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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第三章-a
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【2010年9月15日-02】

 五時間目が終了すると、アタシたち三年生の授業は終わります。皆ママやパパと手を繋いだりして帰ってますが、アタシが手を繋ぐのはパパとだけです。



「ねぇ遥香、機嫌直してってば」


「ふんだ」


「アタシが悪かったってば。だって遥香がホントにコイツ小三かよって作文書いてて感極まっちゃったんだもん」


「知らない、ママなんか。アタシにはパパだけいればいいもん」



 頬を膨らませながらパパの手をギュッと握った後、ついでに腕も組んじゃいます。パパは身長の低いアタシに合わせて少し体を曲げちゃってますが、苦笑を浮かべながらどこか嬉しそうです。



「ほーう、実の娘と浮気かパパ」


「なんでそうなるのさ!? 娘と仲良いパパって普通に微笑ましい事でしょ!?」



 ほら遥香も、と優しく声をかけてくれたパパに免じて、今日は許してあげましょう。


パパの腕から身体を離し、左手はパパ、右手はママの手と繋いで、一緒に帰ります。



「でもママの言う通り、今日の作文は本当に嬉しかったよ遥香。ありがとう」


「良かった。実は、ホントの事言うと、作文忘れちゃって、急いで書いたんだ」


「宿題なんかそんなもんだよ。テキトーにやっときゃいいのにあんだけ緊張しながらやるなんて、ホント真面目だね遥香は」


「ママは大雑把すぎだけど、そうだね。遥香、直前まで凄い緊張してたもんね。本当はもっといい作文にする予定だったとか? もしそうだったら、ママを止める事出来なかったかもね」



 それには首を振って、違うよ、とだけ否定します。


あの作文は、確かに急いで書いたから、ちゃんと出来てたかを読み返す時間もなかったし、完璧とは言い難いものでした。


 悪くはないと思うんだけど、でも後々読み返して間違いとか、色々気付くこともあるから、普段の作文とかはそうやって時間をかけて書くんだけど、今日は時間がありませんでした。



「じゃあ何に緊張してたって?」


「あのね……その、パパとママって、子供の頃、夢ってあった?」



 今日、皆が読んでいた作文の夢には、沢山の目標がありました。


野球選手、サッカー選手、宇宙飛行士、警察官、お医者さん、女の子の場合はキャビンアテンダントさんとか、ケーキ屋さんが多かった気もしますが、そうした夢を叶える子って、果たしてどれだけいるのでしょうか。


それが、叶える事の出来た大人の方が多いのか、それとも叶える事の出来なかった大人の方が多いのか。


そう考えていたら、なんだか怖くなっちゃったことを打ち明けます。



「うーん。遥香を残念がらせちゃうかもしれないけど、残念な事に、子供の頃に考えてた夢を叶える事が出来た大人の方が、少ないと思うよ。実際、パパは子供の時に考えてた夢を叶えてないね」


「あー、アタシもそうだなぁ」


「何になりたかったの?」


「パパは遥香位の頃なら戦闘機パイロットだったね」


「聞いて驚くなよ遥香。ママはね……大金持ちだ!」


「娘に聞かせるには俗物的だよママ!?」


「なりたいっしょ!?」


「ま、まぁそりゃね? でも生活には困ってないよ……? え、もしかして足りないって思ってる?」


「そこはまぁ、ノーコメントにしといてやろうかね」


「パ、パパもっと頑張るね……」



 二人のやり取りにクスクスと笑いながらも、けれどちょっとだけ、パパの言う通り、残念です。



「そっか。夢を叶える事の出来る大人の方が、少ないんだ」


「ま、そりゃそうだと思うよ。そもそも遥香、アンタ今いくつだよ」


「? 九歳」


「だろ? そもそもね、九歳の頃に夢見た目標を、大人になっても貫いている子の方が珍しいんだよ。遥香みたいに、漠然とはしてるけど、なりたい方向性だけ決まってるような子は特にね」



 チラリとパパの方を見ると、パパも頷きました。



「ママにしては、本当の事を言ってると思うよ」


「アタシにしてはって何だよっ」


「人間っていう生き物は、それまで経験した事を積み重ねて成長していくんだ。だから色んな経験が少ない子供は、身近な物に関係した夢を持つ事が多いんじゃないかな。野球選手とかサッカー選手なんかはコレだね」



 でも、生きていく内に色んな事に触れて、夢は変わっていく。


パパはそう言いました。



「例えば野球選手になりたかった男の子は、もしかしたら中学生になってテニスが好きになり、テニスプレイヤーになりたいって夢を持つかもしれない。


 ケーキ屋さんになりたかった女の子は、もしかしたら中学生になってお化粧をいっぱいするようになったから、化粧品メーカーとかで働きたいって夢を持つかもしれない。


こんな風に、大人に近付いていくにつれて、なりたいものっていうのは変わっていくかもしれないんだ」


「でも、かもしれないんだよね」


「うん。小さな頃から変わらない目標に向かって頑張っている大人も、もちろんいる。


 ……でも、ちょっと残酷な事を言うと、夢っていうのは、必ず叶える事が出来るという保証はないんだ。


野球選手にどうしてもなりたかった男の子が、ひょっとしたら肩を壊しちゃって、野球選手を諦めざるを得ない、なんて事もある。


ケーキ屋さんになりたかった女の子は、早く結婚して子供が出来ちゃったから、子供を守るためにお母さんとして、ずっと子供の近くにいる道を選んだ、なんて事もある。


人生っていうのは先の見えない、しかも辿り着くゴールが無数にあって、戻る事も出来ない迷路なんだ。だから必ず目指したゴールに辿り着ける、なんて無責任な事を、パパは遥香には言えないよ。遥香は賢い子だからこそ、こういう本当の事を覚えて欲しい」



 パパは、優しいお父さんではありますが、嘘の言えない人です。


ママは、優しいお母さんではありますが、嘘が嫌いな人です。



だから、この二人は真面目に、アタシの質問に答えてくれます。



それが、受け取り方によっては、アタシが傷ついちゃうかもしれない事だと、分かっていても。



「じゃあ、アタシの夢も、何時かは変わっちゃうのかな?」


「いんや、んな事ないよ。それは断言できるね」



 アタシの手をグイッと空へ向けて引っ張ったママの強い力のせいで、身体が宙に浮きます。同時にパパも引っ張ったので、滞空時間は凄く長ーい!



「え、え、えーっ? で、でも、無責任な事は言えないんでしょ!? なのにどうして!? あ、もしかしてパパは違う意見って感じなの!?」


「んー、いや。確かに断言はできないけど、パパも遥香なら、遥香の夢を叶えれると思うよ」


「え、ホントにわかんない! なんでなんで?」



 何度も何度も宙に浮く体。少し楽しくなってきましたが、しかし問う事はやめません。



「遥香の夢、もっかい言ってみな」



 宙に浮いていた所を、アタシは手を離されました!


何とか着地し、ととと、と崩れる姿勢を正しながら、ママの質問を思い出し、答えます。



「えっと……『素敵な大人』になりたいって夢」


「うん、じゃあ大丈夫!」



 胸を張りながらニヒヒと笑うママが、断言して。


パパも、珍しくママと同じように笑いました。



「アタシらが遥香を大人になるまで育てるんだから、きっと遥香は、どんな形であれ、素敵な大人になれるってことよ!」


「遥香はママと違っていい子だからね。パパはその点に関しては、全く心配してないよ」



 アタシの夢は、他の事はちょっと違い、漠然とした目標でした。


 だから、その夢を叶える事は、他の子よりも難しくはないかもしれません。


けれど、これからだんだんと大人になるにつれて、その夢も、目標も変わっていくんじゃないか、それだけが心配だったんですけど。



――それはどうも、アタシの杞憂だったみたいです。



「……うんっ、アタシ、パパとママの子だもんっ! 絶対、素敵な大人になれるって、アタシも信じるっ」



 大人になるにつれて、もっと具体的に、色んな夢を抱くかもしれません。


その具体的に夢見た未来には、ひょっとしたらたどり着けないかもしれません。



――けれど、この目標だけは、ずっと変えないように、アタシはこれからも頑張ろうと、そう確かに思えたのでした。

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