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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
エピローグ-x
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【2018年9月19日-02】

 ウェストが弥生に向けて、手を伸ばす。


弥生もウェストの伸ばした手に、自分の手を重ねる。


温かな弥生の体温を感じて、そのすべすべとした手に、ギュッと力を込めた。



「弥生、私はあの時――FTとの戦闘において、貴女へ変身するように強要しました」


「うん」


「あの時、私は貴女に、生きていて欲しいと願ったから、そうしたのです。あの時の自分が、間違っているとは思っていません。けれど――あの時の貴女へ、言わなければならない事があったのです。


 貴女に戦いを強いてしまったごめんなさいではなく『貴女が生きる事を望んでくれてありがとう』を伝えなければならなかった。


だから弥生、これからも貴女は、自分の命を、自分の為に、自分が生きる為に使ってください。


人間はみんなそうしています。私も、弥生がそうして生きていける様に、尽力いたします。



――もう二度と、死に急ぐような事だけは、しないでください」



「うん……私の方こそ、ごめんなさいしないといけない事が、あった。


 私はあの時、ウェストにごめんなさいと言ったわ。


『ウェストを人殺しの道具にしてしまってごめんなさい』と……そうしてしまった事は、間違いだったと今でも思うし、ごめんなさいをするべきだった。


 でも、それだけじゃダメだったんだ。私はウェストに『私が生き延びる事を願ってくれてありがとう』を伝えるべきだったんだ。


 そうして、傷の舐め合いじゃなくて、互いに間違えた事を認め合い、願った事の正しさも、認め合わなきゃいけなかった。許し方を、互いに間違えちゃったんだ。


それを、遥香と一緒に戦って、彼女が私に向けて叱ってくれて、生きる事を望んでくれたから……だから気付くことが出来たんだ」



 二年という月日の中で、弥生は多くの人を殺し過ぎた。


その時間に後悔はない。けれど、そうして考える事を、生きる事に希望を持たず、ただ安穏と兵器として戦うなんて、人間としてあってはならなかった。



――人を殺して生き残った弥生に罪は確かにあるけれど。


――しかし彼女が生きる為に必要な事で、彼女が生きる事を願ったものがいる限り、罪は確かでも、過ちではない。



「ウェスト、私は四九から除名はしない。まだレックスは一応残っているらしいから、今後も継続して戦っていこうと思う」


「そうですね。この街でレックス退治に勤しみながら、遥香さんに色々教わって、学校を卒業なさい。そうすれば、貴女ならばきっと、色んな道が拓ける筈です」


「色んな選択肢……って奴だね」


「ええ。名も知らぬ、強盗犯の人と親殺しの人も言っていたでしょう? 若いと言うのは、それだけで財産なのだと」


「うん。あの時に受けた言葉の意味は、正直に言うと、今でもしっかりと理解できてるかどうかは、分からない。けれど、そうして私の事を考えてくれた人がいるんだって事はしっかりと覚えて、未来に進む」



 弥生はこれからも、レックスと戦う未来が待っているかもしれない。


けれどそれでもいい。それは誰かがやらなければならない仕事で、弥生にはそれを成す為の力がある。


だが、それはただの力じゃない。


時に一緒に戦い、時に一緒に笑い、時に一緒に悩むことが出来る、弥生の友達。


マジカリング・デバイス、ウェストと一緒だから。


戦う事に、恐怖は無い。



「弥生、でも私には少し将来に心配もあります」


「? 何?」


「弥生は料理も出来ないでしょう?」


「うん」


「私も残念な事に料理は出来ません。一応今後もレックス討伐に従事するので、それ相応のお金は頂けると思いますが、沈静化したレックスへの対応だけでは、四九の任務で頂ける危険手当よりは頂けません。それでも将来を見据えて貯金しなければなりませんし……つまりこれからは、節約も必要になるという事です」


「……そっか、今まで貯めていたお金は?」


「それは今後の貯蓄に回しましょう。なので、少しベネットとお話しして、遥香さんにお伝えをお願いしてあります」


「どんなお願い?」


「それはね」



 そこからの言葉を言うとき、ウェストが笑った。


きっと弥生は、喜んでくれると思ったから。


その笑みを、見たいと思ったから。



**




「遥香さん、今日のご飯はどうします? ちなみに候補としては中華と和食がありますけど」


「あー、和食かなぁ。それよりベネット、今日お菓子買っていい? そろそろ家のお菓子貯蔵が消えそうなの」


「んー……じゃあ、千円まで。それで今週分持たせるんですよ?」


「うひひ、ベネットがしっかり管理してくれてるから、アタシもお金の事で心配する必要ないし、これからは一応レックス退治に応じて給与も入るっていうし、いい事尽くめだねぇ」



 総合スーパーの一階、食料品売り場に出向いていた遥香とベネット。


 遥香はベネットに許可を取って千円分までのお菓子を選別し、カートのカゴに放り込んでいくも、しかし目ざとく見ていたベネットが「こら遥香さんっ」と叱る。



「合計で千二百円ですよ、一個くらいバレないって思って入れたでしょー? そーいうズっこい事はしちゃだめです、怒っちゃいますよ?」


「う、バレたか」


「はい、バツとしてこの芋チップスを棚に戻してきて下さい」


「それが一番欲しかったのに!?」


「だと思いましたー。でもだからこそバツとして戻してきてくださーいっ」



 ちぇーっ、と残念そうに頬を膨らませる遥香を見据え、怒る様にしていたベネットだったが、口元が僅かに笑っていることに気付く遥香は、それに対して何も言わない。

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