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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第二章-a
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【2010年9月15日-06】

 2010年9月15日


アタシ……水瀬遥香は、レックスという怪物に襲われ、命を落としかけました。


そんな時にアタシを助け「この力でアタシの代わりに戦って」と神さま……菊谷ヤエさんがお願いしてきて。


今、アタシの部屋を興味津々と言った様子で物色する、綺麗なお姉さんを渡してきたのです。



「なんですかコレー! わ、カワイイ棒ですね。え、ペン? あ、こっちの湯呑もカワイイです! え、ペン入れ、ですか? 人間はこのペンって棒を飲むんです?」



 女性はベネットと言って、マジカリング・デバイス――アタシを魔法少女へ変身させるために必要な機械なんだそうです。


けれど、魔法少女として戦う為には情報共有が不可欠なので、ベネットは社会に紛れる為の人型形態と、アタシが魔法少女として変身する為のスマホ形態の二つを使い分けるそうなのです。



「えっと、ベネットさん?」


「ベネット、と呼び捨てで良いですよ遥香さん! これからよろしくお願いしますっ」


「あ、うん……」



 最初に手渡された時はただのスマホだと思っていたのに変形して人型になった時は驚きましたが、何か騒がしい人だなとは思います。



「遥香? 何騒いでんの?」



 コンコンとノックの音と共に、ママの声が聞こえます。アタシは急いでベネットへ(隠れてっ)と指示し、彼女も笑いながらスマホ形態へ変身した後、アタシのポケットに入り込みました。


 部屋のドアを開けてくるママ。


ママは喫煙者ですが、アタシが生まれてからは定期的に禁煙しているらしく、今は累計十七回目の禁煙期間中らしいです。口には野菜スティックがあり、口寂しい時に食べています。



「んん? なんか話し声みたいなの聞こえたんだけどな」


「き、気のせいじゃないかなぁ? あ、英語のリスニング勉強してたし、それかも」


「あー、そう言う勉強系はホント感心するよ。子供の頃なんか遊んでりゃいいのに」



 ザ・優等生と言った感じのパパとは対照的に、ママは基本ザ・ヤンキーみたいな感じです。実際パパに聞いた所「ママは元ヤンキーだからね」と笑って、ママは「ヤンキーじゃなくて暴走族だってば」と言っていました。



「それよりご飯だよ。下降りてきな」


「パパは?」


「今日は夜勤だからね。朝に帰るってさ」



 リビングへ降りると、ママ特製の中華料理が机にはありました。良く知りませんが、中華料理屋の満開全席ってこんな感じでしょうか?



「ママ、パパの帰りが遅くなって、寂しいの?」


「んなわけないじゃん。思わず作っちゃっただけ」



 パパ曰く「ママは気に入らない事や苛立ちを料理にぶつけるタイプ」らしく、ママの作った料理の品ぞろえで、その日の機嫌を確かめるそうです。なので今日の機嫌はあんまりよろしくないかも。


アタシは食べきれないと思いつつ、ママの作った美味しい料理の数々を味わい、ママへ問います。



「ママって、喧嘩とかした事、ある?」


「んー、アタシは遥香と同い年位の時から喧嘩ばっかだったかな。同級生の男子でアタシに敵う奴ぁ、誰も居なかった」


「それでよくヤンキーじゃないって言えるよね……」


「望んで喧嘩してたわけじゃないんだよ? 周りの男子がうるせーから拳で黙らせてただけ」


「何時から、その……暴走族? になったの?」


「あぁ、それは高校生の頃だね。単車の免許取ってマフラー改造して良い音鳴らすようにして、街中走り回ってた」


「それってヤンキーじゃないの?」


「ヤンキーじゃないよ。アタシは走るのが好きなだけだったし。でも突っかかって来る奴がいたし、喧嘩売られりゃ買ってたよ」



 と、そこでママは「そう言えば写真あったね」と席を外しました。二階に上がって写真を探しているみたいです。



「美味しいーっ」



 そんなママのいなくなったリビングに、突如として人型形態へ戻ったベネットが、お箸片手にママの作った料理を食べていました!



「あ、勝手に!」


「え、あ。ごめんなさい! 美味しそうで、つい……」



 えへへ、と笑って謝ったベネットに、アタシは「もう」と呆れつつも、しかし本当に美味しそうに食べるので、ママが帰って来る間まではいいかと、見届けます。


 ママが階段を下りてくる音がしたので、ベネットは残念そうな表情を浮かべつつ、スマホ形態へ再度戻って、アタシのポケットへ。



「ん? 結構食べたね。お腹減ってたの?」


「あ……うん。美味しくてつい」


「ふーん。遥香も成長したねぇ、パパに似て小食になったらどうしようと悩んでたけど」



 ママはアタシに一枚の写真を差し出してきました。


すっごく大きなバイクにまたがる、パンチパーマをかけた女性の姿が。これママ!?


 今のママはアタシと同じ茶色の髪の毛を下したロングヘアで、落ち付いた女性って感じなのに!



「母ちゃん……あー、遥香のおばあちゃんが持ってた漫画で、走り屋の漫画があってね。アタシはそれに憧れてそんな髪型にしたの。いや、あの頃は若かったなぁ」



 明らかに1970年代の不良と言った姿に驚きつつ「こんな人周りに居なかったんじゃ……」と考えますが、ママは流行とか考えない人なので、多分周りから浮いていても気にしていなかったのでしょう。ちなみにママは現在三十歳なので、1980年生まれです。



「あの頃はパパを後ろに乗せて色んな所行ったなぁ。パパが『飛ばし過ぎ飛ばし過ぎっ!』って後ろで騒ぐから一発肘打ち入れてやった事もある」


「パパとは何時知り合ったの?」


「パパとは……中学の時だね。喧嘩してたらいきなり怒鳴ってきたよ。『女の子が乱暴するんじゃない!』みたいな。気に食わなかったからぶん殴ってやったけど、以降付きまとってきてさぁ」


「パパ、その頃からママの事好きだったんだ」


「じゃねぇのぉ? まぁママは、この通り美人で魅力溢れる女だったしぃ、アイツがどうしてもって言うから結婚もしてやったしねぇ」



 ニマニマと笑いながら語るママですが、パパに以前聞いた所「ママは寂しがり屋でね、パパが一年間アメリカ留学してた時は寮まで乗り込んできたよ」と言ってた事を思い出し、何だか微笑ましくなって、笑ってしまいます。



「で、何でいきなり喧嘩の事なんか? あ、もしかして同級生と喧嘩する気か? やっちまえやっちまえー。相手の親が何か言って来たら親同士も喧嘩だ乱闘だパーティだ」


「う、ううん! そうじゃないんだけど」


「なんでぇ、ツマンナイの」


「……でも、例えばそうだね。アタシが喧嘩しても、ママは怒らないの?」


「あー、場合によっては怒るよそりゃ。例えば遥香が弱い者いじめしてたりすりゃ、一生飯抜きだね」


「それヤダ!」



 ママのご飯は美味しいので、一生食べられないなんて耐え切れません!



「でもアンタはそう言う子じゃないっしょ? 遥香が喧嘩するなら、それ相応の理由があるんだろうって、ママも分かってる。だからママは、何時だって遥香の味方をしてやんなきゃね」



 自分で言っていて気恥ずかしくなったのか、ママは少々赤くなりながら「お風呂の用意してないっけ」と、お風呂場まで行ってしまいました。



(お母さん、優しい人ですねぇ)



 頭の中に、直接ベネットの声が響きます。スマホモードだとこんな意思疎通方法らしいのですが、あんまり気にならない所が不思議です。



「……うん。自慢のママだよ」



 ベネットが食べて、もう半分になってしまった料理を頂きます。


少々冷めてしまってますが、ママの料理は最高に美味しいんです。



 **



「では、また一から説明しますね!」


「うん。ママ寝てるから静かにね」


「はーい……それでは……静かに……」


「そこまで声沈めなくていいと思う」


「はーい」



 夜も更けて深夜零時になってしまいました。


アタシはお風呂にも入ってパジャマも着て歯も磨いて、寝る準備万端にも関わらず、眠たい眼を擦りながらもベネットの話を聞く事になりました。


 ベッドに腰かけたアタシの隣に座ったベネットが話してくれる内容は、恐らくアタシの疑問を全て解決する内容なのでしょう。



「アタシは、魔法少女である遥香さんと一緒に戦う為のマジカリング・デバイスです」


「うん」


「だからこれから一緒に戦いましょーっ!」


「端的過ぎるっ!」



 いや、言いたい事はわかるんです。


アタシが所謂、魔法少女として戦う為の力、ベネットを授けられたので、この街にいるレックスという怪物と戦ってほしい、って意味はわかります。



「それだけで十分です! アタシはそんな遥香さんと一緒に戦う為に生み出されたのです!」


「……でも、そんな事を、アタシが、出来るかな」


「実際に遥香さんは一度レックスを倒してますっ! だからこれからも、一緒に戦ってくださいっ」


「なんで、アタシなの? アタシじゃなくて、大人でもいいじゃない。……アタシは、普通の小学三年生なんだよ? なのに」


「? そりゃ遥香さんじゃなきゃ絶対にいけない理由なんてないですよ?」



 お前は何を言ってるんだ、と言わんばかりに首を傾げたベネットの言葉に、アタシは何故かムカッと来ちゃいました。



「じゃ、じゃあ別にアタシじゃなくて、他の女の子の所に行ってよ! アタシじゃなきゃいけない理由が無いなら、アタシが戦う理由もないしっ」


「な、なにいきなり怒ってるんですか遥香さん!?」


「別にっ!」



 近くの枕でバフバフとベネットを数回叩いた後、ぷいっと顔を逸らしてそのままベッドに入ります!


温かなベッドと急激に訪れる眠気に勝つことが出来ず、アタシはそのまま夢の世界まで入っちゃいます。


――本当にどうでもいい事が気になったんですけど、ノンレム睡眠とレム睡眠の違いって眠りの深さなんですよね? でもたまに眠った瞬間に夢を見始めて、夢が終わったと思ったらすぐに起きるみたいなのって、ノンレム睡眠に入っているんでしょうか? もし入っていない場合、体とか脳の疲れってとれてるんでしょうか? それとも夢見ている分脳に刺激が行ってしまい、逆に疲れるとかもあるのかな?


みたいな、無駄な事を考える位には、意識が遠ざかったみたいです。



「遥香さん、気に障ったなら、ごめんなさい。でも、これだけでも言わせてください」



 もう、ベネットの声も、半分虚ろにしか聞こえません。



「遥香さんじゃないといけない理由なんてありません。でも、遥香さんじゃ駄目な理由もありません」


「……そんな、適当な、事……言っても……」



 なので、どうしても返答も虚ろになります。



「遥香さんは、いつでも戦いを辞めて構いません。遥香さんには、選ぶ権利があるんです。


 ……選ぶ権利もなく、戦う事を強制される方が、アタシだったらよっぽど地獄だと思うんです。


だからこそ、義務じゃなくて、責任感じゃなくて、遥香さんが、正しいと思う事を、して欲しいんです。


きっとヤエさんは、優しくて、正しさを理解できる遥香さんだからこそ、アタシを授けたんだと思います。


――力っていうのは、使い方を間違えれば、どんな悪行だって成す事が出来てしまうのですから」



ベネットの言葉は、この言葉を最後に、聞こえなくなりました。

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