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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第一章-a
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【2010年9月29日-02】

「弥生ちゃんはどうして――魔法少女になったの?」



 今後も、アタシと弥生ちゃんは、度々昨日の様な対立を起こすと思うんです。


なら、アタシは知らなきゃいけない。


弥生ちゃんが、魔法少女として戦う理由を。


そうすれば――パパの言ったように、弥生ちゃんと友達になるべきか、分かる筈だから。



「貴女は、どうして?」


「アタシ?」


「貴女はどうして、魔法少女になったの?」



 質問に対して質問で返されるとは思っていませんでした。けれど確かに、アタシだけ質問するのはフェアじゃありません。



「アタシね、多分幸せな女の子だと思う」


「そうね。学校に通えて、友達がいて、貴女の存在を祝福してくれている、ご両親がいるもの」


「魔法少女になった事は、本当に偶然だった。塾の帰り道でレックスに襲われて、死んじゃうしか無かったアタシを、神さまって名乗るお姉さんに助けて貰って……ベネットと出会えた。本当は、自分の命が助かった時に、魔法少女なんてやめちゃうべきだったんだ」


「ええ。本当に貴女は愚かな子。幸せな女の子としての暮らしを投げ捨てるなんて、どうして」



 違うよ、と。


アタシは、弥生ちゃんの言葉に、笑顔で否定しなければならない。



「アタシ、この幸せな日々を、守りたいって思ったの。レックスなんて怪物が、アタシの幸せな世界にいて、何時この世界を壊していくか分からないから……だから、アタシの過ごすこの世界を、他の誰でもない、アタシが守らなきゃって、そう思ったんだ」



 だからこの願いは――誰にも否定はさせない。させてたまるものか。


自分の幸せを守る為に、自分が戦う。それは、これからの人生で、魔法少女じゃなくったって、どれだけでも降りかかる出来事だから。


学校のイジメ、高校への入学試験、就職、そして恋――。


人生は、色んな戦いで満ちていて、レックスと戦う事は少し特殊だと思うけれど、でも数ある戦いの、ほんの一つ。


魔法少女になって戦う事は、その選択肢の一つでしかない。


だから、アタシは選んだ。


自分の意思で。



「否定ができるなら、して欲しい。アタシも弥生ちゃんの言葉を受け止めて、また返事をする。そうして言葉で話すから、人って分かり合えるんだって、パパが言ってた」



 目を見開いて、弥生ちゃんはただ立ち尽くしています。アタシの返答、そこまで素っ頓狂な返事だったかな……。



「はははっ。弥生、お前の負けだよ」



 笹部さんが高笑いを上げた。え、もしかしてアタシ、笹部さんにも笑われるような事を?



「……そうね。思ったよりもしっかりとした返事で、驚いた。残念だけれど、貴女をこれ以上否定するつもりは無い」


「え、あー……良かった。変な事言ったかと思った」


「質問をされていたのは、私だった。――貴女がしっかりと答えたのだから、私も答えなければならない」



 あ、そうだった。アタシが質問したのに質問返しされた事を忘れていました。



「私が、魔法少女になる理由なんか無い。仕事だから、魔法少女として戦う。それだけ」



 感情無く、弥生ちゃんは呟きました。


――戦う理由は、無い?



「お仕事、だから……? でも、弥生ちゃんは、魔法少女である前に、一人の女の子でしょ?」



 違う、と。彼女は首を横に振ります。



「もちろん性別は女。そして年齢的にも、女の子と言われる歳である事も理解はしている。――けれど私は、戦わないと、生きていけないから、戦うの」


「どういう、事なの?」


「簡単な話。私は貴女と違って、私を愛してくれる家族も、友達も、ましてや学校に行く為のお金すら無かった。


 私はそもそも、戸籍上存在しない子供。ママがどこかから授かってきた子種で生まれた子供で、部屋の中で人知れず出産、そのままママのお情けで生きて来た。


 ママは生活保護を受けて、毎日毎日ゲーム三昧。食事は慎ましやかでパン一枚。ジャムだけは選べた。たまにママの気まぐれで、ピザを食べられた。それも準備は私がしてた。


 唯一救われていた点は、ママが私に無関心だった事。虐待なんかはされなかったし、ママが役所で貰ってくる教本を読む事も、支給されたパソコンを使う事も自由だった。だから読み書き位は自分で覚えられた。……そうね、物心つくまで育ててくれた事は、感謝してる」



 一度にまくし立てられた言葉を、アタシはどれだけ理解が出来たのでしょうか。それはよく分かりません。でも――そんな事って、あるのでしょうか。


だって子供っていうのは、パパとママが、生まれてくる事を祈って作るんだって聞いた。


 そしてパパとママは、生まれて来た子供が、しっかりとした大人になれるように、色んな事を教えていく事がお仕事なんだって、アタシはずっと言い聞かされていました。


なら、どうして弥生ちゃんは――



「、――っ!」



 今、アタシは最低な事を思ってしまいました。



『どうして弥生ちゃんは生まれて来たの?』



 アタシ、最低だ――ホントに最低だ!



「優しいのね、貴女は。……ええ、そう。本来、生まれてくる命に、優劣なんか無い。生まれる意味なんて誰にも無くて、この世に生まれて来た事自体を祝福するべきなのに……私は、祝福すらされず、ただ『生きてきた』だけ」



 ――そんな時、レックスがママを殺した。



弥生ちゃんの言葉は、そう続きました。



「レックスが、私とママの暮らすアパートに侵入してきて、リビングでゲームしていたママを殺した。後少しで私も殺される所だったけど、神さま……菊谷ヤエさんが助けてくれて、私にウェストを授けてくれた」


「俺達レックスハウンドは、元々レックスという存在を調査・捜索していた。そんな時、如月家にレックスが侵入した事を匿名で教えられ、部屋に突入した時には――殺されていた弥生の母親と、魔法少女となってレックスを倒す、弥生の姿を見つけた」



 笹部さんの注釈はこう続いた。



「おそらく神さまと名乗った女性――菊谷ヤエとやらは、弥生にウェストを授けた後、この子が生活していけるように、俺達レックスハウンドへ匿名の情報を流したと考えられる。なにせ彼女には戸籍すら無く、一人で生活する事も難しい。施設に入れる事も考えたが、それも難しいと判断したよ」


「ど、どうして」


「何せ魔法少女になっていたからね。なるべく隠したいレックスの存在と、レックスを倒す為の力、この二つを知ってるんだ。俺達で保護した方が好ましいとの判断だ」


「そして私は、レックスハウンドに一つ提案をして、この人たちは、それを呑んだ」



 ――対レックス専用兵器として、私を雇ってください。



それは、如月弥生という一人の少女が、生きていく為に必要な金銭を得る為。戸籍を得る為。家を持つ為。


ただ無為に生きていく大人と――生きる為に定職に就く事と、何ら変わらない事だと、弥生ちゃんは言い切ったのです。



「だから私は戦う。レックスを倒す。そうして戦いの日々に身を投じる事で、初めて私は生きている『価値』を得る事が出来る。


 ここまでを語って、貴女にもう一度言うわ。


――水瀬遥香。貴女はこれ以上、戦う必要なんてない。


貴女の守りたい人たちは、世界は、この私が、仕事として、守り抜くから」



弥生ちゃんは、全てを語り終えたと言わんばかりに、アタシの前から立ち去ります。



そしてアタシも――そんな彼女を追いかける理由が思い浮かばなくて、ただ呆然と立ち尽くすしか、出来る事は無かったのでした。

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