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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第四章-x
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【2018年9月18日-12】

 ――弥生ちゃんと一緒なら、何でもできる、何にでもなれる気がした。



カイスターが剣を振るい、出来た隙を狙うレックスが現れても、彼女は決して動じない。


リチャードが彼女を狙うレックスを撃ちながらバックステップ、距離を取りながら軽く体を空中で回転させ、銃撃を止ませない彼女が撃ち漏らした敵を、カイスターが斬る。



――遥香と一緒なら、これから先も、生きていけると実感できた。



「ファースト・ブレイズ!」


「ファースト・ブラスト!」



 先ほどまでのセカンド・ブレイズ及びセカンド・ブラストによって数は減らすことが出来た。


今の残りはおおよそ百体弱、減らすことが出来た半面、闇雲に攻撃していても倒すのが難しい状況ならば、範囲や攻撃力よりも機動性と正確な銃撃が重要となる。


故に、カイスターが腰を下ろすと彼女の肩に足を乗せたリチャードが、強く蹴り付けて空を舞う。


二丁のハンドガンから放たれる熱射式誘導弾頭がレックスを多く貫いていくが、しかし威力が弱く完全に倒しきる事が出来ていない。


 だがそれでいい。そこからはカイスターの出番だ。


二本の剣を掴んだカイスターが、猛スピードで駆け抜けながら、今リチャードが撃って動きを止めるレックスに一体一体斬り込んでいく。


そのスピードは速く、しかし正確な斬撃故、レックスはそのまま死していく事を余儀なくされる。



「弥生ちゃんと一緒に戦えば、何も怖くない!」


「遥香と一緒に居られる場所が、私の場所なんだ!」



 互いの声が呼応すると、二者の動きはさらに早く、正確なものとなった。


少しずつ、八年前の感覚を思い出し、あの時と同じ戦い方へと近づいていく二人。


しかし、八年という月日が作ったのは、それぞれの溝だけじゃない。


まだ幼く、戦い方も未熟だった二人が少しずつ大人になり、考え方も、体格も大人になったからこそ、出来る事もある。



『ウェスト、そっちのレックス位置情報、逐一送ってくださいよっ』


『ベネットこそ、情報共有を一切怠らないで下さいね』



 ベネットとウェストが二者へと送信する情報精度が高いと言う事もある。


それぞれの持つ情報処理能力は高いが、しかし二体存在し、互いの情報と照らし合わせる事によって、より高い精度で情報を二者へと送る事ができる。


八年前は互いにいがみ合っていた二者だからこそ、八年間の間に起った事を、互いに負った傷を認め合い、今は互いの能力を信じる事が出来ている。



「なんか、色々と不思議な感じだね」


「ええ、そうね。こうして今の貴方と、戦う時が来たこともそうだけど」


『アタシと遥香さん、アタシとウェスト、弥生さんとウェスト、皆がみんな、色んな想いを抱いて、この八年間を歩んできたのに』


『今はこうして、そうした時間を共有しているような……まるで、それを理解し合っているような感覚が、むず痒いというか』


「でも、悪いことじゃないよね!」



 今、最後に飛びついてきたレックスを、斬り倒す。


すると闇雲に襲い掛かる事を止めた、まだ百体弱あるレックスの群体に、カイスターとリチャードが視線を向ける。



「まだあとこんなにいんのか」


「厄介ね」


「でもやらないと」


「ええ。出来るわ、私と貴女なら」



 彼女たちの言葉へ、まるで反したいと言わんばかりに、レックスたちが集結していく。



――このままでは、ただ殺されるだけだ、と。


――集まり、密集し、そして奴らを殺しきれるだけの力を、と。



一体一体のレックスが、体を積み重ねていく。


積み重ねた体を溶かしていくように、その黒い影がどんどんと密集を果たし、やがて一つの、巨大な一となった。



「集合念体、だっけ?」


「確かそんな名前だったわ。――でも、愚かね」


「ああ、愚かしいね。なんたって数の利を捨てて、こっちに挑んでくれるんだから、本当に愚かだ」



 そう、レックスたちは、あのまま数の利を生かした特攻作戦で二者へ挑むべきだった。そうすればいずれ、二者には限界が訪れ、何時かは殺しきれたはずだ。


その前に何体、何百体のレックスが犠牲になろうと。


二者揃った二人を相手にレックスが勝利を掴む方法は、それしかなかったのだ。



その光景を空から見据えている者が、二人。


ドルイド・カルロスと、笹部蓮司だ。



「……なんだ、分かっちゃえば単純な事だったね」


「何がだ」


「念体が何故ああした進化を遂げるに至ったか。今までずっと、プログラムされた仕事をこなす為に必要な事だからやろうとしているんだと思ってたよ」


「違うっていうのか?」


「ああ、違うね。念体は次々に自分の仲間が殺されていく現状に恐怖したんだ。つまり、感情を覚えた。このままでは自分たちが生きる意味がない。


 魔法少女達に殺されていくだけの存在になり果てる、それが怖いと、もっと生きて、自分たちが果たさなければならない事を果たし、自分たちが生きた意味を、理由を、掴みたいと考えた。


 感情が生まれたら、進化というのは簡単さ。プログラムのように決められた思考ルーチンから要望を出すのではなく、どんな願望だって生み出すことが出来る。願望が生み出されれば、どう進化すればいいかもわかってくる。


結局は、何にだって感情があれば、どうにでも厄介な存在になれるって事だ」


「そんな簡単に進化されちゃ、オレ達人類としては堪ったもんじゃないんだが」


「そうかい? 進化してるじゃないか、君たち人間も。この八年間で、君たちは何も変わっていなかったかい? 例えば如月弥生も水瀬遥香も、進化を果たした結果、八年前と全く同じにはなれない。


 そして今まさに、八年間の間に何があったかを、互いに理解し合い、認め合い、そうして許し合って、八年前とは違う関係に今なれたじゃないか。これだって、立派な進化の形だよ」



 ドルイドにしては、まともな事を言う、とでも言いたげな表情で彼を見据える蓮司が、問う。



「何を企んでいる?」


「ん? 今は別に何も企んでないよ。強いて言えば――興味の対象が無くなっちゃったから、次は何しようかなぁ、って考えてる位かな?」



 ニッコリと笑いながら、念体の最後を見据えているドルイドを、蓮司はこれからも監視する事に決めた。



こいつは、なまじ人の気持ちが分かるからこそ、危険だと。

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