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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第一章-a
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【2010年9月29日-03】

 弥生ちゃんとの一悶着を終えた後の授業は、淡々とした時間でした。


 ノートを取る事も忘れ、ただ茫然としていたアタシは、帰りの会を終えて早々に帰宅した弥生ちゃんに一瞬目配せをするも、彼女は何も反応を示す事も無いまま、ただアタシの前から消えました。


アタシも、ただ荷物をまとめて、帰る為に歩き出そうとします。


けれど――そんなアタシのポケットが、僅かに震えたのです。



「――ベネット」


(ハイッ、レックスの反応です!)



 急ぎ、カバンを抱えて走ろうとした所で、アタシは先ほど弥生ちゃんとしたやり取りを思い出し、足を止めてしまいます。



「弥生ちゃんは、お仕事。アタシは……アタシは」



 子供のアタシにとって、お仕事という言葉には特別な意味があると思っています。


 それは、やらなければならない事。


 それは、そうしなければならない事。


 それをする事によってお金を得て、次のお仕事を得て、そして人は生きていく事が出来る。


アタシにとってレックスとの戦いは、それこそ昨日まで「やらなければならない事」でした。


アタシにしか、出来る人が居なかったから。


でも今は、弥生ちゃんがいます。アタシがやらなくても、弥生ちゃんがそれを成せます。



なら――アタシがやらなければいけない理由は、一体何でしょう。



フッと息を吐き、ただ無作為に、扉を開けよう。


そう。レックスと戦うべき日々は、今日行った問答で、終わったのだから。





「弥生ちゃん、また明日」





 誰の言葉かも、分かりませんでした。


 教室でまだ帰り支度を整えている子、今にもカバンを持って帰ろうとしている子、そもそもまだ帰る気すら無い子――色んな友達が、振り返った先にいるのです。



「――うんっ、また明日!」



 言葉へ返事を返そう。


かけてくれた言葉の想いに、想いを返そう。


アタシたちは――そうして言葉をかけ続ける事によって、生きているんだから。


 廊下は走っちゃいけませんが、それでも急ぎましょう。



(遥香さん、行くんですか?)


「うん。行くよ」


(もう一度聞きますよ。貴女には学校も、塾も、お父さんもお母さんも居るんです。


 弥生さんが言っていたように、貴女は貴女がいるべき日常があるんです。それでも――それでも貴女は、レックスと戦う非日常を選ぶんですか?)


「うん。選ぶよ」



 迷う必要があったのでしょうか。


 自己問答する必要があったのでしょうか。


 お仕事だから戦う弥生ちゃんは決して間違っていません。


 でも――『大切な世界を守りたい』と考えるアタシの気持ちも、決して間違いではないじゃないですか。



「小難しい理由なんていらない。しなきゃいけないだとか、しちゃいけないだとか、関係ない。したいからする。


 アタシは――今日この場所で『また明日』って言えたように、明日も『また明日』って言えるように、みんなを守るんだっ」



 校庭へ飛び出す。ただ走る。



 ――したい事をしよう。



パパに言われたように、そうしたいと思ったからこそ。



**



私――如月弥生は、秋音市郊外にある第一公園という場所を訪れていた。


ここは調節池と一体的に構成された公園であり、本来であれば運動をする老人や若い子供などが多く居る筈である。


しかし、今は近辺も含めて誰も居ない。


理由は三つ。


一つは元々住宅地郊外にある公園の為、学校からも離れている結果、最近は利用している人が少なくなっている事。調節池だけを残し取り壊しも検討されているらしい。


一つはレックスハウンドによる規制を行い、近辺への立ち入りを禁止している為。


残る一つは――マジカリング・デバイス【ウェスト】より発せられる低周波数の電波が、特定条件を満たさぬ人間の脳に直接作用され、虚偽の情報を伝達されている為だ。


今回ウェストが選んだ虚偽の情報はどうやら「研究機関から運ばれていた化学薬品が漏れ出した結果、現状調査と対処を行っている為」と聞いた。


 それっぽく言っているが、そんな事があればもっと大問題になっていてもおかしくはない。



「けれど――あれを一般市民に見せるのは、確かに好ましくない」



 調整池より、ツタのようなものが生えていた。


しかし、それは池に生息するモノでは無い。もしそうだとすれば、アレは黒過ぎる。


しゅるしゅると、ツタに似た外観をしているからそう表現したものの、それらは身体を真っ黒に染め上げていたのだから、何と表現する事も難しい。



「あれも、レックスなの?」


「はい、獣型以外は初めて見ますが、レックスの反応です」



 ウェストは現在人型形態である。マジカリング・デバイスは意思疎通を図る為の人型形態と、魔法少女へと変身する為のスマートフォン形態の二つがあり、現在は情報を精査する為に人型形態となって、手元に持つ普通のスマホでレックスハウンドと連絡を取っている。



「周囲の封鎖完了。いけます、弥生」


「じゃあ――行こうか」



 ウェストに手を差し出すと、彼女は人型形態からスマホ形態へ変化し、私の手に収まった。


前に突き出し、画面を一度タップする。



「変身」



 光りが放たれ、私の身体を覆う。


魔法少女――マジカル・リチャードへと変身を遂げた私は、手に持つハンドガンを構え、まずは一射、放つ。


光の銃弾が刹那の時間を有して着弾。しかしツタそのものは貫通したが、すぐに別のツタが傷跡を修繕する様に、無くなっていく。



「一撃破壊が好ましいって事かな」


『そうですね。ラスト・ブラストでの必殺が好ましいかと』



 脳内に響くウェストの声と通信をしながら、私は自分の持つハンドガンに力を込めた。


眼前に私の身長と同程度の大きさの砲塔が姿を現す。


それを放とうと、自分の持つ銃の引き金を引こうとする。


しかし――ツタが標的を見定めたと言わんばかりに動き出し、私たちに襲い掛かってきたのだ。


急いでその場を退避。地面を蹴って距離を取り、襲い掛かるツタは光の銃弾で撃ち落とす。



「セカンド・ブラスト」



 空中に大量のハンドガンが形成される。私が一射放つと、それらも同時に敵を識別、銃弾を射出してくれる。


しかし、無数に湧き出るツタに、防戦一方になってしまう。


このままでは、あの本体を狩る事が出来ない――。



 そんな時だった。



空中より飛来した、一人の少女が、私に襲い掛かるツタの大本を切り落としたのだ。


少女は、私と同じ魔法少女である。


水瀬遥香。マジカリング・デバイス【ベネット】を用いて変身し、現在はマジカル・カイスターとして、着地した。



「リチャード、怪我は無い!?」



 彼女は一度こちらまでやって来る。私が先ほどまで襲われていた事を知っていたからだろう。



「……どうして来たの」


「そう言う問答は、後にしない?」


「そうはいかない。私にはアレを狩る理由がある。けれど貴女には無い。そう言う話を学校でしたでしょう?」



 私は仕事としてレックスを狩ると、彼女へ宣言した。


彼女は今まで一人で自分の大切な人達を守る為に戦っていたと宣言した。


けれど、私が戦う事になった今、平和な世界で生きるべき彼女が、レックスと戦う理由なんか無い。


なのに――



「理由なんかない。私は私が守りたいモノを、自分なりに守れればそれでいい。お金なんか要らない。お仕事じゃなくたっていい。私は、この守れる力を持って、皆を守りたい。


勿論、リチャードの事も、私は守りたい」


「……私も?」


「うん。ていうか自分の命も大切にしなきゃダメじゃん。そう言うのアタシ、キライ」


「今まで、考えた事も、無かったわ」


「どうして」


「だって、私は望まれて生まれた子供じゃないから」


「生まれてくる事が望まれていなくても、これから生きていく上で、誰かに生きて欲しいって望まれれば、それだけで生きる理由になるよ。


 ううん、誰かに望まれなくったって、生きなきゃダメだよ。


だって――人には一つしか命が無いんだ。だったら、他の誰にも無い、大切なモノを守る為に、まずは命を必死で守らなきゃ!」



 私は、今まで生きる事を考えて来た。


けれどそれは、この世界で生きる為のお金や戸籍、生活を意味したもので、自分の命というモノを重要視した事は、一度も無かった。


確かに、私は生まれを祝福された子供では無かったけれど――これからを生きて、誰かにこの命を尊んでもらう事は、出来るのだろう。



「貴女は――私の命を、尊んでくれるの?」


「とうとんで……? よく、分かんないけど、うん!」



 言葉の意味はよく分かってい無さそうに、けれど言いたい事は合っているだろうと呑気に頷いた彼女に――私は思わず、フフと笑ってしまった。



「あ、リチャードって、笑うとカワイイ」


「カワイイ? ……それも、考えた事、無かった」


「じゃあこれから一緒に学んでいこう――その為にも」


「ええ。あれを狩らないと」



 カイスターの叩き切った傷の修復を行っているツタの本元は、今はまだ動かない。



「カイスター、あれは一撃で倒さないと、ドンドン修復してくる。だから」


「うん――リチャードにトドメは任せていい?」


「ええ」


「じゃあ、行こう!」



 カイスターは、身体の各所に配置されたマジカリング・スラスターに火を灯し、高速で駆けていく。


彼女の動きを危険と認識したか、動けるツタが彼女に襲い掛かっていく。


しかし、襲い掛かるツタを正確に一本一本、両手に持つ双剣で切り裂いていく彼女の動きは速い。


私より明らかに、一対多数に向いている。



「今まで協力なんか必要ないと思っていたけれど」


『大切な事を学びましたね、弥生』


「ウェストも、私に友達が必要だと思っていたの?」


『私はマジカリング・デバイスです。人間の生態についてを熟知しているわけではありません。――けれど弥生は、まだまだ知らない事が多すぎます。子供ですから』


「水瀬遥香も子供だよ」


『子供は子供と戯れる事で、色んな事を学び、学んでいくものです。――最近読んだ本で知りました』



 ちなみにウェストの趣味は読書だと言う。



「――そう。じゃあ」


『ええ。これから色んな事を学ぶ為にも、彼女と友達になりなさい、弥生』


「そうする。だって他でも無いウェストの教えだもん」



 ラスト・ブラスト――小さく呟いた言葉に、眼前へ生み出される巨大な砲塔。

銃口をツタの本営に向けて、引き金を引く。



「ファイア」



 強大な光線が放たれ、調整池全体を襲う。


その熱に焼かれたツタは全て死滅していき、やがてカイスターを追うツタも、焼けていく。



「あ、あつぅいっ!」



 ついでにカイスターのお尻も焼けたみたいだけど、ちょっと燃えただけだ。



「ひ、酷いよ弥生ちゃんっ!」


「そうかな」


「そうだよっ」



 変身を解除し、プンプンと怒る遥香に続き、私も変身を解除する。



「ねぇ、弥生ちゃん」


「何?」


「アタシ、やっぱりレックス退治、付き合いたい」


「皆を、守りたいから?」



 そうだけど、と。遥香が笑う。



「アタシは――弥生ちゃんと、友達になりたいからっ」



彼女の笑顔は――とてもカワイイのだと、気が付いた。

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