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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第四章-x
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【2018年9月18日-10】

「ベネット、今までゴメンね。辛かったよね、悲しかったよね。


 アタシ、ホントは気付いていたんだ。


ベネットが、アタシの為に、アタシがこれから生きる為に、守ってくれようとしてたこと。


でも気付かないフリをしてたんだ。


だって、気付いちゃったら、ベネットに罪があるんだって、アタシが認めたことになっちゃうから。


あの時、力を振るったのはアタシで、その罪はアタシが背負うべきで、ベネットは何にも関係ないんだって、自分自身に言い聞かせたかったんだ」



「いいえ……いいえっ! アタシも、言葉が足りなかったんです。ただ遥香さんを庇うだけじゃ、ダメだったのに。


 アタシは、遥香さんを叱らなきゃいけなかったんです。


 遥香さんは、もし自分が間違えた時はアタシに怒って止めて欲しいと願っていたのに、アタシは遥香さんを叱れなかった。叱り方が分からなかったから。


ずっといい子だった、決して道を誤らなかった遥香さんが、初めて過ちを犯してしまったのに、アタシは叱る事が出来なかった。


ごめんなさい遥香さん。遥香さんとの約束を、アタシこそ、果たすことが出来ず、辛かったですよね、悲しかったですよね」



「……ハハッ、なぁんだ。アタシたち、ずっとそんな事を悩んでたんだ」


「……はいっ、ホントに、アタシと遥香さんは、おバカさん、でしたねっ」



 手を引き合って、体を抱きしめる。


ベネットはマジカリング・デバイスだから、涙を流す機能は無いけれど。


けれど、遥香の体温を感じたいと願うように、その頬と頬を、こすり合わせた。



「ベネット、またアタシと、戦ってくれる?」


「――勿論です! だってアタシは、水瀬遥香さんの、マジカリング・デバイスですからっ!」


「そっか……ありがとう、ベネット! じゃあ」


「はいっ! ぶっちかましましょうっ!」



 二者は僅かに体を離すけれど、決して寂しいとは感じなかった。


何せこれから二人は、一心同体になり、戦う事になる。


そこに寂しさ等、感じる必要が、ある筈がない。



『――変身ッ!!』



 重なる声と共に、ベネットの体が光り輝き、今遥香を包んだ。


遥香の着込んでいた制服を消し去ると同時に展開される、赤を基本色としたスクール水着にも似た質感の、伸縮性が高い戦闘服。


スカートの部分とニーソックスにフリルが付き、今輝きを放つようにして光から解放された瞬間。



地面は、もうすぐそこに迫っていた。



**



どれだけのレックスを屠ったか、既に弥生とウェストは、数える事も止めてしまっていた。


ただ目に映る敵に向けて、トリガーを引き続けるリチャード。


そんな彼女に襲い掛かる敵がいれば、パスを通じて場所を送信し続けるウェストのコンビには、限界が近づいていると自覚していた。


既に動く体力はほとんどなく、休憩したくてもそれを許してはくれない敵の猛攻を、ただやり過ごすだけ。



「はぁ……はぁ……ッ!」



 それでもやらなければならない。


どれだけ血に塗れようが、どれだけ痛みを伴おうが、そうしなければならない理由が、リチャードには……否、如月弥生にはあるのだから。




 しかし、それは敵であるレックスにとっても同じこと。


ソレには、決して意思などが芽生える筈も無かった。


ただ秋音市という狩場において、人を殺すという単純なプログラムに沿って行動するソレに、本来意思など必要ないものだ。


にも拘わらず、ソレらはマジカル・リチャードに向けて、ただ「殺意」という純粋な意思を向け、襲い掛かる。



――殺す。



その殺意が芽生えたのは何時だったのだろう。


それはレックスにとっては分からないし、分かる必要も無い。



――殺す殺す。



ただ、殺意が芽生えた事によって、効率よく魔法少女を追い込むための、知恵を身に着ける事が出来た。



――殺す殺す殺す。



魔法少女たちは人間で、言葉によって意思疎通を図る事が厄介だ。ならば意思疎通をさせなければいい。


魔法少女たちは自分たちの存在を識別する何か特別な力があり、すぐに発見されてしまうのが厄介だ。ならばその力が及ばぬ地下通路を通ればいい。


だがそれだけでは秋音市という広大な地に住まう者達を殺しきる事は出来ない。



――殺す殺す殺す殺す。



人間は数を増やすことが出来る。しかし自らにはそうした増殖機能がない。


 無いならば、得ればいい。


 進化という生命の神秘は、そうした足りない機能を補う為に存在する。



――殺す殺す殺す殺す殺す。



自らは意思を得た。それは本来必要のない、ある筈のないモノ。


 しかしそれを得れたという事は、進化を果たしたことと同義だ。


 ならばそうした機能を得る事も出来るはずだ。



――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!



――魔法少女達を、殺す!


――殺さねば、殺せぬ!


――殺さねば、殺される!


――殺されたくないから、殺す!



意思は単純だが複雑だ。



レックスというプログラムに沿って動く兵器に芽生えた感情を元に、意思は生まれた。


しかし、彼らへ芽生えた感情は、ただの殺意ではない。


――死の恐怖という、生命に等しく与えられた、あるべき感情があったから、それに足掻きたいから、殺意を芽生えさせたのだ。




そして、今まさに。


レックスたちを恐怖に陥れる存在が、空から落ちてきた。




落ち、着地した際の衝撃が辺り一面へ襲い、レックスたちを吹き飛ばしていく。


思わぬ事態に皆が動きを止め、その落ちてきた者に、視線を、殺意を向ける。


片足を地面に、もう片足は曲げ、膝をついて衝撃を緩和させたのだろうかと目せる少女。


全体的に色は赤い。所々にあるフリルやレース、そして体に張り付く戦闘服は、彼女の女性らしい豊満な体を強調するようだったが、しかしそんな所をレックスは見てなどいない。



今、膝を付けていた足を持ち上げ、立ち上がった女が、前を向く。


僅かに涙を流しつつ、けれど確かに感じる事の出来る、強い意思を宿した瞳で、レックスを睨みつけた。



――その少女こそが、レックスを恐怖に陥れる、魔法少女。



斬撃の魔法少女、マジカル・カイスター、水瀬遥香。

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