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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第二章-b
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【2018年9月17日-06】

水瀬遥香は如月弥生や笹部蓮司とのやり取りの後、家に帰る事はしなかった。


これもベネットの手前、まだ昼にもなっていないのに早退して彼女を心配させたくなかったからだ。


――大切なお姉ちゃんで、何時でも自分の事を想ってくれる人。


マジカリング・デバイスという、本来は平和を守る為の力である彼女は、しかし遥香の為にと自分の中にある力を決して振るう事なく、人間としての生活を歩んでくれている。


だからこそ、遥香は世間にとっての「良い子」であることはやめたが、ベネットには負担をかけまいとだけ心がけていた。


そんな彼女が今いる場所は、秋音駅から少しだけ離れた場所にある、シネマ座秋音という古びた映画館だ。


勿論、見たい映画があったわけではない。ただ時間を潰す手段として映画は最適だ。


 ぼうっとしていても構わないし、何なら寝ていても構わない。ネットカフェのように本人確認が必要なわけでもないし、適当に歩いて補導される事も、誰に咎められる事も無い場所へ来ただけ。


選んだ映画は、公開終了から一ヶ月も待てばストリーミングサービスで見放題となり、しかも評価が賛否両論にすらならず信者しか評価しないような、海外のB級映画だ。メジャーな映画では少なからず客入りが良くなって、気が散ってしまう可能性があるから選んだ。


最初の十五分ほどは暇つぶしだしお金も払ったしとストーリーを追ってみたが、王道過ぎて使い古された設定、ストーリー、極め付けは有名映画のパロディの乱発や単純にカメラワークが悪すぎるという理由から視聴を止め、目を閉じて寝ようとした彼女の横に、誰かが座る。



「……ウェスト、さん?」


「お久しぶりです、水瀬遥香さん。見ないのですか?」


「見ない。詰まんないし」


「え」


「え?」


「お、面白く、ないです、か……?」


「あ、好きだった? ゴメンね。別に好きな人を否定する気はないよ。あー、アタシの好みじゃない、って奴」


「そうですか。良かったです」



 それは、如月弥生のマジカリング・デバイスであるウェストだ。その知的な眼鏡と合わせてスラリとした大人の女性という風貌をした、言ってしまえばベネットとは百八十度方向性が違う美人。


しかし、そんな彼女の印象を覆すように、大きなポップコーンとコーラをトレイに乗せて現れ、映画視聴中に横でボリボリズゾゾゾと音を鳴らされて、別にしっかり見ているわけでは無いのに視聴を邪魔されているような気がして(これが映画館で嫌われる奴かぁ)という感想を抱いてしまう。



「なんか、意外かも」


「何がでしょう」


「ウェストさんって、何にでも『興味ありません』みたいな態度する人かと思ってた」


「人ではありません、マジカリング・デバイスです」


「でもこうして好きな映画があったり、映画を面白いと感じる心があんじゃん。それってさ、人と何が違うの?」


「肉体の構成が人間とは異なります」


「人間の外見だって中身だって、頭のテッペンからつま先まで同じ人間なんかいないじゃん。そりゃ共通する所の方が多いだろうけどさ。要は機械か人間かって違いだけ。何かを感じる事の出来る心を持ってるなら、それはどんな形であれ人っしょ」


「役割も異なります。我々マジカリング・デバイスは、あくまで使用者を魔法少女へ変身させ、そして戦う者をサポートする事が役割です」


「じゃあ、人間の役割って何?」


「それは……私に答える事は、難しいですね」


「人間ってさ、そりゃ制約はいっぱいあるけど、なんでもできるよ。マジカリング・デバイスじゃなくても、魔法少女をサポートする笹部さんみたいな人もいるし、中には自分の役割も持たずにただ安穏と生きて何もしないニートもいるし、アタシみたいにただ自堕落な生活を送るバカもいる」


「マジカリング・デバイスには、そういった選択肢がありません」


「あるよ。現にベネットは今、一人の人間として生きてる。まぁアタシの事をサポートするって目的は変わんないけどさ、でもそうしたいって選んでくれて、結果としてそうなっただけ」



 こんな世間話をしていると、周りの客に迷惑がかかるんじゃなかろうかと思った遥香だったが、しかし周りを見渡しても、遥香とウェスト以外に客はおらず、ただ会話の声とウェストがポップコーンとコーラを食す音が、大音量の映画によって遮られるだけで、誰も聞いてはいない。



「……水瀬遥香さんは、子供の頃からそうして広い視野を持ち、誰かの事を慮る事が出来る子供でしたね」


「はは、それを弥生ちゃんとか笹部さんに言われたらスッゲー怒ってると思うのに、ウェストさんに言われたらなんか、嬉しいかもしれない」


「私は貴女に感謝しています。子供の頃、貴女は私以上に機械的だった弥生と共にいて、人らしい心を与えてくれたのです」


「大したことはしてないよ。弥生ちゃんは元々何も知らない、それこそ本当に子供だっただけ。だからアタシって友達を得て、何かが変わったんだとしたら、それは元々彼女に備わってた心や人格なんだと思うよ」


「そろそろ映画も終わりますし、この後少し、お付き合い願いませんか?」


「ウェストさんはアタシの事」


「ええ。貴女の過去を知っています。ベネットから『遥香さんの事は放っておいて下さい』と頭を下げられました」


「ベネットが?」


「ええ。私達マジカリング・デバイスは、秋音市程度の広さであれば互いの存在認識及び通信が可能ですから」



 ポップコーンの入った容器を傾けて口の中に残りを全部流し込み、口に残る油を洗い流すようにストローからコーラを吸い込む瞬間の力が強すぎてか、コーラの容器はシュゾッという音と共にベッコリとへこんだ。



「この映画よりは、面白い所に連れてってくれるの?」


「どうでしょう。私の好みではありませんが、それでも貴女に興味を持って頂けるとは思っています」


「学ぶの早いじゃん。流石マジカリング・デバイス」



 スタッフロールも終わり、ウェストと共にシネマ座秋音を出た遥香は、彼女の手に引かれるまま、昭和の時代に多く作られていそうな古びた喫茶店に入る。


アイスコーヒーを二つ頼んだウェスト。店員の老婆がアイスコーヒーを二つと、つまみのようにピーナッツの乗せられた小皿を置いて店の奥まで行き、新聞を広げた所でウェストがタブレットを取り出した。

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