも奇妙な男だ。


和那はすました顔でそのやり取りを見つめる。


「ホタルイカは屋根裏にいなかったのかい?」


中村警部が尋ねる。


藤原はふざけているのか、本当なのかわからないが、え?と耳をそばだてて中村警部の言葉を聞いていないようだった。


「だーかーら、黒衣の怪人はいなかったのかって聞いてるの」


中村警部がいらだった様子で尋ねる。


「あ、あああ、いなかったですよ」


藤原は目を細めてニヤニヤと笑う。


何とも変わった人だ。


上司の中村もだいぶ手を焼いているように見える。


と、和那の顔をじいっと藤原が覗き込んでくる。


「こら、さっさと捜査しなさい」


中村が怒りを露わにする。


すると、藤原はそそくさと屋根裏の捜査へと戻っていった。


と、ここで総理が廊下を走って現れた。


大聖もそれに続いて現れる。


「この中に大量の仮面が積み重ねられて置いてあったんだ」


総理が中村警部に言う。


「ええ?そんな物ないですよ」


藤原がぼそりとつぶやいた。


総理はそんなはずはないといった表情だ。


「それは本当です。私も玲奈ちゃんを手当てした際に確認しました」


和那がそう言うと、総理も納得せざるを得なかった。


「中村警部、俺たちも何か協力させてくれよ。俺たちも事件解決に導きたいんだ」


大聖が中村警部に言うと、中村警部は厳しい表情を見せた。


「君たちもいい加減にしてくれ。こっちは仕事で来ているんだ。邪魔をするなら出ていってくれないか」


あまりの剣幕に和那がビクリと体を震わせる。


「あ、あ、中村警部」


突如、屋根裏から素っ頓狂な声が上がった。


藤原だろうか。


何かメモのような物を手にしている様子がうかがえる。


「どうしたんだい?藤原君。何かあったかい?」


「こ、こんな、て、手紙がありました」


滑舌悪く藤原が言う。


藤原は手を伸ばしてその手紙を中村警部に手渡した。


中村警部はすぐさまその文面を開いて読み上げた。


「中村君へ 君は優秀だけどどうも勘だけは鈍いようだね 僕はだいたい君の近くにいるんだよ ホタルイカ」


中村警部の表情に怒気がこもっていた。


手紙を持つ手がわなわなと震えている。


「何て書いてあったんですか?警部さん」


大聖が不思議そうに中村警部の表情の変化を見つめる。


 中村警部の腸は煮えくり返っていた。


メモを握る手が自然と強くなる。


「絶対に捕まえてやる」


ぼそりと誰にも聞こえないような声で中村警部はメモをぐしゃぐしゃに丸めてポケットに詰め込んだ。


その後、洋館中の捜索も一通り終了したが、怪人と思しき正体の尻尾もつかめずに終わった。


太陽は既に頂上まで上り詰めていた。


警察は一時撤退していく。


中村は苦虫を噛みつぶしたような表情を崩さなかった。


総理はその表情の変化をじっと観察していた。


「な、中村警部。撤収作業、か、完了しました」


藤原が鼻をずるずるしながら敬礼する。


中村は力強く頷くだけだった。


藤原は元々が半笑いの顔なので、どうやら勘に障ったようだ。


随分と感情を露わにする警部だな、総理はそのように感じていた。


逆に、和那は最初の冷静さからの変貌ぶりにとても驚いていた。


「では本日はこれで。後日、また動きがありましたら連絡します」


中村警部は敬礼し、藤原を伴って速やかに立ち去って行った。


 先程の状況とはうってかわってしーんと静まり返った洋館内。


抜け殻のようになっていた和那が、玄関であっと気づいた。


「すみません、お2人とも学校は?」


総理と大聖は顔を見合わせる。


「いや、休んじゃったよ」


総理が口元を歪める。


「いいのいいのー和那さんのピンチだったら、俺は何を差し置いてでも来るぜ」


大聖も調子よく太鼓を持つ。


和那は申し訳なさそうな表情で詫びる。


「そんなことより、玲奈だ」


総理が冷静な表情に戻る。


和那は再びハッと我に返った。


「そうでした。玲奈ちゃん」


「準備したら病院に行くぞ。新都心の病院だったな」


総理と大聖も鞄を背負いなおす。


「はい、すぐ準備します」


和那もリビングルームに取って返した。


 




パトカーの後部座席で揺られながら、中村警部は歯ぎしりを止めなかった。


ひたすらに考え事をしながら、窓の外を眺めている。


隣に座る藤原も鼻をすすりながら、中村警部の様子を窺っている。


「な、中村警部。どこ行っちゃったんですかね、その、ホタルイカは」


努めて明るく振る舞うというよりは、いつもの若干笑いのこもったトーンで藤原が話しかける。


「わからん」


ブスっとした表情で中村警部は視線をまだ窓の外へと走らせている。


もはや中村警部は藤原など眼中にない印象であった。


めげずに鼻をすすり続ける藤原。


「むかつきますね、な、なんかまるで、中村警部に喧嘩売ってるじゃないですか」


藤原がそう口にした瞬間、ギロリと目線だけを藤原に戻す中村警部。


藤原は恐怖のあまり、ひいっと短い悲鳴を上げた。


「藤原君、君には関係ない。私のことを心配してくれるのはありがたいが、君は自分の仕事のことだけを考えていなさい。遅刻や報告の漏れ・遅れ。指摘が多すぎるぞ君は」


「あ、あ、はい」


藤原は頭を下げて落ち込んだ表情になる。


 中村警部は再び視線を窓の外に戻す。


 君の近く?一体どういうことだろうか。物理的な距離?地位的な距離?精神的な距離?藤原、そして地位的な距離で言えば、同期の関口警部補。精神的な距離で言えば、妻と1人娘。


 まさか、この中の誰かにホタルイカがいるのだろうか?誰かが成りすまして?


 ゴクリと中村警部は唾を飲み込んだ。


おそるおそる中村警部は藤原に視線を戻す。


藤原はいつもの不気味なニヤニヤ笑顔を前方に向けていた。


しかし、相変わらず鼻をずりずりとすすっている。


「まさかね」


思わず、中村警部はつぶやいた。


「え?え?どうしました?」


藤原が表情を崩して中村警部を振り返る。


中村警部は視線を反らしながら、


「いいからこっち見ないでくれたまえ」


「え?ひ、ひどくないですか?な、中村警部」


ケタケタと乾いた笑いを浮かべる藤原。


 中村警部は再び視線を窓の外に戻す。


人の動きを眺めながら、しばらく思案に耽っていた。


中村は警察一家に生まれた。


祖父は警視まで上り詰めた。


亡き父は白バイ隊員であった。


そんな祖父と父を持つ中村が警察官に対して憧れを持つのも無理はなかった。


中村は大学を卒業後に、警察官の試験を受けて合格。


実績と名声を得て徐々に昇進を果たしていった。


中村は30代を前にして捜査一課に配属となり、現在の地位を得た。

 

今回のホタルイカによる熊田殺人事件は、中村にとっては過去の因縁を晴らすべき最良の機会となった。


それは亡き父の因縁である。


 中村の父、中村一敬は生前、交通機動隊の一員であった。


中村は学生時代から父の白バイ隊員としての腕前を目の前で見続けてきた。


そして、中村が晴れて捜査一課に配属となった折、父はまもなく定年という年齢になっていた。


その引退日での出来事。


まもなく通常通りの勤務を終えようとした際、一敬は路地裏に目をやると、なんとそこで高校生くらいの制服姿の少年に襲い掛かる1人の黒ずくめの怪人を目撃した。


少年はめった刺しにされているではないか。


その黒ずくめの男もまた、少年を刺したことによる大量の返り血を浴びていた。


一敬は目を疑った。その場で声を掛けて制しようとしたその時、


 パーン。


 乾いた銃声が響き渡った。


一敬はその場に倒れこんだ。


銃弾が一敬の脳を貫き、即死だった。


悲鳴が飛び交う中で、ホタルイカは少年殺害の手紙を残し、現場を立ち去った。


それが、今から7年ほど前のことだったろうか。


埼玉にはまだロスト・チャイルド現象が上陸しておらず、東京都と大阪府を震撼させていたホタルイカ事件の真っただ中だったことだ。

 

中村はその報を聞いて絶句した。


そして、その高校生の遺族にホタルイカ逮捕を誓い合った。


確かに頑固者で正義感の強い父だった。


しかし、同時に尊敬できる父でもあった。


 目標を1つ失ってしまった中村は、その後、ホタルイカの関わったであろう事件には積極的に介入していった。


ホタルイカは殺人現場に常に自分が犯したことをほのめかす手紙を置いていく癖があった。


しかし、ここまでホタルイカを追いかけていながら、未だにホタルイカの尻尾すら掴めない自分を悲しんでいた。


 同僚らに話しても「それは仕方ない」で済まされていた。


変装技術に秀でており、さらにここ数年はメイクのアシスタントを務める欧米風の少女を引き連れている。


ますます逮捕が難しくなっていた。

 

しかも中村がホタルイカに固執する理由はそれだけではなかった。


中村自身はロスト・チャイルド現象の元凶をホタルイカとみていた。


勿論、証拠があるわけではない。


が、彼が殺害する人間はいつでもどこの場所でも高校生であった。


これは、何らかの理由でホタルイカはロスト・チャイルド現象に絡んでいることを示唆しているのではないか。


そう中村は考えていた。

 

いつかホタルイカを捕まえた時に、必ず吐き出させてやる。


逮捕することで、父の敵を討つ。


そして、この不可解なロスト・チャイルド現象に終止符を打つ。


中村はこの捜査に並々ならぬ執念を持って取り組んでいた。

 

いつかホタルイカを捕まえた時に、必ず吐き出させてやる。


父の敵をこの手で討つ。


そして、この不可解なロスト・チャイルド現象に終止符を打つ。


中村はこの捜査に並々ならぬ執念を持って取り組んでいた。


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