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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
エピローグ-x
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【2018年9月19日-01】

 そこはとある古い喫茶店の角にある席。


二人の男が、注文したアイスコーヒーの到着を待っていて、今まさに老婆が仏教面で運んできた。



「じゃあレックスは、全体倒せたってわけじゃねぇんだな?」


「うん。流石に九割がたは討伐できただろうけど、残り一割が今回の事態を受け入れて、どういう風に動くかは懸念事項ではあるね」



 笹部蓮司と、ドルイド・カルロスだ。


蓮司はアイスコーヒーに何も入れぬまま口を付けるが、しかし想像よりも味わい深いそれを知ると、ドルイドに「コレはガムシロとか入れずに飲め」と催促。


ドルイドは最初こそ訝しんだが、しかしストローを通して一口飲むと、確かに蓮司の言う通り、入れずに飲めると目を輝かせる。



「コレは美味しい。正直個人でやってる喫茶店の豆なんぞは大した事ないだろうと思っていたが、いやはや」


「こういう場所のコーヒーってたまにこだわりあんだよ。オレも気に入った、たまに飲みに来よう」


「その時はボクも呼んでね?」


「お前タダで飲みてぇだけだろ!?」


「そりゃそうだよ、ボクあんまりお金持ってないもん。一応困った時は紙幣を作るけど、それやり過ぎると神さまの知り合いに怒られるんだ。『働いて稼げ』って」


「神さまなのに世知辛いのな……」


「というかしっかり定職があるわけじゃないからローンを組めないんだ……機種代金一括払いじゃないとスマホも買えないしね」


「レックスを消滅させて、今後何もしねぇと約束してくれるなら、四九で雇ってもいいんだぞ?」


「んー、それなりに嬉しいお誘いではあるね。確かに四班は色々と人間のあらゆる側面を見るのに適した部署であるし、ボクの知的好奇心を満たす職場としては優秀だ」


「何か問題があるのか?」


「いやね、念体の消滅、出来ないんだ」



 サラリと言ったドルイドの言葉に、蓮司が今口に含んだおつまみのピーナッツを吐き出した。



「汚いなぁもう」


「んなぁ!? なんだって!?」


「正確に言うと命令は可能だよ? でもその命令を受け取って処理しようとしないんだ。なにせ今の念体って自我が芽生えちゃってるから、ボクが『任務終了、消滅せよ』って命じても『死ぬの怖い』って命令を無視しちゃうんだ」


「マジで厄介なモンを生み出してくれたんだなお前……っ」


「その上でもう一つ言うとしたら、念体の進化は留まる事を知らない。八年なんて短期間の間に自我を有した事、あれだけの知恵を付けた事から推察するに、よく人間を観察しているからね。


 もしかしたらこの街で起こっていた、四班六課が関わってた案件とか、今八課が対応してる案件とかを観察して、人間を超えた生命体として進化する個体もあるかもしれない。


 もしかしたらボク達の知らない異端の存在を観察し、得体の知れない進化を遂げるかもしれない。これから水瀬遥香と如月弥生は大変だよ?」


「あ~……四六の秋山さんとか四八の安藤さんとか、協力してくれるかなぁ……胃が痛ェ……っ!」


「中間管理職は辛いね。まぁそうした時に対処案を出す係としてなら、雇われるのもアリかもね」



 どうする? と微笑みながら首を傾げるドルイドに、蓮司はため息をつくと同時に、タブレットを出した。



「……色々就労規定あるから守れよ?」


「やっほい。これで話題の新型スマホ買えるよありがとう」


「あ、ちなみに現場出すわけじゃないから危険手当とかも出ないし給与は手取り十四万からスタートな?」


「え、ボクの給料、安すぎ……?」




 **




秋音駅から少しだけ離れた場所にあるシネマ座秋音で上映されていた『歌えダンシング・マッスル』というインド映画を見終えた弥生とウェスト。


ウェストはホクホクとした表情でパンフレット及び劇場限定グッズを買い込んでいたが、弥生はベンチに座り込んでずっと「?????、?????」と頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


吹き替え版だったのだが、横に字幕が出た事は別に問題ない。だが例えば字幕だと『この先の十字路を曲がると崖があるぜ』という文章が『この先の地獄の十文字を駆け抜けていくと地獄へダイブしちまうぜぇ』だったり、シリアスな空気感だったはずなのに、いきなりコミカルなダンスが始まって、さらに敵も味方も大合唱。終わったら即筋肉マッチョなインド人達が大暴れしだすという、意味の分からない映画だった。


しかしウェストは大変気に入ったようで「これはBDの発売と制作メイキングが待ち遠しいですね……っ」と顔を赤くしていた。



「楽しい映画でしたね、弥生」


「う、うん……そうかな……そうかなぁ?」


「弥生は楽しくなかったですか?」


「い、いや、ダンスシーンとかは良かったんじゃないかな。それより絶対あの格闘戦闘シーンの合間に入れる必要なかったんじゃ」


「インド映画は考えちゃダメです、感じろ、です」



 しっかりとエンターテインメントをしているインド映画に謝った方が良いのではないかと思いつつも、弥生も映画には詳しくない。なので「そうなのかな」とだけ同意しつつ、彼女の誘った喫茶店へ。



以前、遥香とウェストが、そして遥香と弥生が腰かけた席に座り、アイスコーヒーを二人分。



「以前この席で遥香さんとお話した時は、弥生とこうして、ゆっくりと休める日が来るとは思っていませんでした」


「ゴメンねウェスト、今まで休日は一人にしちゃって」


「いいえ。そうして弥生を生き急がせてしまったのは、私ですから」



 運ばれてきたアイスコーヒーにストローを刺し、二人で氷を動かして鳴るカラコロとした音を楽しんでいく。


しばらく無言の二人だったが、しかしウェストがカバンからタブレットを取り出したことで、二者が微笑んだ。



「やっぱり妨害電波無いと、まともにお話も出来ないなんて、イヤだね」


「もう少しの辛抱です。今は、コレを頼ってお話をして、互いに少し、未来の事をお話ししましょう」

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