【2018年9月19日-03】
互いに遠慮し合って、互いに何も言えなくなっていた事に終わりを告げて、今二人はこうして楽しい時間を共有できている。
それが嬉しかった。
それが楽しかった。
――そうした時間の中に、三人の家族が一緒に居ればいいのにと、考える事はあっても。
「……ベネット、明日さ、弥生ちゃんとウェストさん連れて、お父さんとお母さんのお墓、行けないかな? アタシ、実はあんまり、行けてなくて」
「ええ、だって一週間に一回、アタシがお墓掃除してたんですよぉ? もう管理人さんに顔も名前も覚えられちゃってます」
「え、そうだったん? それは、別に言ってくれればよかったのに」
「なんて言えばいいか分かんないですからねぇ。じゃあウェストにも通信入れておきます。それより、お菓子戻してきました?」
「うん、戻してきた」
「はいよろしい。じゃあそのご褒美に、今日のご飯は遥香さんが好きなトンカツにします」
買い物を終わらせて、ベネットが三袋、遥香が二袋を持ったまま、帰宅。
帰ってきて手洗いうがい、そしてベネットが料理に時間をかけると分かっているから、適当にテレビをつけて、軽くチョコレート菓子を咀嚼。
『昨日夜九時から十時ごろにかけて、冬海市海岸沿いにて、第二次世界大戦中の不発弾が発見されたという事を受け、陸上自衛隊冬海駐屯基地が出動、住民の避難誘導、及び不発弾の解体作業に入りました』
ほう、と遥香がスマホを取り出す。テレビニュースだけでは情報精査は足りない。多角的な情報が欲しい、と思っての事でもあるが、単純に『四九がどんな風に隠蔽しているのか』が気になっているというのもある。
『発表によりますと、解体作業中、外気に触れたことが影響してか、小規模な爆発が確認されているが、自衛隊員に怪我はなく、今後も同様の不発弾が発見された場合も、海岸線故の海風や雨水などに曝されて長い年月を経ている為、地中爆発が行われていても、被害は特にないだろうと言う事です』
ベネットとウェストには、彼女たちの存在を知り得ない者達の認識力を阻害する機能がある。故に避難した冬海市海岸線沿いの人達が何かを見たとしても、マジカル・カイスターやリチャードの放つ光が見えた位であろうし、それを何らかの形で自己解決を図る事だろうから、本来であればこうした隠蔽もそう必要ではないだろう。
だが、不手際などがあった場合、何かこうした活動をしていたと目くらましに出来る情報は必要だ。それに避難させるお題目も必要だったことから、こうした処理になったのだろうなぁ、と整理した遥香は、残り一個になったチョコレートに手を伸ばすが、先んじてベネットがかすめ取り、口に放る。
「あーっ」
「ご飯の前にお菓子を食べる悪い子にはこういうオシオキも必要ですよぉ」
美味しそうに食べていくベネットが、ご飯とみそ汁、そして綺麗な色合いのトンカツを机に並べていく。
それに「頂きます」と、作ってくれた者への礼と食材への感謝を込めた言葉と共に、箸を伸ばす。
「そうだ、弥生さんとウェストですが、明日のお墓参り来られるみたいです」
「良かった。――なんか、不思議な感じだね」
「? 何がですか」
「ベネットと、こうして笑い合ってお買い物したり、ご飯食べたり……アタシ、二年もベネットの事を放ってきたんだなぁって」
「それだけ遥香さんが余裕を持てなかったって事です。色々あったので、しょうがないです」
「一つ、アタシの後悔を懺悔させて欲しいの、ベネット」
「食べながらどうぞ」
箸をおかず、ただご飯を口に運びながら、遥香はベネットの言う通り、食べながら懺悔する。
「アタシはさ、ベネットの力で人を殺しちゃった。殺した証拠ももう無いから、自分の罪は自分で背負わなきゃいけない」
「……はい」
ベネットもただ聞いてくれている。
それでいい。聞いてくれるだけでいい。
「あの時、本気であの男を殺したいと思った。どんな事をしてでも殺さなくちゃ、そうしなきゃ気が済まないって思ったから。何だったらその殺意は今でも残っている。
――けど、もし次にアタシが、そうして人を殺したいと願ったとしても、ベネットはアタシの事を、叱って止めてくれる?」
「勿論です。今度こそ、遥香さんを殴ってでも止めます。遥香さんの心にある殺意を宥める事が出来るようにアタシもなります。
アタシは、それをずっと後悔してたんです。あの時、遥香さんと止める事が出来なかったことを。遥香さんにアタシの力を使わせてしまった事を。遥香さんが……人を殺してまで、怒りに芽生えてしまった事を。
そして――遥香さんが、そうした辛さや悲しみから、アタシに罪が無いって言いたいが為に、アタシと共に一緒に罪を被ってくれなかったことに、怒ってあげなきゃいけなかった。
だから、これからは一緒に、一緒の罪を背負っていきましょう」
今までベネットに罪は無いから、と。
遥香はベネットと距離を置いていた。
だがそれでは駄目だったんだ。それは、ベネットを傷つけるだけだったんだ。
――弥生やウェストは、互いに許し合いながら、けれど許し合う方法を間違えてしまったけれど。
――遥香とベネットは、許し合ってすら、いなかった。
だから今、遅いかもしれないけれど、許し合わなきゃいけないと思ったのだ。
「……はいっ、暗い話はここでおしまい! 遥香さん、実は良いニュースがあるんです」
「え、なになに?」
「実はですねー、ウェストから一つお話を伺ってまして、これから弥生さんとウェストが来ます」
「え、どうして? 一緒にご飯でも食べんの?」
「実は弥生さんとウェストは、現在特に定住する場所が無くてですね、オマケに今後の収入が不安定なので、住む場所とかを探してたんです。だから、この家で一緒に暮らしたいというご要望を頂いたんです」
「ホントに? いいじゃん、それすっごく良い」
ニヒヒ、と笑いながら喜ぶ遥香を見て、ベネットも笑う。
これから遥香と弥生、ベネットとウェストが、共に同じ家で暮らす事となる。
最初は戸惑うかもしれない。
最初は喧嘩してしまうかもしれない。
――けれど、それでいい。
チャイムの音が鳴り響き、出迎えに行こうとするベネットに続けて、遥香も向かう途中。
父と母の写った写真がある、伏せられた写真立てを上げて、言う。
(……もう寂しくなんかないよ、お父さん、お母さん。
アタシはこれから、友達と一緒に、どんな困難があっても、この先の人生を、歩んでいくから)
後悔は色々あったけれど。
二人の少女たちは、これからも戦い続ける。
END




