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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第二章-a
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【2010年9月16日-02】

 学校で授業を受けている間、ずっと考えていました。


アタシは、小さな頃からパパに「暴力はいけないよ」と教えられてきました。


ママからは「喧嘩ならドンドンしろ。けれど弱い者イジメをする奴は最低だ」と教えられてきました。



今までは、その言葉だけが正しかったんです。



暴力はいけない、イジメはいけないなんて、子供から大人までが知っていないといけない事です。


それに、女の子なんだし、もっと優しいお姉さんにならないと、何て事を、心のどこかで考えていた事も確かでしょう。



けれど、アタシは昨日、死にかけました。



レックスに襲われ、もう少しで殺されてしまうと自覚した時に、死にたくないと涙し、戦わなきゃ殺されると考えた事は、本当にあった出来事です。


アタシは、その感情が怖かったんです。


やられたらやり返す。


人からしたら当たり前の事なのかもしれませんが、アタシにとって、そんな感情を抱く事自体が恐怖の対象で、自分が、自分の持つ力が、恐ろしくなってしまいました。


だからアタシはママに聞きました。



どうして暴走族という人になったのか。


どうして喧嘩をするのか。


アタシが喧嘩をしたら怒るのか。


そしてパパにも聞きました。


アタシが喧嘩をしたら怒るのか。


やり返したら駄目なのか。



二人は、そんなアタシの気持ちを、完全には知り得ないと思います。


もしかしたら何か隠し事をしている、程度の事は分かっているのかもしれませんが、そんな魔法少女として、レックスなんて怪物と戦うみたいな展開は、誰も予想をしていないと思うんです。


そんな、曖昧な事しか問えないアタシに、二人は真剣な言葉で返してくれました。



――遥香が喧嘩をするんなら、何か理由があるんだろう? と。


――人間同士は、誰かが何かを言って、それに対して言葉を返す事で、理解や誤解を深めていく、と。


 

アタシには、一つ夢があります。


それは『素敵な大人になる』事です。


でもアタシには、どんな大人が素敵な大人か、まだちゃんと理解できていません。


パパやママがアタシにしてくれているように、しっかりと自分の子供へ教育させる事が、立派な大人なのでしょうか?


それとも、そんな事とは別に、何か志しの様なモノを持つ事こそが、大人なんでしょうか?


アタシには、まだ分かりません。


けれど、分からないからこそ、どんな道にも進むことが出来るように、しっかり勉強をして、自分の目指す素敵な大人になろうとしています。



アタシが昨日変身した魔法少女という存在は、暴力を振るいます。


それは、確かに自分自身を守る為の力でした。


けれどベネットは、その力を『誰かを助ける為に振るって欲しい』と頼んできました。


自分自身を守る事で精いっぱいな女の子に、そんな無茶な事を言うなと思うんですが、けれど、アタシが魔法少女として戦えば、アタシのように恐怖する人を一人でも多く救えるんじゃないかと思うと、迷います。


 だってそれは、素敵な大人のようではないですか。


弱きを助けるヒーローという存在であったり、そうでなくとも誰かを守りたいとする信念は、確かに格好いい、素敵な大人のようではないですか。



……でも。



「アタシは、パパの教えに背いてまで……正しくその力を、振るう事が出来るのかな?」



 ただ、それだけが恐ろしいのです。


パパは、きっと分かってくれるんです。正しく力を振るえば、誰かを守りたいという想いを話せば、きっとわかってくれます。


ママも、きっと分かってくれるんです。というより「良いぞいいぞドンドンやれやれ」とむしろ煽ってきそうなのが厄介です。


まぁ、話す事なんて出来ないんですけど……それでももし、いざ話す時がやってきたとしたら、二人に顔向けできない事だけは、したくありません。


だから、精いっぱい、考えないといけません。


これはアタシが、託された選択なのだから。



何時の間にか授業も終了し、もう帰宅の時間となってしまいました。


何時も通り学校で一時間近く予習と復習を行って、教室のカギを職員室に戻してから、帰ります。これ以上遅くなると先生に怒られちゃうので、仕方なくです。


秋音小学校から歩いて十五分の所に図書館があります。通常の図書館とは違って閉館時間が午後六時までと長いので、アタシは閉館時間まで勉強をしてから帰る事にしました。


その道を歩きます。


何時も通り、けれど今日は悩みを抱えながら。



――そんな時でした。



そろそろ日が落ちる夕方の時間帯、会社のオフィスや居酒屋さん等が集中するオフィス街の裏通りを通って、近道をしていた時。


目の前から、全力疾走で走ってくる、大人の女性が一人。


髪の毛を乱し、スーツのスカートも若干めくれています。どうしたのだろうと思ったら、女性はアタシの肩を強く掴んで「逃げてっ」と叫んだのです。



「え、あの」


「逃げてっ! 私にもよくわからないんだけど、黒いケモノが」



 言葉の途中で、女性はアタシの身体を抱き寄せ、身体を前に倒しました。


倒れる体、コンクリートにぶつかり、痛みを感じます。


けれど、女性はそんなアタシに気を遣う暇もなく、ただ抱き寄せたまま、走り出します。


そんな彼女の後ろを、何かが狙っている様子が、非常口を示すネオンの光に若干照らされて、見えたのです。


その漆黒というべき影を、犬や狼に似せた、異形の姿。



――レックスだ。



先日、アタシを襲った謎の存在。


魔法少女が、倒さなければならない存在。


しかしベネットは家にいます。今はそれへ対応する術もありません。


そんな事を知らず、また知っていたとしても、女性は足を止めません。足を止めれば、それ即ち死と、本能で知ってしまっているのでしょう。



自分が死ねば、腕に抱えるこの少女も――と。


……守らなきゃ、と。


 自分の命だけじゃなくて、見も知らない、ただの小さな子供を守る為に、と。




アタシの胸に、何か小さな意志のようなモノが灯りました。


女性がヒールで走りにくかった足を崩し、倒れてしまった事によって、アタシはお尻から地面に落ち、女性は顔面を強く打ち付けてしまいます。


すぐに起き上がって、アタシを抱えて逃げようと、女性が顔を上げますが、レックスは既に地を蹴って跳び、今にも女性へ、襲い掛かかろうとしていました。


女性は、恐怖で表情を変えて、叫び声を上げようとした、その寸前。



「う――りゃぁあっ!!」



一手早く、アタシが近くにあった鉄パイプを横薙ぎに振り切ると、レックスの身体を強く殴打し壁に叩きつけられた事によって、女性は助かりました。


アタシがすぐに駆け寄り、女性の意識を確認すると、女性は気を失っています。



――あまりの恐怖に身をすくませながらも、アタシを守ってくれた、優しいお姉さん。



名前も知りません、どんな人かもわかっていません。



けれど――守らなきゃいけない人だって事は、知っています。



レックスと向き合い、アタシに出来る精いっぱいの睨みを効かせて、女性とレックスの間に、立ち塞がります。



――こんなのの為に、優しさに溢れた人を、殺させてたまるか。


――皆に笑顔で、いて欲しい。


――だからッ!!



「ベネットッ!」


「遅れてすみません、遥香さんっ!!」



 空から突如として現れたベネット。


彼女は人型形態で、立ち上がろうとするレックスの頬に一撃の拳を振り込むと、コンクリートで固められた壁に亀裂が走ると共に、めり込んでいきます。



しかし、レックスはそれでも消えません。



アタシが――魔法少女が、倒さなければ。

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