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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第三章-b
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【2018年9月18日-01】

 秋音市には防衛省情報局第四班の使用できるオフィスが幾つか存在する。


この街にはレックスを始めとした【異端】と呼ばれる存在が多く確認されており、これらに対処する部隊として四班の一部が駆り出される事が多く、そうした拠点が点在するという事だ。


オフィス街にある古びたビル、その一室に用意された広々とした空間もその一つである。


そこには長机が一つと、多くの椅子が用意されていて、笹部蓮司、如月弥生、ウェスト、そしてドルイド・カルロスの四人が腰かけていた。



「では、ドルイド。報告を頼む」


「分かったよ」



 ドルイドは退屈そうにしつつも、手元に用意していた紙の資料を三人に投げつけた。自分の分は用意していないようだったが、彼曰く「この位の量ならば覚えられる」と言った。


 紙をめくりながら、弥生とウェストが目を細め「そう言う事か」と呟いた。



「資料にある通り、レックスは昔と違って、監視システムの作用しない下水道他、そうした地下施設を通って秋音市にやってきてる。最近調節池のある公園からよく出没するな、と思って確認してみたら、調節池と繋がってる古い排水設備を通っていることを確認してね」


「どこから秋音市に来ている?」


「隣の冬海市だね。冬海市の海水処理施設から調節池まで、古い排水設備だけど一本通ってて、そこを使ってるのが一団」


「一団?」



 ウェストが少しだけ首を傾げ「まるで群れで、それも複数群れが確認されているような言い方ですね」と問うと、ドルイドは「そう言っているからね」と軽く嘲笑った。



「他にも地下鉄の、今は使われていない駅員用通路とか、さっきも言ったけど下水道とか、明らかに隠れて行動してるって丸分かりの行動パターンだね。ボクも驚いているよ」


「元々レックスは裏路地や薄暗い通りなどを主体に行動していたじゃないか」


「アレね、実は行動ルーチンをパターン化して覚えさせてたんだよね。でも本来ならその行動ルーチン以上の行動はしない筈なのに、そうしてボクが覚えさせていない地下施設を活用するという事をやってる。コレ、ボクにとっても嬉しい誤算でね。


 確かに、レックス――いや、ここはボクの名付けた念体と呼ぼう。念体には獣の特性を与えた。でもそれは効率よく狩りを行うため、いわば人間を殺す為に一番最適だと考えた結果、そうした特性を与えるのが良いと思っただけで、人に見つからぬよう行動するなんて事の為には与えていないし、想定もしていなかった。だが、現に念体はそうして、行動ルーチン外の事をして、見つからぬように行動している」



 とっても恐ろしい事だね、と他人事のように笑うドルイドの声を鬱陶しく思いつつも、蓮司は煙草に火を付けつつ「つまりは」と簡単に整理へ入った。



「進化してるって事でいいのか?」


「まぁ、そうとしか考えられないよねぇ……それに加えて、四ページ目を見てごらん。写真なんだけど」



 ドルイドの言葉通り、全員がペラペラとめくり、四ページ目の資料を見据える。薄暗い写真だが、確かにレックスと思しき二つの影が、重なっている。



――否、明らかに、一体のレックスに圧し掛かり、もう一体が腰を振っているようにしか見えない。



「コレ、絶対交尾してるよね? おかしいよ、念体には生殖機能を与えてなんかない。もし増えるとしたら細胞分裂みたいな増殖をするかも、と想定はしていたけど、機能として与えてない生殖行為に及ぶなんてね」


「獣の特性を与えた結果、交尾の真似事をしている、という事ではないのですか?」


「ああ、そこはまだ調べてない。確かにウェストの言う通り、交尾による繁殖が目的なのではなく、あくまで付与した獣の特性によって交尾の真似事をしたというのも考えられる。けれど、続けて五ページ目だ。見てごらん」



あまり見たくないが、と思いつつ、全員が一ページめくる。


するとそこには、明らかに八体以上存在するレックスの郡が、移動している様子が写されていた。



「コレ、撮影昨日したんだけどさ、昨日までで如月弥生が討伐した、新たなレックスって何体だっけ?」


「五体です」


「おかしいよねぇ。最初に発見してた数が八体、そこから五体討伐して、それでもまだいるんだ。しかも撮影してないけど、明らかに数、三十は超えてたよ? それも全ての群体でね。軽く計算しても、百体以上は存在してる」


「どういう形であれ、確実に増殖はしていると言いたいんだな」


「うん。これ以上は君たちが絶望しちゃいそうだなーと思ったから、数は詳しく調べてないよ。ありがたく思ってね」


「思えねぇよ。こうした状況で何より一番欲しいのは情報だ。適当な仕事しやがって」


「ボクはあくまでオブザーバーだしね。それに念体の進化を調べる事が出来てるだけで、君たちから報酬という報酬は貰えてないし、むしろこれだけ調べた事を感謝してほしい」


「金よこせってか?」


「あー、欲しいね。ボク話題の新型スマホ欲しかったんだ」


「神さまなのに、随分と俗物的ね」



 ため息をつきながら弥生は、これ以上の情報が無いなら意味がないと言わんばかりに、資料を机に置いた。



「神さまだとしてもモチベーションというのは大切でね。この間までは水瀬遥香や如月弥生の事を調べてモチベーションにしてたんだけど……思ったより詰まらなかったな、彼女」


「……何?」



 煙草の火種が机に落ちても、それを気にする事なくドルイドへ殺意の視線を向けた蓮司と、同じく鋭い眼光で彼を見据える弥生に、ドルイドは「怖い怖い」と笑った。



「だってさ、たかが肉親二人と、生まれてもいない妹を殺された程度で、あそこまで絶望するかい? どれだけ繊細なんだ彼女。あー、後はアレか、両親たちを殺した犯人を、魔法少女に変身して殺してたね。それを調べた時はちょっと面白かったけど、数が少ないよ数が。もっと対人間のデータがあれば嬉しいのに、一人ぽっちじゃね」



 人が人を殺めるという行為を、数字でしか見ていないドルイドの言葉は、弥生へと視線を向けて続けられる。

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