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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第三章-b
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【2018年9月18日-02】

「それに比べたら、まだ君――如月弥生の過去は面白みがあったよ。


 魔法少女に変身して殺した数、二十七人だったね。変身してない時を含めると六十三人。


 うん、うん! 十六歳とは思えない殺しっぷりだ。日本人でこれだけの数を殺した女の子はなかなか無い。


 しかも殺し方が毎回エグイ事エグイ事。身動き取れないように縛り付けた上で両手両足を撃ったり切り刻んだりした様子を動画で収めて、テロ屋の使用するネットワークに流して警告を促すとか、本当に外道のやり方だよ。ボクは好きだけどね」


「それはオレが命令した。弥生に罪は無い」


「罪の是非は関係ないよ、それを成せる精神力さ。君、現役の魔法少女だった頃からそれなりに残忍性は持っていたと思うけれど、今はそれに、より磨きをかけた。


 例えば歴戦の兵士でも単純な命のやり取りだけでこの数を殺す事は難しい。自然と殺した数の多くは爆破などによる大量殺人となる。


 けれど君はそうした破壊工作などを無しに、一人ひとり丁寧に殺していった。まるで相手を殺す事が、その者に対する救いだと言わんばかりにね。


 普通の人間ならそうしている内に精神を病んでいくはずだ、なのに君はそうしてピンピンしてる、本っ当に面白い」



 良く喋る口だと、一発殴ってやりたいと拳を構えそうになるウェストだったが、それよりも前に、蓮司が煙草の吸殻を灰皿へ乱雑に押し付け、彼の胸倉を掴み、その顎に素早く拳を一打、叩き込んだ。



「死ねないってことは、どんだけ死ぬ思いしたとしても、お前を痛めつけられるって事だよな」


「っ、痛くはないけれど、一応怪我はするんだよ? 手荒にしてほしくないな」


「なら言葉を慎め下種野郎。オレの事をどんだけ罵ろうが慣れてるし、それなりの事をしてると自負もしてるがな、弥生や遥香ちゃんをこれ以上馬鹿にするんなら、溶鉱炉にテメェをぶち込んで二度と出れねぇようにしてやるぞ」



 ついでに腰ホルスターに仕込んでいた九ミリ拳銃を抜き、短い動きで安全装置を解除。短く四射、ドルイドへ撃ち込んだ。


両手両足に一射ずつ、正確に撃ち込まれた弾丸だったが、しかしドルイドはため息をつきながら飄々とした態度で立ち上がって「やれやれ」と口にした。



「悪かったよ。ボクはもう三百年位、人間らしい生活を捨ててるからね。君たちを怒らせる要因が分からないんだ。一部例外を除いて、神さまってみんなこうだから気を付けた方がいい」


「お前みたいな神さまばっかりなんざ、世も末だな」



 薬莢を回収しつつ、蓮司は再度煙草を取り出して吸い始める。彼のそうした怒りを露わにした光景が珍しく、弥生は思わず彼を見ていた。



「……悪いな弥生。ちょっと怖い所見せちまったか」


「いえ」


「遥香ちゃん程とは言わないけどよ、弥生はもっと怒っていいんだ。怒るって事は感情の発露で、感情の発露は子供の権利だからな」


「子供の権利?」


「ああ、そうだ。大人には大人の権利があり、子供には子供の権利がある。


 弥生はなんで子供に選挙権とか、選択する権利が希薄なんだと思う?」


「……子供には、選択肢を吟味する程の知識と経験が無いから、でしょうか」


「その通りだ。もっと言っちまうと、子供ってのは大人の言葉に流されやすい傾向がどうしてもある。だから大人が子供の代わりに、子供の為になる選択をしなきゃならない。それが本来、人間の善性を信じた者の取るべき行動だ。


 だけど子供だって意思があって、考える力があって、それを蔑ろにしていいわけじゃない。


だからオレ達大人には、そうした子供の怒りや嘆きを受け止め、それを代弁してやる義務がある。


だから弥生や遥香ちゃんみたいな子供には、怒りや嘆きを口にしていい権利があるんだ。


権利を使うかどうかは別として、それは子供の時に許された真っ当な権利なんだから」



 そこまで口にした蓮司は、煙草の火種を見据えながら、苦笑を浮かべ、頭をかいた。



「いや、遅ぇよな、こういうのを教えるのが。弥生はもう十七歳だ。学校も満足に通えてなくて、両親という存在も無い弥生に、そうした事を教えるべきは、オレだったんだ。


 だってぇのに、弥生は頭のいい子だからって勝手に決めつけて、そうした事を蔑ろにしてきたオレが、偉そうにご高説垂れ流せる筈もねぇ」



でもな、と。


蓮司は弥生へ笑いかけながら、後悔ではない、ただ一人の大人として、言葉を紡いでいく。



「ドルイドの言う通り、弥生は多くの人間を殺し過ぎた。それを命じたのはオレで、その罪はお前に無いけれど、そろそろそうした命の重みを、弥生自身が理解し、自分の命にもそうした価値があると、知って欲しい」


「私の命に、そう大した値は付ける事なんてできません」


「いいや、あるよ。人間は平等じゃないけど、命って奴はドルイドみてぇな神さまじゃなけりゃ、誰にだって一つしかない大切なモンだ。でも簡単にそれを殺すことも、手放すことだってできる。


 ――命の重みが分かる大人になりなさい。遥香ちゃんは、それに関してだけ言えば、弥生よりも大人だぞ」



そう――如月弥生という少女には、決定的に欠けているものがある。


命に対する執着心だ。


一度は命を亡くしたくないと、そう願って戦った。


けれど、そうして戦ったからこそ、自分の命に対して罪を感じ、彼女は戦い続けた。



――大切な姉であるウェストの力を使って人を殺してしまった事。



それを、ウェストは許してくれたけれど、弥生は弥生自身を許せなかった。


弥生とウェストは、互いを許し合ったけど――自分自身を許し合えていない。


悪いのは自分だったのだと、相手に罪は無いと互いに庇い合って、互いに傷を舐め合ってるけど、自分でつけた傷は、癒せていない。



――そうした自分で負わせた傷を癒す、術を知らぬから。

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