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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第二章-b
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【2018年9月17日-04】

 男の頭上を通ってコンクリートの地面へと着地し、運動エネルギーにより着地点から僅かにスリップしながらも、男の前で止まった。


突然の出来事に、男は「うひゃ」と素っ頓狂な声をあげたが、しかしマジカル・カイスターは、彼の言葉などは聞いていなかった。



男の身長は百七十センチはあるだろう。


対してマジカル・カイスターの身長は、当時はまだ百五十二センチ程。


大の大人に、子供であり少女である遥香が、腕力でも体格でも敵う筈はない。


だが、彼女は魔法少女となり、その身体能力は遥香そのものの比ではない。


強く、素早く振り込まれた拳の一撃は男の頬にめり込み、吹き飛びそうになる前に男の胸倉を、殴った手とは反対の手で掴み、グワンと揺れる頭部に向け、今一度右手の拳を振るった。



「が、ぐ」



 男はそんな声しか漏らさなかった。


だが、マジカル・カイスターには、彼へまだ聞かねばならぬ事がある。



「貴方が、パパとママを殺したの?」



 短く訪ねると、男は頭部より血を流しながら目から涙を溢れさせ「許ぢて、ごめんなざい」と、懇願するように言葉を発するだけ。



マジカル・カイスターが聞きたい事は、そんな言葉ではない。


胸倉を強引に引き寄せた後に、ブンと腕を振るって彼を投げ飛ばす。


逃げられない様に彼へ歩み、足音を聞かせて男を威圧すると、後ずさりながらも恐怖から疾く逃げる事が出来ずにいる。



「答えてよ」


「こ、殺しました、俺が殺しましたっ」



 後ずさりながら、命乞いのように声を荒げ、許してくれと願う男に、カイスターは続けて質問を口にした。



「何で殺したの?」


「だ、だって、俺はこんなみじめな生活してんのに、この辺の奴らぁ、幸せそうなツラしやがって、って思ったら、ちょっと位、金盗ったっていいだろ、って!」


「何で殺したか聞いているんだけど」


「こ、殺すつもりはなかった! でも、物漁ってる時、女がいきなり大声で叫んできたから、思わず、用意してたナイフで刺しちまって……っ、男が続けて入って来たから、こりゃ殺さなきゃって、頭真っ白になって……っ」


「知ってる? ママのお腹にはさ、赤ちゃんがいるって」



 男は、そこで目を見開いてカイスターを見据え、信じられないと言わんばかりの表情を、彼女へ向ける。


だが、そんな彼の表情こそ、カイスターを嫌悪させる表情だった。



「アタシの妹。後数か月もしたら生まれるんだって、名前は何にしようねって、今日の朝もそんな会話をしたんだ」


「し、知らなかった、知らなかったんだよ」


「ふ……ざけんなよ……幸せそうなツラって何だよ……みじめな生活って何だよ……殺すつもりはなかったとか、知らなかったとか、何なんだよォオオ――ッ!!」



 何時の間にか手に備えていた剣を手に取ったカイスターは、まず男の右腕、その二の腕から切り落とした。


皮膚、肉、筋肉、骨、それらを切断した刃と、あまりに一瞬の事で、痛みの伝達が遅れた男が、一秒ほどの時間を有して絶叫する。


痛い、痛いと。



「ふざけんな、ふざけんなふざけんな、ふざけんなよ、死ねっ、お前が死ねっ、アタシのパパやママや妹の代わりにお前が死ねっ!!」


「あ、ああああっ!! いた、いだい、イダイイッ!!」


「痛めよ、死ねよっ、死んじまえよッ!! お前は絶対に許さない、お前が死んでも許さないっ!! どんだけでも殺してやる、どんだけでも痛めつけてやる――ッ!!」



 刃を腹部、胸部、肩、股間、両足と突き刺していきながら、カイスターは呪詛を吐き続けていく。


男の泣き叫び、苦しむ顔がもっと見たいと、僅かに笑みを浮かべる。



もっと、もっとだ。



もっと苦しんで貰わなきゃいけないと、彼女は残る左腕も切り落とす。



すると、男は動かなくなった。


しかし彼女は、それでも滅多刺しを辞めなかった。


死ね、死ね、死ね、と。


恨みの言葉を吐き捨てながら、男の皮膚を、肉を裂いていく刃の結果を見つつ、狂喜の笑みさえ浮かべた。



そうした時、ようやくベネットがカイスターの変身を強制的に解き、人型形態へ姿を変えた後、彼女の身体を抱きしめ、止める。



「もう止めて下さい遥香さんっ!!」



 しかし、それでもベネットの身体を突き飛ばして、死んだ男の胸倉を掴んで、頬を殴り続ける遥香。


死んでいるとは言え、人間の顎骨に拳を叩き込み過ぎて、右手の感覚が無くなれば、左手で男の顔面を殴り続けた。


男の首の骨はとっくに折れているから、首がブランブランと動くので狙いにくいと感じ、男の薄い髪の毛をむんずと掴んで、頭の位置を固定して、殴る。


再び、ベネットが遥香へ抱き着き、彼女の動きを制しようとしたが、しかし遥香は舌打ちと共に大声で「変身ッ!!」とだけ叫ぶ。



またも、彼女の意志に反してスマホ形態へと姿を変えるベネットと、マジカル・カイスターへと変身した遥香。


遥香は二振りの刃を男の腹部と胸部に突きつけると、グッと歯を食いしばりながら力を込め、衝撃波を放って、男の身体を粉々に吹き飛ばしたのだった。



呪詛とうねり声を上げ続けた彼女は疲弊したように息を吐き、呼吸を整える。


そんな彼女の変身が再び解かれると、ベネットが膝を折り、地面を這いずりながらも、しかし遥香の事をまた抱きしめ、ギュッと力を籠める。



「遥香さん……ごめんなさい、ごめんなさい……っ」


「ハァ……ハァ……っ」


「アタシが、もっと早く、止めてれば……、こんな、事には……っ」



 グズグズと泣き始めるベネットの言葉に、遥香はそこでようやく、我を取り戻したように目を開き、彼女の手を取り、小さく言葉を連ね、尋ねる。



「ねぇ。パパとママは」


「……死んじゃっています」


「妹は」


「死んじゃってるんです……っ」


「あの男は」


「死んじゃったんです。いえ、殺しちゃったんです……っ、アタシの……アタシの、力で……っ」



 涙を流し続けるベネットの言葉には、偽りがある。


否、偽りではない。真実ではあるが、足りないのだ。



ベネットの力とは、人間に使われる事で、魔法少女へと変身する者がいる事で、初めて発揮される力だ。


確かに力そのものであるベネットが、男を殺したという事実は、間違いではないだろう。



しかし――その力を振るった、遥香が男を殺したのだと、その事実だけを、ベネットは頑なに認めなかった。



――私が殺したのだと。


――遥香は殺していないのだと。



「アタシ、アタシ……人、殺したんだ」


「遥香さんじゃありませんっ、アタシが、アタシが殺したんですっ! だから」


「ごめんね、ベネット。アタシ、ベネットを使って、人を、殺して……そんな事して、ゴメン……ゴメン……ッ!!」


「謝らないで下さい……謝らないで……っ」


「ヤダ……もうヤダよぅ……っ、どうして、こんな事に……っ!!」

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