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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第三章-b
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【2018年9月18日-06】

零峰学園高等部にある図書室は、県立図書館よりは規模こそ小さいが、それなりの広さがある。故に零峰学園の生徒たちは多くが授業後にここへとやってきて予習復習を行う。


水瀬遥香も、この日は授業に参加した事と同様の理由で、自習に勤しんでいた。



(……弥生ちゃん、今日学校来なかったなぁ)



 そもそも如月弥生が何故零峰学園へと転入してきたのかが分からぬが、しかしそうして色々と学べる環境にあるというのは彼女にとっても好ましいだろうと考えていた遥香は、考えを払うように頭をブンブンと振った。


 その時だ。


遥香の持つスマートフォンが着信音を奏でた。


図書室の注目が一斉に遥香へ集まり、彼女はそれに苛立ちながらも、相手を確認。


知らない番号だ。だがこのまま出るわけにもいかないと離席しながら電話を取る。



「もしもし」


『遥香ちゃんか?』



 笹部蓮司の声だ。ムッと表情をしかめた後「ちょっと待って」とだけ返し、そのまま図書室を出る。


図書室から数歩離れ、人目のつかない廊下の隅に自分をやった遥香は、そこで今一度通話口に「お待たせ」と声を吹き込んだ。



『遥香ちゃん、今どこにいる?』


「? ……学校だけど?」


『そうか。ちょっと幾つか報告しなきゃならん事がある。屋上まで来てくれ』


「はぁ? アタシに報告しなきゃってどういう事よ」


『緊急なんだ、いいから頼む! ウェストを通じてベネットにも連絡を繋いでいるから、彼女もすぐに零峰学園へ来る』


「弥生ちゃんもそこにいるの?」


『今はいない。事情は後で説明する』


「……わぁったよ、たく」



 言いなりになるのは気分が悪いが、しかし見知らぬ仲でもない。緊急と言われてしまえば、状況判断もしておきたいと、図書室へ再び入り、カバンや自習をしていたノートと教科書も乱雑に放り込み、退室。


屋上へと至る道をゆっくりと歩んでいき、今ドアを開け放つ。



「…………は?」



 目の前には、一機のヘリが。バリバリと音を鳴らしながらヘリポートでもない屋上に停まるそれの存在感に、思わずカバンを落としてしまう。



「来たか、遥香ちゃん!」


「こっちです遥香さんっ!」



 風で髪の毛がなびく状況で、ベネットと蓮司が遥香に手を振り、遥香はカバンを拾い直してから蓮司の元へ駆け出し、胸倉を掴んだ。



「アンタなに学校にヘリ停めてんの!? こんなん皆に見つけてくれって言ってるようなもんじゃん!?」


「急いでいるんだ! 学校側には許可を取ってる! 本当なら駅前の鳴海産業グループビルに停めるんだが、あそこは夏に色々あったから閉鎖されて使えないんだ!」



 とにかく乗ってくれ、と背中を押す蓮司。ベネットも何やら深刻そうな表情を浮かべ、遥香の手を取るので、彼女も仕方ないとため息をつきながら、ヘリへ乗り込む。


全員の搭乗を確認した結果、ヘリが空へ舞う。


校庭にいた何人かがポカンと口を開けながらヘリの行方を視線で追っている。遥香の存在に気付くことは無いだろうが、一応顔が見えぬように隠し、空高くまで羽ばたいた所で、ようやくホッと息をつく。



「……んで。何でコイツまでここにいるわけ?」


「やぁ水瀬遥香。この間ぶりだね」



 ヘリの搭乗可能人数がどれほどかはわからないが、操縦席に座る一人と副操縦席の一人、そして蓮司と遥香、ベネットの他に、ドルイド・カルロスの姿もあった。彼は笑顔を浮かべながら遥香の対面に腰かけていて、遥香は先ほどから視線を逸らしていたのだ。



「色々とコイツの知恵も借りなきゃいけない事態になってる。いいか遥香ちゃん、ベネットには既に話したが、よく聞いてくれ」



 深刻そうな蓮司と、俯くベネット。遥香は何が起こっているかは理解していないが、相当にマズい状況であるという事だけは自覚し、頷く。



「現在オレ達は冬海市に向かってる。遥香ちゃんは冬海市がどういう場所か、分かるか?」


「確か、閑散とした村が多くある所でしょ? 海と山があって、海は夏場こそ海水浴場になってるけど、秋から春にかけてはホントに人通りが無いってカンジの」


「そうだ。――レックスは現在、冬海市の海辺近くにある排水施設を拠点にして、そこから秋音公園の調節池までやってきていたんだ」



 遥香はそれだけを聞いて思考を回す。彼女にとっては、ある程度の情報で様々な仮説を立てる事は容易い。



「……つまり、レックスは進化してた。レックス観測システムや、ベネットとかウェストさんには感知できない地下施設や遮蔽物の多い排水施設とかを使って、今まで逃げながら得ていたって事ね」


「整理が速いねぇ。その点は水瀬遥香の方が、如月弥生より優れているね」



 余計な言葉が混じっていた気がするので、遥香と蓮司が同時にドルイドの足を蹴りつける。



「痛くないけど乱雑な扱いだなぁ」


「んで、その様子だと数増えてたんでしょ? 何だかんだコイツが原因じゃないの?」


「それはない。八年前からオレ達四九はドルイドの動向を追っていたが、コイツがレックスを生み出している様子は見受けられなかった。だからオブザーバーとしての参加を許諾したわけだ」


「なるほどね……んで、数は?」


「おおよそ二百体前後。正確な数はわからない」


「……あぁ、そりゃ緊急性あるわ。うん、分かった」



 ため息を深くつきながら、ドルイドを睨みつける。



「ねぇ、それってコイツ殺したら全部消滅したりしないの?」


「いやぁ怖いことを言うねぇ水瀬遥香は」


「残念な事に、ドルイドはあくまで生み出した親というだけだ。コイツを殺した所で消滅はしないだろうし、そもそも殺す方法もない。オレもあるならやっている」


「笹部蓮司も怖い事を続けるねぇ」


「じゃあ何だってアタシを呼び出したのよ」



 概ね、ベネットと共に呼び出された事から、理由は分かっていたが、一応問う。


それほどまでに緊急の事態であれば、魔法少女を引退した遥香だろうが駆り出すに決まっている。だからこそ頭を俯かせて、ベネットの手を握った。



「作戦は、この後五分後から開始される。村民の避難誘導を済ませた冬海市の海辺へレックスを誘導。


 奴らが根城にする排水施設、秋音市へ続く通路を爆破し、封じる。すると山から連なる冬海市の排水所しか出入り口が無くなるから、そこから出てきたレックスを、()()()()で対応する。これが作戦だ」


「は?」



 今の言葉に、遥香が目を見開き、蓮司を見据える。


蓮司も、僅かに何か含んだような表情を浮かべつつ、しかし続けて言い放った。



「作戦は諸事情に加え、如月弥生とウェストの希望で、彼女が変身したマジカル・リチャード一人によって敢行される。


 君は、この作戦には参加させない」

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