表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mysterious ROAD  作者: dear12
28/77

第28話 参戦

翌朝、今日は朝から雨だった。


滴る雫は既に強く、傘をさして歩く人の群れが駅に次々に吸い込まれていった。


車で駅まで送られてきた人々もまた、そのまま駅舎へと吸い込まれていく。


 愛理の車に揺られて県庁前駅ロータリーに到着した総理は既に到着している大聖に遭遇した。


大聖がこの時間に既にいるなんて珍しい。


総理がいそいそと車を降りる。


しかし、傍らに美稀の姿はなかった。


総理が視線を巡らせると、大聖が口を開いた。


「よう、美稀は熱出して来れないんだとよ」


「ほんとか」


総理は残念に思った。


ここに美稀がいないことにも、大聖にしか連絡を入れなかったことにも。


と、愛理がその話を盗み聞きしていたのか、ハッとするほど素っ頓狂な声を上げた。


「ええ、美稀ちゃん大丈夫?気をつけてよ最近怖いからさ」


愛理がおそるおそる運転席から首だけ出している。


「大丈夫ですよ、愛理さん。あいつ結構頑丈だから」


大聖が大笑いする。


「いや、その、何とか現象とかあるじゃない。そっちに気を付けてほしいの」


大聖は総理と顔を合わせる。総理は姉に悟られないように呆れた表情をつくる。


「総理?何か私に言いたいことでもあるの?何?」


さすが、心配性の横山家の血を引く長女である。


こういった何気ない仕草を見つけただけですぐに心配をしてしまう。


「何でもないよ。さっさと大学行ってこい」


総理が冷たく言い放つと、愛理は舌をべえと出して車を発進させた。


車はすぐにロータリーを回り、彼方に消え去っていった。


「相変わらずだなあー愛理さんは」


大聖がクスリと笑う。


総理はつまらなそうな表情で車の消え去った方角を見つめる。


「もう行こうぜ」


総理は鞄を背負いなおすと、改札へと歩を進める。


周辺は通勤・通学客で溢れ返り始めていた。


「おう、そうだな」


大聖も総理の後に続いて改札口を抜ける。


最近は2人での行動が多くなってきた気がした。


何か違和感がある。


ここ数日で美稀が2日も欠席している。


本当に病気が原因だろうか。


「総理どうした?便秘で詰まって出ない時みたいな顔して」


 大聖が総理の顔を覗き込む。


「アホたれ」


「だって無茶苦茶つらそうな顔するからよお。我慢は良くないぞ」


と、ここで大聖が何かに勘付いたのか、ニヤニヤと笑う。


 武蔵大宮駅へ降り立ち、いつものように街中を縫うように歩いていく。


駅前ロータリーを過ぎたデパートの前の通りで、後ろから声を掛けられた。


「総理さーん、大聖さーん」


振り返ると、明るい表情をした和那が歩を速めて近づいていた。


最近、健康的な和那の笑顔を見ることが多い気がする。最初に出会った頃の和那のふわふわとした雰囲気とは別物だ。


おそらく人付き合いに関して自信がついてきたのだろうか。


「おはようございます」


ちょうど大聖と総理の間に割って入る笑顔の和那。


「おはよう」


総理も挨拶する。


「和那さーん、おはようございます。今日も綺麗ですね」


大聖が口説きにかかるが、和那はおかしそうに笑う。


「今日は美稀ちゃんお休みですか?」


「そうなんですよ。熱出しちゃったみたいで。3分で治せって言っておきますね」


大聖はめげずに答える。


「そういえば、玲奈は今日どうしたんだ?」


総理が尋ねる。


和那は待ってました、とばかりに口を開いた。


「玲奈ちゃんは元々通っていた中学校に向かいました」


「おお、本当か」


「はい。ただ、あまり学校に顔を出していなかったみたいなので、おそらく馴染むのにはまだまだ時間が掛かるかもしれませんけど。ひとまず一歩前進と行ったところでしょうか」


和那は困ったような嬉しいような感情が入り混じった表情だ。


「へーえ。良かったあ」


大聖も笑顔になる。


「はい、根は真面目で良い子なので、昨夜は問題起こしていないですよ。今日話をしましたら、大学に行ってみたいそうです。だから勉強を始めたいけど、全然わからないからどうしようってかわいらしく悩んでいました」


総理は驚いた。


あんなに荒れ狂っていたあの少女が、そこまで意識を変えられたのかと。


いや、それか元々そういう志向があったにも関わらず、親のだらしなさも手伝って、うまくいかなくて悪い道に走ってしまったのだろうか。


しかし、それらの言葉を鵜呑みにして良いものか。


総理はまだ気を許してはいなかった。


険しい表情を崩さなかった。


「そうだそうだ。学生はきっちり勉強しないといけないからなあ」


大聖が偉そうに言うので、総理は突っ込んだ。


「お前が言うな。アホたれ」


その言葉に大聖は総理の頭を引っ掻きまわした。


総理は慌てて振り払った。


和那は口を押さえて笑う。


「そういうことですので、私が勉強を見ることになりました。今、中学3年生なのでまもなく高校受験なのですが。今からでも真剣に取り組めばまだまだ挽回できると思います。皆さんの後輩にしてみせますね」


和那が胸を張って答える。


せっかくの和那のやる気を逆撫でするようなことは、何となく言いたくなかったので、総理は我慢した。


まだ、玲奈は何かを企んでいるんじゃないか。


そう、おそらく想像するにホタルイカへの復讐。


昨日聞きそびれてしまったが、また会った時にでも聞いてみるか。


そうこうしているうちにいつの間にやら学校へと着いてしまった。


それよりも美稀の身に何かが起きているんじゃないか。


総理はそれが最大の関心事であった。


一昨日と昨日の対策委員会で何かがあったのか。


気は進まないが、松坂と楠田に確認してみるか。


昇降口で和那と別れ、いつもの教室へと歩を進める。


何ら変わることのない活気のある校舎内。


 教室の扉を開け、いつものお喋りに興じるクラスメイトたち。


既に半分近くの生徒たちが登校している。松坂は自席で何やら難しそうな本を読んでいる。


 総理は松坂の元へ歩を進めた。


大聖も首を傾げながら総理を追う。


「どうした?総理」


「松坂」


総理が声を掛けると、おやっと驚いた表情で松坂が顔を上げた。


「おお、どうしたんだい。総理に大聖」


「昨日、対策委員会とやらは何時頃に終わったんだ?」


総理の唐突な質問に松坂はうーんと考え込む。


大聖も呆気に取られていた。


「やっと入る気になってくれたのかい?昨日は渡井君に仕切ってもらって全体で6時には締めたよ。僕は学園祭実行委員会に参加したからね。その後、生徒会全体で30分のミーティングをやってそれから解散した感じだよ」


「なるほど」


総理は顎に手をあてて考え込む。


その時点で大聖も理解したのか、続けて松坂に質問する。


「美稀は何か変わった様子はなかったのか?」


大聖が横から直接的な質問をする。


「渡井くんかい?いや、特には。まあ、多少疲れていたとは思うけど。今日お休みみたいだしね」


「そうなんだよ。明らかにおかしいんだ。あいつ今日も病気で休むってラインが来たんだけど、ここ数日で2日も休んでやがる。小中で皆勤賞だったあいつが、そんな軽々しく学校休むのか?って思ってよ。本当に何か知らないか?松坂」


大聖が食って掛からんばかりに前のめりになる。


総理は大口を開けていた。


何故、松坂が美稀の休みのことを知っているんだ?


「うーん、わからないよ。大きな病気じゃないといいんだけどね」


「その対策委員会というのは結構大変なのか」


総理が質問の切り口を変えて尋ねる。


労力の使うことであれば、確かに精神的に疲れてしまうこともありうるのだろう。


「形として全然できていないから、その枠づくりも大変なんだけど、集まってきた人も多種多様でまとめるのが大変だね。昨日はちょっと生徒同士で揉めるシーンもあったらしいんだ」


「揉める?」


総理と大聖が同時に口を開いた。


「ああ、本気でロスト・チャイルド現象に立ち向かおうとしている生徒と、いわゆる内申点稼ぎでそれに参加している生徒。両者で少し揉めてしまってね。収拾をつけるのに少し手間取ってしまったらしいよ」


松坂もお手上げといった表情である。


喧嘩に慣れていない美稀はもっと疲れ果ててしまったことだろう。


「まだ組織がいろいろ不完全な故にまとめ上げるのが大変ってことか」


大聖はうんうんと頷く。


組織について語れる知恵が大聖に果たしてあるのだろうか。


「もちろん僕らはいざという時は、本気でロスト・チャイルド現象に立ち向かおうとしている生徒を守りたいと思っている。ただ、内申点稼ぎで参加している生徒も少しは差別化しなければ、人手不足自体が改善されないんだよ。小手先だけでやり繰りする程度の委員会なら立ち上げる必要ないんだからね」


「今最大の課題が人手不足ってことか」


「そういうことだね。もう少しロスト・チャイルド現象に関心をというか、危機感を抱いてくれないと人員も増えていかない。今日は館内放送で生徒会長が自ら呼びかけをしてくださることになっている。これで少しは君たちにも響いてくれればいいんだけどね」


松坂は皮肉そうに笑う。


と、大聖が苛立った様子で反論する。


「別に俺らは危機感がないわけじゃねーぞ。ただ、その、面倒くさいだけだ」


との回答に総理も松坂も脱力する。呆れ果てている。

 

総理は面倒くささがロスト・チャイルド現象対策委員会に参加しない理由ではない。


ロスト・チャイルド現象の真実を知ることが優先というだけであって、それを遂行するためには対策委員会に参加することが近道ではないからだ。


しかし、美稀がこのまますっかり病んでしまって学校に出てこれなくなってしまうのであれば、話は別になってくる。


自分たちも放課後の委員会に参加して苦労を共有することで、美稀の心労が軽減されるのであればそれは参加する価値がある。


「総理は何故、助けてくれないんだい?」


松坂がボールペンを回しながら尋ねる。


「俺は問題がないからだ」


「と、言うと?」


「俺は自分を守る程度のことくらいなら問題ない。ただ、他の奴らの管理まではごめんだって話だ」


それを聞いた松坂は意味深にうなずいた。


「おそらく、それが大体の生徒の本音なんだろうな」


総理も自分で発して初めて気が付いた。


もしかしたら多くの生徒たちの心境もそんなところなのかもしれない。


「ようは自分さえ良ければ、自分さえ助かればそれでいい。別に他の人が失踪しようが、他人事。自己管理。自己責任。その証拠に飯尾君や和田君が失踪しても君らは顔色1つ変えやしないしね」


松坂は冗談っぽく笑う。


「君たちは冷たいね」


と、ここで大聖が怒りを露わにする。


「俺らはそこまであいつらと仲良しじゃなかったぞ」


「そうかい?結構行動を一緒にしてたじゃないか。君らはそう思ってなくても、僕や他の連中はそう思ってたよ」


松坂の言う通りかもしれない。


確かに休憩時間中はよく4人で話していることもあり、外部から見れば、総理たち4人は仲良く見えたのだろう。


でも、実際に学校の外まで一緒に行動するかというと、それはほとんどなかった。


たまにゲームセンターに足を運ぶくらいの仲だった。


「まあ、よく考えるといいよ。これからきっと大変な事になるから」


松坂はすっくと立ちあがると、伸びを1つした。


「どういう意味だ?」


総理が頬に汗を浮かべる。


松坂の言葉の真意が読めなかった。


「ん?ごめんごめん。適当なこと言っただけさ。僕も疲れてるみたいだ」


松坂は軽くストレッチして腕を伸ばした。


そして、そのままゆっくりと教室の外へと出ていった。


 



昼休み。

 

カフェテリアの円卓にて総理、大聖、和那の3人で珍しく昼食を取っていた。

 

総理は朝の松坂の言葉を反芻していた。


引っかかったのは2点だ。


美稀は松坂には欠席連絡をしていたこと。


そして、最後の大変な事になるということ。


松坂は適当なことと言っていたが、とてもそんな雰囲気ではなかった。


まさか、美稀がロスト・チャイルド現象に巻き込まれるということだろうか。

 

総理は注文のプレートを握り締めたまま、俯いている。


大聖はコンビニで購入したサンドウィッチを遠慮なく頬張っている。


和那は弁当箱を開いた状態で待っていた。


「先に食べてていいぞ」


総理が指摘したが、和那は首を横に振った。


「いえ、総理さんもそろってからいただきます」


「律儀ですねー和那さん。いいんですよ。総理のことは気にしなくて」


大聖はベーコンをポロリとテーブルの上にこぼした。


「汚っ」


総理が目を細める。


大聖は慌てて拾い上げて、使いかけのおしぼりでそっとテーブルの上をひと撫でした。


「すまんすまん。ところで、和那さんのお弁当美味しそうですね。和那さんの手作りですか?」


大聖は和那の弁当箱を覗き込む。


質素だが、丁寧に盛り付けられたおかずが並ぶ。


「ありがとうございます。はい、私が作りましたよ」


「いいなあー和那さんの手作り弁当食べたいなあ」


大聖が頬を紅潮させる。


どうやら妄想の時間となったようだ。


和那はふふふと上品に笑う。


「今度、総理さんと一緒にいらした時にお夕飯食べていってください」


「マジですか?いやー総理さんは大丈夫ですよ来なくても」


「ふふふ。ダメですよ、大聖さん。そんな意地悪なこと言っちゃ」


「58番の炒飯定食のお客様」


総理がナンバープレートを握り締めて立ち上がった。


大好きな炒飯定食を食べたいがために今日は弁当ではなく、学食を選択した。


あまり良いニュースが入ってこないので、景気づけにはもってこいだ。


と、そこにボサボサ頭の不潔な少年が前に並んでいるではないか。


そう、楠田だ。


昨日、うちのクラスで唯一ロスト・チャイルド現象対策委員会に参加した生徒。


「楠田」


総理が声を掛けると、ビクッと怯えたように震えるボサボサ頭。


ややあって振り返った表情には、パッと明るい表情が宿っていた。


「あ、横山く、じゃなくて総理」


「お前も飯か」


「う、うん。そうなんだ」


楠田が食事の載ったトレーを受け取る。


総理もまた自身の炒飯定食が載ったトレーを受け取る。


「い、一緒に」


突如、楠田が大声を上げる。


総理は身震いして楠田を見つめる。


「?」


「あ、あの、横山君。い、一緒に食べない?」


楠田が顔を紅潮させて言う。


何故か、目をつぶったままだ。


反応に困った総理ではあったが、一緒に食べることは問題なかったし、さらにその対策委員会について聞いてみたい気持ちがあった。


総理はうなずいた。


「奥に席を取ってある」


パッと明るい表情に戻る楠田。


意外と表情が豊かなんだなと総理は感じた。


席に戻ると、大聖と和那が談笑していた。


そこに、総理と楠田で突入する。


 トレーに載った炒飯定食を運んでくると、和那もようやく箸を握った。


「では、いただきます」


総理は両手をきっちり合わせて箸を持った。


「あ、お邪魔します」


楠田が恥ずかしそうに言う。


「おお、楠田か」


大聖が珍しい物を見つけたような表情を見せる。


和那もにっこりと上品な笑顔を浮かべる。


「総理さんと大聖さんのお友達の方ですか?」


「そうそう友達友達―」


大聖が同意を求める。


やや楠田は元気をなくした様子だったが、こくりと頷く。


「そうなんですね。初めまして。3年A組の浅倉和那と申します」


和那を直視するや否や、林檎のように真っ赤に染まる楠田。


さすがに上品な色気のある和那を前にしたら、女の子が苦手な男子生徒はこういった反応にはなるだろう。


「は、はい。初めまして。ぼ、僕は楠田京で、です」


すっかり緊張で口がまごつく楠田。


にっこりと優しい笑みを浮かべる和那。


 各自、席について食器をカチャカチャと鳴らす。


「昨日の対策委員会はどうだったんだ?」


総理が楠田に尋ねる。


楠田はフォークに刺したハンバーグの欠片を口の前で止め、真剣に答える。


「え、すごく大変だったよ。真面目で気難しい女の子と、内申点ばっかり気にしている女の子が言い争いしていて」


それは松坂も話していたことだったな。


どうやら松坂の話は本当だったらしい。


「真面目で気難しい女の子はすごい熱い子だったよ。その内申点を気にしていた子は大澤先生や年上の男子生徒にはすごい笑顔で丁寧。でも、気に入らないその真面目で気難しい女の子にはだいぶおらついた感じで、気分が悪かったよ」


楠田も苦笑いをこぼす。


「で、今日は松坂1人でそのまとまりのない委員会をまわすのか」


総理がうーんとうなる。


和那もどことなくしんみりとした表情である。


大聖は変わらないペースでパンを口に運んでいる。


「いや、どうやらあの伊東生徒会長が来るみたい」


 伊東由寧が生徒会の会長である。


切れ長の目に腰まで伸びた栗色の長髪。


背は低い。


そして、チンピラの娘なんじゃないかと思われるくらい気が強い。


気が強すぎるあまり、一部の男性教師や男子生徒を従えている。


端から見ればパワハラはパワハラだが、奴隷となっている教師や生徒たちは、マインドコントロールにあっているかのように従順なのだそうだ。


おそらく、美稀が精神的にやられてしまって、視察の意味でも伊東が代役を買って出たところだろう。


「マジかー俺、今日参加しようかなあ」


大聖が目を輝かせ、会話に割って入ってきた。


 どうやら大聖は年上の女性が大好きらしい。


確かに会長は危険な性格なのだが、支配されたい欲求のある男性には溜まらないのかもしれない。


「お前は会長が目当てなだけだろう?」


総理が溜息をこぼす。


「そんなことねえよ。飯尾たちも失踪に巻き込まれてよ。俺は悲しいんだぜ。この現状をどう打破していくのか。それを考えていかないと、俺たちの未来は無い気がするんだよなあ」


突如、大聖は立ち上がってそのような深く語り出す。


「ですよね?和那さん」


いい加減に振られた和那が困惑した表情を見せる。


和那はどことなく不穏な空気を発していた。


伊東会長と何かあったのだろうか?


「あ、はい」


「そうと決まったら参加するのが筋じゃないのか?総理」


大聖がズイッと顔を近づけてくる。総理はその顔を必死によそに追いやる。


「和那さんは参加してくれますよね?」


「申し訳ございません。玲奈ちゃんが心配ですので、今日は学校が終わったらすぐに帰らせていただきます」


和那は申し訳なさそうに一礼する。


「じゃあ、お前が参加しろ。総理」


こうなると大聖は頑固だ。


おそらく総理が参加するというまで譲らないだろう。


「なんでだよ」


総理が苛立ちながらハンバーグを口に運ぶ。


「参加できない和那さんの分まで全力でお前が参加しろって言うんだよ」


「嫌だ」


総理が頑なに断ると、大聖が何かしら思いついたように意味深にうなずく。


「そうかそうか。またお前は和那さん家にでも泊まりに行くのか。このエロガキめ。クラスに言いふらしてやるからな。美稀と和那さんと3人で泊まったことをな」


ブーッとハンバーグを勢いよく吹き出す総理。


楠田も顔を真っ赤にしてぼんやりしている。


和那も反応に困ったような顔を見せる。


「何でそうなる?」


総理が顔を赤らめて反論する。


大聖がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。


「じゃあ、お前も参加しろよ」


確かに松坂が言っていた内輪揉めの件も気になる。


美稀が苦しんでいる理由もわかるだろう。


そして何より、総理と大聖が参加することで美稀も心労が軽減されるだろう。


それならば参加する価値はある。


「わかった。今回だけだ」


 大聖は勝利のブイサインを披露した。


総理は溜息をこぼす。


しかし、楠田はうれしそうな表情を見せていた。


知っている人が全くいない状況。


しかも、内輪もめがひどいこの状況では頼りになる存在だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ