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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第四章-x
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【2018年9月18日-13】

 そんな上空からの視線を知る事もなく、カイスターとリチャードは、最後の戦いに挑む。


とは言っても、既に勝利は目前。


二者が挑むのは、互いの気持ちを伝え合う事。



「弥生ちゃん」


「何、遥香」


「帰ったらどうする?」


「そうね。遥香と一緒に、学校に通うわ。四九の仕事は、それこそお金に困った時だけにしようかしら」


「そっか。でも零峰学園は大変だよ、なんたって有名進学校だからね」


「大丈夫――遥香と一緒に居られれば、私はどんな障害だって、跳ねのけてやる。遥香は?」


「アタシはね、弥生ちゃんに勉強を教える。んで、一緒の大学入って、そこから、これからの人生について、一緒に考える」


「もう、迷わない?」


「迷うよ、いっぱい迷う。――でも、そうやって挫折したり、苦悩したり、時には心折れたってさ、そういうのが人生ってもんじゃん」



 だから、こんな所で、立ち止まっていられない。


遥香はそう言って、集合念体を睨んだ。


鈍重な動きで、こちらを狙って腕を振り上げたそれを、カイスターとリチャードが避け、空を舞いながら、叫ぶ。



「人生ってのは、生きるってのは、こんな奴らより強い奴のいる戦いの道だ! どんな苦難が待ってるか分からない――でもっ!」


「ええ、それでも、だからこそ歩んだ先に、自分の望む未来が待ってると、信じる事が出来る――だからこそっ!」



 互いの武器を強く握りながら、二人は、叫ぶ。



「ラスト・ブレイズ!」


「ラスト・ブラスト!」



 二振りの剣を束ね、頭上へと掲げるカイスター。


剣に収束する光、それが薄暗い夜を照らすように燦々とした輝きを放出するが、それはまだ放たない。


集合念体に劣らぬ程巨大な砲塔を背後に、リチャードが銃を構えると、その砲身にも光が収束していく。


それぞれ、集合念体を倒すには、一つ一つではエネルギーが足りない。


けれど二人一緒の攻撃ならば――倒しきれるだけの火力がある。



「散々迷ったアタシたちでも、未来へ進む為の足がある、一歩一歩、自分の足で歩んでくッ!!」


「戦いの先にある未来を目指す、貴方たちレックスなんかに、邪魔はさせないッ!!」



 束ねる光の剣を振り上げたまま、カイスターが駆け出す。


振り込まれる腕を避けながら、精いっぱい自分の足と、背部スラスターより吹かされる出力を頼りに、今集合念体の体を、斬りつける。


上段からの一振り、光の刃は尚も集合念体を燃やし尽くせていないが、続けて下段から集合念体を持ち上げる様に、上空へと、斬り飛ばす。



「カーテン――ッ!!」


「コール――ッ!!」



 上空へと待った巨体を狙い、放たれるラスト・ブラストの砲撃。


それは強力なビームとして集合念体の体を焼き尽くそうとするが、しかし一体一体のレックスが持つ強固な肉体は、その光を以てしても焼き落とすには至らない。


しかし、真のトドメを放つは、カイスターのラスト・ブレイズ。


光の束を、解き放つように。



今その上段から振り下ろした一閃が――集合念体の体を二分させ、切り裂いた。



散っていく、集合念体。


それにより、ベネットとウェストが持つレックス探知機能に反応するレックス反応が、焼失。



――戦いは、終わったのだ。



八年前に終わらせた筈の戦いは、しかし現在にもその影を残し、今その影すらも、殆どを消し去ったと言う事だろう。


 変身を解いた、遥香と弥生は、互いに今出来る笑みを浮かべる。


そうして手を取り合い、今まさに降下しようとしているヘリへ、視線を向けた。



「帰りましょ、遥香さん、弥生さん!」



 ベネットが満面の笑みでヘリへと向かい。



「ええ、先に向かいます、お二人とも」



 ウェストも彼女に続きながら、慣れていない笑みを浮かべて。



「……ねぇ、遥香」


「んー? 何さ弥生ちゃん。アタシ、メチャクチャ疲れてるから、勉強ならまた今度ね?」


「そうじゃなくて……遥香に、大切な事、伝えなきゃって思って」


「大切な事?」



 互いに握る手、しかし弥生は、自分が握る手の力を強めた。



「私は八年前、貴女と友達になってから、いろんな事を経験したわ」


「うん、知ってる。まぁ全部じゃないだろうけど」


「そして遥香も、きっと私が知らない事以上に、色々と経験したんだと思うわ」


「そだね。正直勉強量なら弥生ちゃんの苦労に負けないと思うよ。あとメイクとか」


「でも――八年間の間に、貴女以上の大切には、出会わなかった」


「え」


「やっぱり私は、貴女が好き。……一人の、女として」



 ボロボロと涙を流しながら、顔を赤くしてそう告白をした弥生に、遥香も顔を赤くしながら、目を上下左右、あらゆる方向に向けるけれど。


その言葉を受けて、何も返さない事など出来ぬと、深くため息をついた後、弥生の涙を、拭う。


八年前よりは大きくなったけれど、女子高生らしい、細く、滑らかな指で、優しく弥生の顔を撫でて。



「アタシも好きだけど、一人の女としてってのは、保留ね」



 ウインク一つ。そのウインクに少々見惚れていた様子の弥生だったが、彼女の放った言葉を思い出して、顔を段々と青くする。



「……ま、まさか遥香、す、好きな男とか……!? こ、殺さなきゃ……っ」


「いねーってば! ていうか殺すな! あ、ちなみにアタシ処女だかんね!? ギャルやっててもそーいうのは全然してねぇからね!?」


「じゃ、じゃあ何で保留……!?」


「自分の気持ちに整理つけさせる時間くらい頂戴って事よーっ!」



 ヘリへと向けて走り出す遥香、彼女と手を繋いでいる弥生も自然と、走り出すことになる。



(色々、八年前とは違うけどさ、弥生ちゃん)


(ええ。でもきっと、あの時と同じように……ううん、もっともっと、素敵な関係になれるわ、私たち)


(だって)


(そう、だって)



 二人は、八年間の間に積み重ね、そして互いに負った心の傷に、決着をつける事が出来たのだから。



これから先、どんな困難があったとしても。



二人ならばきっと、乗り越えられると、信じられるのだ。

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